借りられた王子様とお姫様
六月もあっという間に終わりを迎えた。
暑さと熱さで今年も盛り上がった体育祭や、全員赤点を回避できた期末テストなどを終えて、残すは終業式となった七月中旬のこと。
「天野さん。急で悪いんだけどこのあと良介貸してもらってもいい?」
午前中で学校を終えてそれぞれが帰る準備をしていたときに斗真が優奈にお願いするように手を合わせている姿を見た。
「はい。わたしは構いませんよ」
「ありがと。じゃあ良介お借りするね」
二つ返事で了承した優奈に、斗真は爽やかな笑みをこぼした。真夏の太陽の日差しに顔と制服に覆われていない肘から下の肌はこんがりと焼かれている。そのせいで斗真が浮かべた笑みのときに見える歯がより白く見えた。
「斗真ちょい待ち。俺には何の一声もなしかい」
「だって良介。今日はバイトないんだから暇だろ?たまには俺とのデート付き合ってくれよ」
「お前もう二度と俺と遊びに行くときにデートなんて言葉使うなよ。夏なのに今背筋に悪寒がして仕方ねぇ」
「それは冷房のせいだろうな」
「さっきから冷房はついてんだよ。まぁ別にいいけどさ」
腕に立った鳥肌を手で擦って寒気を追い払いながら、俺は頷いた。斗真の行きたいところと言えばスポーツ用品かゲームセンターの二択だろうな。
「みんな何の話をしてるの?」
俺と優奈と斗真の三人の輪の中に、帰り支度を済ませた瀬尾さんが入ってきた。
「梨花。今日この足で良介と少し出かけてくるよ」
「これはまた随分と急に決まったね。分かった。……ということは天ちゃんも今日は一人で帰るの?」
「はい。そのつもりですよ」
「それならさ。わたしたちもお昼ご飯食べに行くついでに買い物に行かない?夏物の洋服とか欲しいしそれに……斗真くんいると買えないものもあるし……」
「ん?俺が何だって?」
「な、何でもないよ!」
後半部分になるにつれて小声になっていった瀬尾さんの言葉が聞き取れずに斗真は尋ねるが、瀬尾さんは慌てて両手を振って、気にしないでと言った。
「優奈、先に俺が帰ってきたら今日は俺が晩飯作るよ。何がいい?」
「暑くなってきましたからね……サラダうどんとか?」
「いいね。時期にピッタリだ。今日はそれにしようか。帰ったらライン入れておくよ。日用品はストックしてあるから問題ないと思うけど、何か買ってきて欲しいものとかある?」
「いえ。特にはありませんよ。わたしも先に帰ってきたらライン送って夕飯の準備始めてますから」
「うん。お願い」
教室で今日の夕飯決めと買ってきて欲しい物の確認をしていただけなのだが、斗真と瀬尾さんの視線が感じた。
「もう本当にやりとりが夫婦なんよね。天野さん。夕飯前には帰るから旦那さん連れてくね」
「本当にそうだよね。柿谷くん。お嫁さんの時間少しわたしがもらうね」
斗真のノリに、珍しく瀬尾さんも乗っかって俺たちを微笑ましそうな視線を送りながらからかった。
「だから夫婦じゃねぇ!あと旦那って言うな!」
「梨花さんも乗らないでください!それにお嫁さんって……」
お互い注意するが、優奈の表情は赤らんでいて少し嬉しそうにはにかんでいるように見えた。これ以上面倒なことが起きてしまう前に「早く行くぞ」と、斗真の背中を無理矢理押しながら、教室を出たのだった。
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今日の22時過ぎくらいにもう一話投稿しようと思います。




