お花見
春休みは課題をやってバイトをして買い物をして、時々優奈とどこかへ遊びに行くという普段の休日とあまり変わらない日々を過ごしていた。
この頃は日中は優しい日差しが差し込んで温かくなってきたので、優奈と散歩したりしている。もちろん手を繋いでいるので、すれ違う人たちは温かい目を浮かべて「仲がいいわねー」と話す声が聞こえたりして、その度に顔を見合わせては互いに笑い合った。
そんな穏やかな日々はあっという間に経過していき、斗真たちと花見しに行く四月三日になった。
天候は春の季節に相応しいと思わせるほどの快晴だ。今日一日この天気が続くらしいので傘など余計な荷物などは持って行く必要もない。
窓の戸締まりを確認して、弁当箱とレジャーシートやその他諸々が入っている袋を持って、いつもの集合場所へと向かう。
エントランスに着いたところで、優奈もこちらに向かってくる姿が見えた。
「お待たせしました」
「ううん。俺も今来たところ」
「……ふふっ」
優奈が突然と笑みをこぼしたので、俺は疑問の表情を見せる。
「四人で遊ぶの、久しぶりだなって思ったら少し嬉しくなって」
確かに。最後に遊んだのは夏休みのことだったので、半年ぶりにこの四人で遊ぶことになる。
穏やかに笑う優奈はベレー帽を被っている。服装はベーシックなフレアスカートにインナーは白のシャツ。その上にはピンクの羽織ものを身につけていて、白のスニーカーを履いている。カジュアルな服装でありながらも優奈の可愛さをよく感じさせるファッションだ。
そして、優奈の右手の薬指にはキラリと輝くシルバーの指輪が嵌められている。
「今日も優奈は可愛いな」
いつもなら思わず頭を撫でているところだが、今日はベレー帽を被っているので撫でてしまえば帽子を潰してしまう。俺はグッと手を堪えて、感想を口にする。
「ありがとうございます。良くんもいつも通りかっこいいですよ」
俺はベージュのチノパンに黒のパーカー。そしてスニーカーとおしゃれというよりは清潔感を大事にしたファッションだ。
「優奈がそう言ってくれるんだったら、きっとかっこいいんだろうな」
「はい。良くんはかっこいいですよ」
優奈が強く肯定してくれるので、俺も自然と自信が持てる。そのおかげで低かった自己肯定感も今ではそれなりに持てるようになった。
「優奈。それ持とうか?」
それとは、優奈の両手を塞いでいる竹籠のことだ。前日、優奈が気合いを入れて作ると言っていたので、きっとあの竹籠の中には手の込んだ料理が広がっているに違いない。
「いえ。大丈夫ですよ。良くんだって弁当箱持っているんですし」
「そうか。分かった」
伸ばしていた手をそっと引っ込める。
一応、俺も優奈や瀬尾さんが気にせず食べられるあっさりしたものからガッツリしたものを食べたいであろう斗真のものまで一通りのものは作ってきた。
せっかく料理を振る舞うのだから、みんなに喜んでもらいたい。
「人、混んでいますかね?」
「どうだろうな。天気も桜の見頃もいいだろうし、それなりに人はいるだろうな」
今日は休日であるため、家族や友達と足を運んでいる人も大勢いるだろう。
斗真たちとは現地集合と話はしていたので、少し早めに着いて場所を確保しておくというのも手だろうし、また斗真たちが先に来ていて場所をとってくれている可能性もある。
どちらにせよ、早めに行くことに越したことはない。
「手、繋ごうか」
俺はそう言って手を優奈に差し出す。
いつもなら何も言わずとも手を差し出すだけだったのだが、今日は何故かそう言いたくなってしまった。
「はい」
優奈は淡く微笑んで、俺の手を握りしめると優奈の手は俺の手で隠れる。小さな手から感じる確かな温もりを感じて俺も表情を緩めて、彼女の手を引くように俺たちは歩き出した。
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