お誕生日デート
「優奈。お誕生日おめでとう」
「ありがとうございます」
今日は優奈の誕生日で、産まれてきてくれたことへの感謝の言葉を伝えれば、優奈は満面の笑顔で応えてくれた。
本日の予定は全て優奈の立てたスケジュールで動くことになる。
今日は優奈が主役であり、一日俺の時間を優奈に上げるという誕生日プレゼントのため、荷物を持てば持つしおんぶしろと言われればおんぶする。とにかく優奈のお願いは全て応じる所存だ。
とはいえ、優奈の立てたスケジュールは当日までのお楽しみということで、今現在もどのような予定なのかどうかは分からない。
優奈からは着脱できる服装がいいとだけ言われたので、清潔感を意識した服装に襟付きのシャツを羽織っている。
優奈も優しい色合いでふんわりとした印象の服装の上からカーディガンを着ていて、出かけるときに身につける指輪も彼女の薬指にあった。
そして、シルバーリングのネックレスがお互いの首元を美しく飾っていた。
「髪、結んでるんだな」
料理や運動のとき以外は髪を下ろしている優奈だが、今日は髪を結んでいた。
ただ、ポニーテールというわけではなくサイドに髪を寄せて三つ編みに結んでいる優奈は、暖色の服と相まってふるふわな印象を与える。
「はい。似合ってますか?」
「うん。とっても。それになんか……大人の女性って感じがする」
いつも下ろしている髪のおかげで耳とうなじは隠れているが、今回は髪を寄せているせいで、優奈の耳とうなじを隠すものはなく完全に曝け出されている。
元々色気のある服を着たり髪型にすることはあまりない優奈ではあったが、今の髪型と十七歳になったことが要因となっているかどうかは分からないが、今日はやけに色っぽく見えて女性らしさを感じずにはいられなかった。
一つ思うところがあるとすれば、ただですら視線の集まりやすい優奈がこの格好で歩けばさらに視線が集まるのではないかということだけだった。
周りの視線、特に男の視線を感じれば俺が鋭い視線を送り返してやろう。
「ありがとうございます」
優奈は安堵したように笑みを見せると「それに……」と続けて、
「この髪型、良くんのためにセットしてきたんですから。良くんの視線以外なんて少しも興味なんてありませんよ」
「俺、何も言ってないよね」
「顔がそう言っていましたよ」
そう言ってくすりと笑うので、俺は困ったように苦笑を浮かべるしかなかった。だが、俺のためにそうしてくれたと言ってくれて、心が温かくなった。
「それに、良くんも髪型……」
優奈は少し頬を染めて呟く。
髪は軽くムースをつけてセットしていて髪を上げている。バイトのときのような爽やか印象を与える髪型にしている。
前は思わず顔を手で隠してしまうほど恥ずかしがっていたが優奈だが、今は顔を桜色に染める程度にまで慣れていた。
「まぁ、優奈にカッコいいって言われたいからな」
「どんな髪型でも良くんはカッコいいです」
「じゃあ普段の俺と髪を上げてる俺だとどっちがカッコいい?あ、どっちもはなしね」
どちらにしか選べない選択肢を提示して少し意地悪な笑みを見せる俺に、「うぅー」と優奈は困り顔で唸ってみせる。
「……髪を上げたほうが好きです……」
「ん。そしたら次からのデートも髪を上げよっと」
家にいるときは流石にやらないが、出かけるときはカッコいいと思われる自分でいたい。優奈は小さく頷いた。
「それで、今日はどこに向かう予定なんだ?そろそろ教えてくれてもいいと思うんだが」
「それは着いてからのお楽しみです」
「当日になってもギリギリまで教えないスタイルなのね」
服装の指定をしてくるあたり、おそらく室内だろう。五月にしては暑さを感じるが、それに伴ってショッピングモールなどの商業施設は空調が効くようになっている。
向かう方向に進んでいけばそれだけ目的地も絞れるので、移動しながら考えることにする。
俺はスッと手を差し伸べた。
本当は物語に出てくる王子様のように膝を床に付けるようなキザなものに憧れたりやってみたいと思ったのだが、外なので流石にそれはできなかった。
優奈は微笑を携えたまま、俺の手にそっと触れてその手を優しく握りしめた。
お読みいただきありがとうございます。
良介と優奈はどこにデートに行くのでしょうかね?
私事で申し訳ないのですが、今週は少し色々と忙しいもので投稿が途切れ途切れになってしまうかも知れませぬ。楽しみにしていただいている読者様本当にごめんなさい。




