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甘えに甘えて甘え尽くして

 時刻は四時を少し回った頃。

 勉強会もお開きにして、俺と優奈は帰ろうとしていた斗真たちを見送ろうとしていた。


「二人とも、今日はありがとうな」


「あぁ。この調子ならみんな上位に入れると思うから、明日もちゃんと勉強して明後日からのテスト頑張ろうぜ」


「なんで母さんみたいなこと言うんだよ」


「優奈ちゃん。ご飯凄く美味しかったから今度遊びに行くときにまた食べたいかなー」


「はい。またぜひ遊びに来てください」


「それじゃあまた学校でな」


「ばいばーい」


 みんなが帰ったのを見送ったあと、家鍵を閉めて俺と優奈はリビングのソファーに腰掛けた。

 今の今まで勉強していたので、とりあえず一休み。勉強は夕食を食べ終えて少し休んでから再開しても問題ないだろう。


「さて。夕ご飯の準備をするにしては早すぎますし、二人でゲームでもやりましょう」


 ここ最近、優奈にはハマっているゲームがあって勉強の息抜きには二人でよく遊んでいる。ゲーム機はいつでも遊べるように繋いでいるので、コントローラーを撮りに向かおうと優奈は立ち上がろうとした。


 だが、それよりも前に俺は優奈の手首を掴んで優奈が立ち上がるのを止める。優奈は不思議そうにこちらを見つめていると、俺は優奈の身体を優しく抱きしめる、


「良くん?どうしたんですか?」


 優奈がそう問いかけてくるが、俺はそれに答えることはなく、ただ目の前にいる優奈の温もりを感じていた。


「今日は良くんが甘えん坊さんなんですね」


 穏やかな声が耳に響くと、トントンと背中を優しく叩かれて、よしよしともう片方の手で俺の頭を大切そうに撫でる。


 幸福感で溢れると同時に、さっきまで自分が嫉妬心を抱いていたことへの苛立ちも顔を覗かせていて。

 一旦優奈から離れて、俺は彼女の綺麗な瞳と向き合う。優奈はただ俺を慈しむかのような優しい瞳を俺に向けてくれていた。


「……ごめん」


「なんで良くんが謝るんですか?」


「優奈が純也に数学を教えていたとき、なんか嫌な気持ちになった。二人は仲も良いし勉強会だから仕方ないって分かってたけど……なんか優奈が取られそうな気がして……」


 優奈が向けてくれる想いはしっかり受け取っているのに、一瞬でもその想いが俺の中で揺らいでしまったことへの自分に向ける怒りがあった。

 疑ってしまったことへの罪悪感や、他にも色々と……


「確かに石坂さんや宮本さんや、白石さんたちはわたしにとっても大切なご友人ですよ。それも良くんが導いてくれた縁ですね。でも異性として、一人の男性として見ているのは良くんしかいないですから。ですから今からすることも良くんだけですよ」


 申し訳なさが全身に襲いかかってきている中、優奈が柔らかな笑みを見せると、両手を大きく広げる。


「いつもは抱きしめられる側ですが、今日はわたしが良くんを抱きしめてあげます」


 つまり、今から俺が優奈の懐に飛び込んで抱きしめられるということである。


「最近進路のことも色々と悩んでいるみたいでしたし、今日はたくさん甘やかしてあげます」


 お姫様の優しい言葉に脳が溶かされていく。ほんの少し、でも確実に距離が縮まっていく。その度に優奈の甘い香りが脳を刺激して、さらに脳の思考力を奪っていった。


「ほら。おいで」


 天使のような極上の笑顔と甘い囁きの前に、俺は完全に崩れた。優奈の胸元に顔を埋めると、そのまま優しく抱きしめられて、頭を優しく撫でられる。

 とても柔らかくて温かい。落ち着く優しい香りに包まれながら、服越しからトクントクンという鼓動が聞こえる。それは優奈が俺の側にいるという確かな証明であった。


 優奈の片方の手は俺の頭を撫でつつ、もう片方の腕は俺の肩に回して決して離れることがないように抱きしめられている。俺のこれ以上ない幸福感が全身から溢れ出していた。


「優奈……」


「はい。良くんの優奈はここにいますよ」


 愛おしい存在の名前を口に出せば、耳元で囁やかれてより一層強く抱きしめられる。吐息がこそばゆく感じてしまい身体を震わせると、クスクスと笑うような声が聞こえる。

 きっと反応が面白くて笑っているのだろうが、普段から優奈に同じことをしているし、今はそれ以上に優奈に甘えていたいので抵抗したり反論するようなことはせずに、ただただ抱きついていた。


「何かしてほしいことはありますか?」


 そんな甘い声で囁かれては脳が機能しないだろうと思いながらも、それでも必死に脳を回転させる。


「じゃあ……手を握ってほしいかな……」


「はい」


 優奈は肩に回していた手で、俺の手に触れる。最初はただ繋いでいただけだったが、徐々に優奈の指が隙間に侵入してきて指が絡み合う。いつもやっている恋人繋ぎになれば、お互いに離さないように強く握りしめた。


「普段からこれくらい甘えてくれたらいいのに。よしよし」


 優奈は髪を掻き分けて、額を露わにさせるとそこに口づけを落とす。顔は埋めている上に頭を撫でられているので上げることはできない。突然と額に触れた柔らかいものの正体がすぐに分かった俺は、恥ずかしさから身体が火照りだした。


「お耳まで真っ赤になってる。可愛い」


 悪戯っぽく呟きながら優奈は微笑んだ。

 優奈からこれでもかというほどの想いを受け取った。


 だけど……まだ足りない。全然足りない。

 もっと欲しくてたまらなくてどうしようもならないほどに好きが止まらなくなって、俺も優奈の背中に手を回して抱きしめた。


 少し力を入れて頭を上げると、蕩けた笑みを浮かべた優奈の顔が目の前にあった。顔の熱も引いていないことを自覚しながらも、俺は口を開く。


「優奈って……今日の夜は予定ある?」


「いえ、特には……ご飯を食べたあとは家に戻ってまた勉強でもと……」


「家に……泊まっていかない……?じゃなくて泊まっていってほしい……今日は優奈と一緒に過ごしたい……もちろん無理にとは言わない。俺の勝手なお願いだから。嫌だったら断ってもいいし……」


 すると優奈が小さく笑う。


「今日の良くんは本当に可愛いですね」


「可愛いばっか連呼するなよ……」


 そう言いながらも優奈が撫で続ける手を振り解かない俺も俺で、そう言われても仕方ないとは思っている。


「着替えとか色々準備してきますので、一旦家に帰ります。戻ってきたらまた存分に甘やかしてあげますよ」


 蠱惑な笑みでそう言うと、優奈は立ち上がって玄関へと向かう。玄関の鍵が閉まる音がすると、囁かれた魅惑の言葉や甘やかさせたことに、俺はとても嬉しく思うと同時に妖艶な表情を見せる彼女の姿が忘れられなくて、俺はクッションに顔を埋めて悶絶するように呻き声をあげた。


☆ ★ ☆


 ふと目が覚める。

 俺の身体は柔らかなベットの上で横たわっていた。何故か顔に温かくて柔らかな感触といい匂いに包まれていて、意識が覚醒していく中ゆっくりと顔を上げれば――


 そこには俺を頭を優しく抱きしめて眠っている優奈の姿があった。規則正しくて静かな寝息と鼓動の音が聞こえる。


 夕食のあとは一緒に勉強して、それぞれお風呂を済ませると、また夜遅くまで勉強してこうして一緒のベットで眠りについていたのだ。

 

 俺を抱き枕のようにして眠っている優奈は俺を離さまいと抱きしめている。決して息ができないほど苦しくはないのだが、なんせ優奈の胸元に顔が埋まっている状態で、自分が今どんな状況にいるのかと把握すると、途端に顔が熱くなる。

 とりあえず優奈を起こさないようにゆっくりと抜け出して起き上がると、スマホを手に取る。深夜の二時を表示していて、外の景色は暗く眠りについていた。


「……良くん……?」


 眠そうな声が聞こえて目を向けると、優奈が目を擦っていた。


「おはよう……って言ってもまだ深夜の二時だけどな」


 俺はもう一度ベットに横になると毛布を身体にかける。


「もう一度抱きしめてあげましょうか?」


「そしたら寝られなくなっちゃうよ」


「寝る前もそんなこと言ってましたね。でも良くんったら五分も経たずに眠ってしまったじゃないですか。まるで子供みたいな寝顔でしたよ」


 これほどまでに甘えたのは本当にいつぶりだろうか。抱きしめられると本当に安心して幸せな感情が心の器から漏れ出している。


 俺に寄り添りそってきて甘い微笑みを浮かべる優奈に、俺は優しく抱きしめる。


「まだ甘え足りないんですか?」


「うん……」


 頷くとゆっくりと目を閉じる。


「おやすみなさい。大好きです」


 再び眠りにつこうとしている俺に、優奈は髪を優しく撫でる。意識を暗闇に放り投げるまで優奈の小さな手の感触をずっと感じていた。

今回は珍しく良介がめちゃくちゃ甘える回でした。

たまにはこういうのもいいなーって思いまして。


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