懐かしの公開告白
「ねぇねぇ!あそこにいるのって……」
「絶対そうだよ!わたし、去年の文化祭で見たもん!」
「だよね!本当にお人形さんみたい!」
「それで先輩なだけあって雰囲気もあるよね!凛としていて!」
優奈と手を繋いでいつもの通学路を歩き、校舎に入ってうち履きに履き替えたところで女子生徒の話し声が聞こえた。
話の内容的に優奈のことを言っていて、先輩と呼んでいたので昨日入学してきたばかりの一年生だろう。
優奈もその声には気づいていて彼女たちの方を見る。緊張してしまったのか女子生徒は身体を固まらせるが、優奈は安心させるように優しく笑みで軽く会釈をする。
「見た!?今わたしたちのこと見た!?」
「それに会釈までしてくれたよ!」
彼女らの強張っていた表情が一転して輝く。
優奈は笑顔は早速後輩のハートを掴んでしまったようだ。
「あ!それに隣にいるのって……」
「公開告白した人だよね!」
「凄い度胸だよね!あんなの絶対にできないよ!」
女子生徒は話題を俺に切り替えて、楽しそうに話をする。
どうやら去年の文化祭を訪れていたようであの場を目撃していたようだ。俺にとってはほぼ黒歴史のようなもので、女子生徒に目を合わせぬように逸らす。
「ふふっ。懐かしいですね。良くんの愛の告白」
優奈は懐かしむようにして微笑を携える。その頬は微かに桜色を宿していた。
「まぁ……そうだな。そんなことより早く行こうぜ」
この場から一刻も早く離れたい俺は優奈に手を差し伸べる。優奈は笑みを浮かべたまま小さく頷くと俺の手をとった。
「て、手なんて繋いでる!?それも恋人繋ぎ!!それも学校で!!」
「てことはもう……そう言うことだよね!?ね!?」
先ほどの女子生徒から黄色い声が聞こえる。
新入生も続々と登校してきて、目を奪われたかのように優奈の姿を焼き付けるように見つめていた。
色々と面倒なことになる前に、優奈の手を引いて少し早足でこの場を去った。
☆ ★ ☆
「新入生の姿を見ると先輩になったんだなーって自覚するよな」
「それな。身が引き締まるっていうか」
教室に入ると、先に教室にいた真司と秀隆が俺の席に近づいてきてそう言った。
俺は部活に所属していないので、何かしらの行事がないと後輩と接する機会はないのだが、真司と秀隆はゴリゴリの運動部だ。
この時期は新入生が部活に体験入部してくるので、自然と後輩と接する機会は増える。
「後輩入ってるの楽しみ?」
「そりゃそうよ。後輩に秀隆先輩って言われたいし。それに人数多い方が部活だって楽しくなるからな」
やはり後輩に先輩と言われたいと言う憧れは抱いているものなのか。俺も全くもってないというわけではないのだが、やはり接する機会がないので呼ばれる機会もない。
「部員もそうだけどやっぱマネージャーが欲しいわ。できれば三人」
真司がボソッと呟くと続けて、
「憧れるよなー。部活終わりにマネちゃんから、真司先輩!お疲れ様です!今日もカッコよかったです!……あの……今日、一緒に帰りませんか……?こんなシチュで言われてみたいわー」
「そういうところだぞ真司」
「だからモテないんだぞ」
妄想膨らませる真司の脳内はお花畑であることは想像つきやすく、俺と秀隆は声をかけて真司を現実の世界に引き戻してやる。
これ以上、夢を見ていては現実を見たときに苦しむのは真司自身だ。
「うるさいわい!この彼女持ちが!お前らはいいよな!彼女と毎日ウハウハしちゃってさ!ちょっとぐらい夢見たっていいだろうが!」
「なんかごめん……」
「今度飯でも奢ってやるから機嫌治せって」
俺たちの言葉が真司のガラスのハートをズタズタ刺してしまい、真司は拗ねてしまって俺と秀隆は申し訳ない気持ちになり謝る。
「まぁ今はいろんな部活が新入生に声をかけて部活勧誘してるんだ」
「確か今日の午後からは部活動説明会あるよな」
「そそっ」
授業二時間分の時間を使用して、各部活の説明会が体育館で行われる。それぞれの部活動をアピールする時間であり、去年も同じようなことが行われていた。
「確か代表の人が挨拶してるときに部員は後ろで何かやってたよな。活動アピールみたいな」
「おう。俺はずっとレイアップシュートやってるから見ててな」
秀隆はその場で軽くやってみせるふりを見せて得意気に笑う。
「秀隆は何かやるのか?」
「俺は後ろで軽くキャッチボールしてる」
「じゃあ少し声出して真剣にやってますよーみたいなアピールしてみるのはどうだ?」
真司も斗真と似た性格で盛り上げ上手だと思っている。野球部なだけあって声はよく通るので、自分の存在をアピールして見せて後輩に興味を持ってもらうというのも一つの手かもしれないと思い提案する。
「それで元気な先輩だなって思わせれば、みんな真司に興味を持ってもらえると思うし後輩の女子だってマネージャーやろうっておもんじゃないか……多分……」
「おお!それいいな!」
真司は途端に元気を取り戻す。
そこまでしてマネージャーが欲しいのか。確かに女子の応援は何よりの力になることは俺も知っている。それにかっこいいところを見せようと、やる気になるのだったらいた方がいいだろう。
「よし!じゃあ今日の部活動説明会で早速やってみる!」
彼は意気込んだ様子で俺の席から離れて、秀隆だけが残った。
「なんか空回りして失敗しそうなんだよな……」
「それはそれで面白そうだから良くね?」
「鬼かよ」
「でも早く真司にも彼女ができて欲しいとは思ってるよ」
「真司の手綱を握れるような人じゃないとな」
「全くだ」
朝からやる気をみなぎらせている真司を見つめて、俺と秀隆は苦笑した。
午後に行われた部活動説明会では真司の通った声が響き渡った。そのおかげかは分からないが、後日の体験入部で部員十数名とマネージャーが希望の生徒が訪れたことを真司は俺と秀隆に嬉しそうに話した。
お読みいただきありがとうございます。
後半はタイトルと全く関係のないやりとりになってます。たまには彼らにもスポットを当ててやりたくて……




