過去最高得点
「いや。いくらなんでもこれはエグすぎんだろ」
中間テストが終わってしばらくした頃。
テスト順位が張り出されており、掲示板に運んでいた俺たちだったのだが、その結果を目にした斗真が驚いたように目を丸くすると、俺を見てそう呟いた。一緒に順位表を見に訪れていた純也たちも揃って頷く。
順位は一位であり、見事防衛に成功した。それ自体に彼らは驚いていたわけではない。むしろそれがもはや当然とすら思っている。二位も変わらず優奈がその席に座っている。
何に驚いているのかといえば、俺がテストで取った合計点数だった。これまでのテストは全て接戦を演じてきた俺たちだったのだが、今回は俺が優奈を大きく引き離していた。
優奈の点数が低かったわけではない。むしろこれまでのテストの中で過去最高点とも言っていいだろう。だがそれ以上に、俺も最高点を大幅に更新したのだ。
「テスト見せてもらったけど全教科九十点以上だったもんな」
「しかも数学は天野さんとダブル満点だろ?数学の先生頭抱えてたわ」
「今回の数学難しかったよな。天野さんに教えてもらってたから俺も七十点台取れたけど、教えてもらわなかったらヤバかったかも」
「良介は数学あんまり得意じゃない方なんだろ?なんで満点なんか取れんだよ」
「優奈に教えてもらったからな……」
そう言って視線を斗真たちから逸らして別の方向へ。その先には瀬尾さんたちと一緒に順位表を眺めている優奈の姿がある。
勉強会のおかげか、斗真たちの名前も上位に名を連ねていて、ここにいる真司や秀隆、向こうにいる平野さんたちも安堵して喜んでいるようだった。
「それに今回のテスト中、やけに顔色良かったよな。いつもは目の下に軽くクマ作ってんのに」
「追い込みもしなきゃだけどやっぱ睡眠とるのも重要だよね。集中力上がるし」
「まぁ……今回のテスト期間中はいつもよりはぐっすり眠れたかも」
「じゃあ授業中に眠れば次の授業に集中できるってわけだよな」
「そしたらその授業の態度は赤点だな。本末転倒じゃねぇか」
日曜日も優奈と勉強していたおかげで、数学は満点取ることができた。だがそれ以上に、勉強時間以外は散々甘やかされて癒されて、勉強する気力で溢れていた。
テストは進路に関わるということもあるので元々やる気はあったが、優奈にやる気をさらに上げてもらったような形なのだ。
優奈のおかげ……とは流石に言えないので、何か聞かれれば、日頃から勉強してるからと答えればいい。
「良くん」
こちらの姿に気づいたのか、優奈たちがこちらに近づいてきていた。
「今回も流石ですね。完敗です」
そう言って優奈は柔らかく微笑んだ。
それは学校で見せるような美しい笑顔なのだが、休日に見せた俺を甘やかすために見せた色っぽい表情が脳裏を掠めて、「どうも……」とだけ言ってそっぽを向いて頬を掻く。
俺が昨日のことを思い出したことに気がついた優奈は、俺の様子をからかうように小さく笑った。
「カッキー凄すぎー」
「今回も一位おめでとう。柿谷くん」
「ん。ありがと。みんなもな」
「ありがと!勉強会のおかげでわたしも自己最高得点取れた!」
勉強会はみんなにとって有意義なものになったようで良かった。
「よーし!これでまた部活に集中できるー!」
「だからって部活だけに集中しちゃだめだよ。勉強もちゃんとしなきゃなんだからね」
「テスト終わったばっかなのに……」
両手を突き上げて喜ぶ斗真だったが、瀬尾さんから厳しい言葉をかけられて、途端にシュンとした表情に変わる。
瀬尾さんの言う通り、今回だけ頑張るのではなく毎回頑張らなければいけない。最高点を取れたことに関しては俺も喜ばしく思っているが、明日からはまた期末テストに向けて、勉学に取り組んでいくつもりだ。
部活へと向かう斗真たちを見送って、教室には俺と優奈だけが残った。
「良くんは今日からまたバイトですよね」
「あぁ。休んだ分取り戻さないとな……」
今からバイトに向かうと思うと少し身体が重たく感じてしまうのだが、今後の自分のためにと思って身体と心に鞭を打つ。それに家に帰れば優奈が待ってくれているのだ。頑張る理由はそれだけで十分だ。
今日はいつもよりも少し早く学校を出たので、少しゆっくりとした足取りでアパートへと帰った。
お読みいただきありがとうございます。
優奈に甘やかされた翌日はどんな風に甘やかされたのか。それは皆様のご想像にお任せします。
ただ一つ言えるのはものすごーく甘い空間が広がっていたと言うことだけです。




