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わたしだけのもの

「ひとまず同じクラスになれて良かったな」


「そうですね」


 夕食を終えた俺たちは今日の出来事を話していた。手元には湯気を立たせているカップが置いてあって、爽やかな香りを漂わせるレモンティーが淹れられていた。


 俺がバイトに行っているときに優奈が買い物を済ませてくれたのだが、そのときに買ってきてくれたものだ。


「美味しいなー……」

 

 レモンティーを一口飲んで感想を口にする。

 さっぱりとした風味が口の中で広がって、口内がリセットされる。いつも食後はコーヒーばかり飲んでいたのだが、たまには気分転換も兼ねてレモンティーを飲むのもありかもしれない。


「それにしても、見事に一組に固まったな」


 俺がそう言うのも、一組には俺を含めた四人の他に一年のときに同じクラスだった純也や平野さんや東雲さん。そして真司と秀隆と、仲の良い面子が一組に勢揃いしていたのだ。

 

「こんな偶然も起きるものなんですね」


 優奈も頷いてレモンティーを口にする。今回のクラス替えの出来事は優奈も驚きを隠せなかったようだ。


「賑やかで楽しいクラスになるな」


 体育祭や文化祭はもちろんのこと、二年生では修学旅行も行われる。進級して進路のことについても真剣に考えなければいけないことだってある。大変なことも多いがその分楽しいことだってたくさんある。


「優奈は相変わらず人気者だったしな」


「はい。皆さん話しかけてくれて嬉しかったです」


 優奈と同じクラスになれて喜ぶ生徒もいて、男女問わず休み時間に優奈に話しかけていた。優奈は初対面の生徒にもいつも通りの笑顔で接しており、楽しそうに会話をしていた。 


 男子と話している姿を見て少し胸に引っ掛かりは覚えたが、優奈の甘える表情だったり可愛いところなど、他のみんなは知らない俺だけが知っている部分だって沢山ある。そう考えれば、特に気にすることもなくなった。


「良くんも女の子に話しかけられてましたね」


「ん?あぁ。つっても軽く事務連絡したくらいだけどな」


 女子で話せると言えば瀬尾さんや平野さんや東雲さんや、家庭部と手芸部の生徒くらいであり他の生徒とは学校での連絡以外はあまり話さない。

 話す機会はないし、そもそも話す必要性もないからだ。


 だが優奈はムッと顔を顰めて面白くなさそうな表情を浮かべると、立ち上がって俺の後ろに周る。すると自分の髪の毛を俺の頭なり首元なりペチペチと当ててきた。


 柔らかな毛先が髪の毛や首筋を撫でるのでくすぐったく思わず身をよじらせる。


「ちょっ。優奈、どうしたんだよ?」


 そう尋ねると、毛先を当ててくるのはやめてくれたのだが、今度は抱きついてきて頭を俺の背中に擦り付けてきた。


「……わたしのだもん……」


「愛されてるなー」


 優奈が抱きついたまま背後で小さく呟いたので、俺は微笑を携えて優奈の手に触れて優しく撫でる。


「なんでわたしと付き合ったら途端に急にモテ出しちゃうんですか」


「え?俺のせい?大して変わったところはないと思うんだけど」


 あえて言うなら優奈と付き合い始めてからさらに身だしなみに気を遣っているくらいだ。それでも話しかけられる頻度はかなり増えたと思う。

 

「この前はわたしは違うクラスになっても心配してませんよってかっこいいこと言ってたのに、これじゃあ説得力がないな」


「前言撤回します。同じクラスになっても良くんが取られるんじゃないかって不安です」


「俺は優奈以外興味ないよ」


 確かに女子と話すことは増えたがそれはあくまで友達としてだ。一人の女の子として見ているのは後ろにいるお姫様しかいない。


「でもやっぱり心配なので……」


 再び毛先を首筋に撫でてきたり抱きついたりしてくる。


「一つ聞きたいんだが、なんでさっきから髪の毛を擦り付けてくるんだ?」


「……笑わないでくださいね……」


「善処はするよ」


「……わ、わたしの匂いを良くんに付けておけばみんな良くんはわたしのものだって分かると思って……」


 優奈は後ろから恥ずかしげな声で小さく言うが、それとは反して抱きしめる力は強くなる。


 俺は自分のものなのだと、みんなにアピールするために今のような行為を行っていたのだ。もしかして俺が思っていた以上に、優奈はヤキモチ焼きで独占欲が強いのかもしれない。


「そんなことしなくても、みんな知ってるよ。でも……凄く嬉しいなー……」


 ここまで愛情を真っ直ぐ伝えられると心が熱くなる。手を優奈の頭に置くいて優しく撫でてやと、とろんと溶け切った表情を見せた。


「俺も貰ってばかりじゃ申し訳ないな」


「えっ?」


 顔の向きを変えて優奈に向き合う形をとると、優奈の顔は目の前にあった。俺は穏やかに微笑んで優奈の頬に優しいキスを落とした。


 突然のことに優奈は頬を真っ赤にする。


「ふ、不意打ちになんてずるいです……」


「じゃあ、不意打ちじゃなかったらいいのか?」


「その質問も意地悪でずるいです……」


「自分でもそう思うよ」


 今度は優奈の表情を見つめて、もう一度同じ場所にキスをする。優奈はふやけきったような笑顔を見せると、お返しと言わんばかりに頬にほんの一瞬優奈の熱が触れた。

お読みいただきありがとうございます。


二年生になってお姫様の独占欲は増していっているようです。



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