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それぞれの水着

「ま、ここだろうなって予想してたよ」


「平日の昼間で来るとしたらここしかないだろ。何かと交通の便も都合いいし」


 優奈たちと教室で別れた俺たちは、その足でハウォーレに訪れていて、今はフードコートで遅めの昼食を食べていた。


 斗真はハンバーガー屋で注文した店内でNo.1人気のスーパーバーガーとポテト。パティとチェダーチーズのように色が濃いスライスチーズが何段も積み重なっていてそれをバンズで挟んだボリューミーな一品である。

 俺はカレー屋で、夏限定となっていた夏野菜カレーを食べていた。夏の野菜をふんだんに使用していて、通常のカレーよりも香辛料を多く使用しているので少し辛いが、食欲がそそられる。


「それで、俺たちはこれからどこに向かうんだ?」


 僅かに額に浮かんだ汗を拭って、目の前で大きなハンバーガーを口一杯に頬張る斗真に尋ねる。

 しばらく咀嚼して飲み込んだあと、口元についたケチャップをナプキンで拭う。


「良くんよ。今の季節は?」


「夏」


「じゃあ行く場所は一つしかないっしょ」


 若干のキメ顔でそう言った斗真に、俺はここで初めて今日の目的を理解することができて、なるほどなと納得する。


「良介も今年は行くんだろ?天野さんと」


「そのつもり。優奈とも行こうって話してるし」


「天野さんの水着姿を見られる男なんてそういないぜ。男子からいろんなことを聞かれると思うぞ」


「聞かれるって……例えばなんだよ?」


「そりゃお前……胸とかお尻のサイズとか」


 聞いた瞬間、口に運ぼうとしていたスプーンの手が止まって斗真に視線を送る。


「もうちょいオブラートに包めよ」


「どうやってオブラートに包めばいいか教えてくれよ。あとその殺し屋みたいな目を向けるのはやめて。めっちゃ怖い」


「……殺し屋みたいな目してた?」


「写真撮って見せてやろうか?」


 斗真は背筋を凍ったかのように身体をわざとらしく震わせる。俺自身そんな自覚はなかったのだが、言われてみればいつもよりも目元に力が入っているような気がする。


 普段から人目を引く美貌の持ち主の優奈が水着姿になれば、俺もその姿に心を奪われるだろうし遊びに訪れている人達の視線も少なからず向けられることは想像つく。

 だが、中には下心丸出しの変な輩だっているかもしれない。そんな視線が優奈には向けられたり、興味本位で聞いてくる奴らがいると考えると少なからず苛立ちを覚えてしまう。


「斗真は……そんなこと聞いてくる男ではないと思ってるぞ」


「俺には梨花がいるんだぞ。水着姿は梨花のだけで十分。それに仮に聞いたのがバレてみろ。笑顔のまま一生口聞いてくれなくなっちまう」


「それもそうだな」


 瀬尾さんも何気に嫉妬深い。それだけ斗真に向ける好きな感情は大きいということで、斗真も自分が好かれていることは理解している。きっと彼らはプールという公共の場でもいつもと変わらず仲睦まじく過ごすのだろう。


「さて。腹ごしらえも済んだことだし早速水着を買いに行きますか」


「おう」


 食べ終えた俺たちは、お盆と食器を片付けてフードコートから出た。


☆ ★ ☆


 目的地である水着用品が揃っているお店に辿り着いた俺たちは、辺り一面にずらりと並んでいる水着たちに目を細めていた。


「良介ー。どっちが似合うと思うー?」


 斗真は二つの水着を手に取って、近くにあった鏡を見ながら自分に合わせていた。

 

 右手には燃え上がるような赤の水着。情熱的なそのイメージは運動部で活発な斗真にピッタリだ。

 左手には海のような深い青の水着。赤の水着とは正反対に知的な印象を与えて、爽やかな顔立ちの斗真をより一層引き立てるだろう。


「どっちも似合ってるぞ。斗真カッコいいから」


「どっちもは困るんだよー」


「斗真が買うんだから、最後は自分が決めたほうがいいだろうが」


「むー。ちなみに良介はどんな水着にするんだ?」


 唸りながら聞いてくる斗真に、俺はしばらく悩んだあとに一つの水着を手に取った。膝上丈のシンプルで無地な黒の水着だ。


「うわー。無難」


「なんだようわーって。こういうのは変に冒険せずに無難を突いていくのが一番いいの」


「良介ならもっと派手なやつでも似合うだろ。例えばこんなのとかさ」


 そう言って斗真が俺に渡したのは、ボタニカル柄の水着だった。ブルー系の色合いだが、斗真の持っている水着ほど深い青色ではなく、爽やかで涼しげと思わせる優しい色合いだ。


「いや、いいよ。俺はこいつにするからさ」


「いやいや。絶対にこっちの方が似合うって。もうなんなら二つ買っちまえよ!」


「なんでだよ!水着なんて一つあればいいだろ」


「一つは遊びに行く用で一つは勝負水着用みたいに分ければいいんだって!じゃあ俺も二つ買うからさ!」


「絶対に要らないような気がするんだけどな」


 そのまま斗真に流されるような形になって、サイズを確認したあとに、俺と斗真はそれぞれ二つの水着を買うことになった。


☆ ★ ☆


 同時刻――


 優奈と瀬尾さんは少し難しそうな目を向けていた。目の前にはビキニやパレオなどの様々な種類の水着が広がっている。

 

 彼女たちもまた、プールで着る水着を見にきていたのだ。


「こんな可愛い水着。わたしに似合うんでしょうか……」


 優奈も良介とプールに出かけるための水着をいつかは買いに行かなければと思っていたので、瀬尾さんから「水着を買いに行こう」と誘われたときはどんな水着でいいのか考えていたのだが、いざ目の前の水着を眺めていると、自信をなくしたかのように小声で小さく呟いた。


「天ちゃんは可愛いから何でも似合うよ。天ちゃんが着た水着なら柿谷くん絶対に喜ぶと思うよ」


「だといいんですけど……」


 ――優奈の水着姿が一番好きなんだよ


 優奈は良介の言った言葉を思い出した。

 そうは言ってもできれば彼が喜ぶものを着てあげたい。


「梨花さん。わたしあっちにある水着を見てきます」


「うん。また後で合流しようね」


 優奈は店内を歩き回りながら、並んでいる水着を見て回る。やがて、ある水着の前で優奈の足がピタリと止まった。


 (これを着たら……良くん喜んでくれるかな……)


 シンプルだがとても目が惹かれるデザインな水着だ。優奈も色合いが派手なものよりはシンプルなものを好み、また良介もそのような系統のものが好きなことは把握している。


 優奈は意を決して、それを手に取った。

 良介が喜んでくれることを信じて。


 とりあえず水着を変えたことに一安心した優奈は、瀬尾さんと合流しようと歩いていると、あの水着が目に入ってしまい、立ち止まる。


 途端に優奈の顔が真っ赤に染まる。優奈の今持っている水着が清純なイメージなものならば、その水着は全く正反対なものだった。


「何かお困りですか?」


 一人の女性店員が優奈の様子が気になってそう声をかける。


「い、いえ。そういうわけでは……」


 顔を赤くしたまま目の前の水着をじっと見つめる優奈の姿に、店員さんは優しく微笑みを浮かべた、


「この水着。最近SNSで話題になっているんですよ。なんでもこの水着を着たら彼氏が大喜びするって」


「そうなんですね……」


「なんでも悩殺できるらしいですよ」


「の、悩殺……」


「お客さんとても美人ですから、着てあげたら彼氏さんも喜ぶと思いますよ」


「喜んでくれますか……?」


「はい。必ず」


「で、でも水着を二着は……」


 優奈は既に購入する水着を決めているため、流石に二着目を買うだけのお金を今は持っていなかった。


「今、当店では期間限定で二着以上お買い上げしてくださったお客様には50パーセント割引になるキャンペーンを行っているんです」


「本当ですか?」


「はい。いかがなさいますか?」


「それじゃあ……」


 優奈はその水着に手を伸ばした。


「お待たせしました。梨花さん」


「うん。わたしもさっき終わったところ……天ちゃんなんか荷物多くない?」


 両手に塞がる紙袋を見て驚いたように瀬尾さんは言った。


「少し奮発しちゃいまして……」


「どう?満足の行く買い物はできた?」


「はい。とても満足できました」


 今から夏が待ちきれないようなそんな笑顔を優奈は見せた。

お読みいただきありがとうございます。


優奈が買った二着の水着。

それは夏休みになってからのお楽しみです。


補足ですが、良介はハウォーレで水着を買いましたが、優奈は別の商業施設で水着を買ってるので会うことはないです。

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