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お揃いのアクセサリー

 ゴールデンウィーク最初の三連休の初日を迎えた。


 今年のゴールデンウィークは三連休に平日が一日入ってまた三連休。また平日を挟んで土日休みという日程になっている。


 休み前、生徒たちは平日も休みにしてくれよとブーブー文句を垂れていたが、俺はこのぐらいがちょうどいいと思っていた。

 長期休暇のように休みが長すぎると身体が鈍ってしまうし、その分課題だって増えてしまう。


 社会人になれば勤めている会社の都合上で、最大十連休になるところもあるだろうが、それはそれとして休み明けは大変だと思う。


 そんな俺は、斗真たちとレジャー施設に遊びに行くため出かける準備を整えていた。

 カジュアルで見た目も軽やかな細めの黒のデニムパンツにフードがいいアクセントを与えてくれる白のパーカーを身につけている。


 ショルダーバックに貴重品と汗拭きシートを詰め込んでいく。


「そろそろ出かける時間ですか?」


 自宅に訪れていた優奈が準備を進める俺の姿を見て尋ねる。俺が出かけるにも関わらずこうして俺の家にいるのは、家にいても特にやることがないから俺とお話したい、という理由だそうだ。


「いや。まだ時間に余裕はあるからもう少ししたらかな。優奈は午後から瀬尾さんたちとショッピングだったよな?楽しんできてな」


「はい。良くんも楽しんできてくださいね」


「おう」


「あと可愛い子がいたからってその子の方に行かないでくださいね」


「いかないよ。心配症だなぁ」


「ごめんなさい。でも……」


 謝る優奈に、気にしていないよと声をかけて優しく頭を撫でる。

 俺とて優奈が瀬尾さんたちと遊びに行くときは、口にこそだないが内心は他の男に声かけられたりしていないかとか。

 おしゃれとその防止も兼ねて優奈は指輪を身につけてはいるが、それでもやはり心配になったりはするのだ。

 好きだからこそ心配する。当たり前のことだ。


「良くんに一つ渡したいものがあるんです」


 そう言って優奈は持ってきていた小さなポーチから一つの袋を出した。その袋から渡したいものを取り出す。その中には銀色の輝きを放つリングがあってそれを革紐で結び付けていた。


「プレゼントです」


「買ってくれたのか?特別な日でもないのに? 」


「特別な日でないとプレゼントしたらいけないって決まりはないですから。良くんだって昔ぬいぐるみとかプレゼントしてくれましたし」


 それに、と優奈は続けるともう一つ同じものを取り出した。


「お揃いのアクセサリー。一緒のものを身につけたいなって思ってたんです。良くんがこれまでくれたものに比べたら安物なんですけどね」


 自身の皮肉を交えて笑う優奈に、俺は首を横に振った。


「ううん。とても嬉しいよ。付けてくれる?」


「少ししゃがんでください」


 言われるまま俺は少し膝を曲げると、優奈はネックレスを俺の首元にかけた。「似合ってますよ」と優奈は微笑を携えた。


「ありがとう。優奈にも付けてあげる」


 優奈からネックレスを受け取って、優奈の首にかけてやる。胸元を彩るように淡く輝くシルバーリングがとても美しく見えた。


「お揃いですね」


 優奈はシルバーリングを見せつけるように軽く上げて、微笑む。

 そんな彼女の腰に腕を回して、こちらに抱き寄せる。お互いの身体が密着し合い、離れることを許さないと言わんように、抱き寄せている腕に力を入れる。


「これで、少しは安心してくれたか?」


「はい。もう大丈夫です」


「そうか。でも俺は安心してないよ。いや、してたのにできなくなったって言った方が正しいな。優奈があんなこと言うからだぞ。言わないように我慢してたのに」


「わ、わたしのせいですか?」


「そうだよ。俺をこんなに不安がらせたのは優奈のせいだ」


 優奈の瞳に吸い込まれる。

 これから出かけるというのに、時間なんてどうでもいいと思ってしまう。もういっそのこと止まってほしいとすら思った。


「どうしたら、安心してくれますか?」


「言わなくても分かるだろ?」


「良くんの口から言ってください。言ってくれないと……やです……」


「この欲しがりめ」


「想いも言葉も、良くんのものは全部欲しいんです」


「強欲だな」


 蠱惑的に微笑む優奈に、俺の心はさらに引きこ込まれていく。少し手を伸ばせば、優奈は首を横に振ったり手を掴んできたりして触れさせようとしてくれない。どうやら口に出すまでは拒否する姿勢を貫くようだ。


「キスしたい」


 己のありのままの欲望を吐き出す。

 優奈は「うん……」はにかみながら顔を軽くあげる。俺は右手を優奈の顎に添えて、顔を近づけて重ねる。

 柔らかな感触と甘い香りが口と鼻を通して脳を刺激した。


 しばらくの間触れていた唇を離すと、互いに見つめ合う。


「ん、安心できたかも」


 俺は優奈の腰に回していた腕をどける。そんな優奈の表情は少し寂しげで名残惜しそうだった。


「良くん、まだ時間はありますか?」   


「うん。まだ大丈夫だけど」


「じゃあ……」


 そう言うと、優奈は背伸びをしてパーカーを掴み、再び唇を合わせてきた。

 さっきよりも長い時間で「ん……んぅ……」と優奈の吐息を漏らす声が耳に届いた。俺もその感触を楽しむために、優奈の動きに合わせる。


「……ご馳走様でした」


 先ほどまでの優奈の表情とは一転して、満足した様子で唇を舌なめずりした。


 妖艶に微笑む優奈に、俺はたまらず赤面する。


「まさか優奈の方から来るなんて思わなかった……」


「良くんがしてくれたんだから、わたしもお返ししてあげようと思って……」


「まぁ、これでお互い安心したのならいいか」


「はい。大満足です」


 ずるいだろと思う反面、もっと好きになってしまい、俺は玄関に出かける前に軽く抱きしめた。優奈も「ぎゅー」と小さく呟きながら、抱きしめ返した。


「行ってくるよ」


「はい。お気をつけて」


 最後にもう一度軽く口づけを交わして、玄関のドアを開ける。そのドアを閉める最後まで、優奈は手を振ってくれていた。

お読みいただきありがとうございます。


今年に入ってから二人キスする頻度めっちゃ増えたような……。人前で堂々イチャイチャするし。

まぁいいか。恋人だし。バカップルだし。


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