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春休みの約束

 俺は思わず出そうになった欠伸を噛み殺しつつ口元を手で覆って眠りにつきそうだった瞼を擦った。


 今日は修了式が行われていて、一、二年生は体育座りしながら穏やかで温厚な雰囲気を感じさせる校長先生のありがたくも退屈な話を聞いていた。今まではこの場に三年生がいたので、一、二年だけだと少し広くて寂しく感じてしまう。


 中には睡魔に負けてしまい頭を上下に揺らす生徒もいて、先生に起こされていた。

 気が緩んでしまうのも無理はない。何故なら明日からは春休みだからだ。


☆ ★ ☆


「よーやっと終わったー」


 教室に戻ると、席に腰を下ろした斗真がこれでもかというくらいに腰を大きく逸らす。身体が固まっていたのか、太い音が鳴った。


 教室は春休みにどこに遊びに行くか話し合って予定を決めている生徒がほとんどだ。二週間と少しほどの休暇があるのだから、好きなバンドやアイドルのライブを観に行くのもありだろう。


 俺の予定の半分ほどはバイトが入っているが、もう半分は何も決まっておらず空白だ。二日、三日ほどは優奈とゆっくりと時間は過ごしたいと思っているが、その他にといえば映画やご飯に行ったり少し遠出をするといったぐらいしかない。


 春休みの予定をどうするものかと悩んでいると、「良介」と斗真が俺の名を呼んだ。


「春休み中どうせ暇だろ?」


「勝手に決めつけんなし。バイトあるわ。まぁそれ以外は特に予定ないし暇だけど」


「じゃあ花見いこーぜ」


「花見?」


 斗真から予想外の言葉が発せられて、俺は目を丸くして聞き返すと「おう」と斗真が頷いた。


「今年の桜は例年よりも少し早く咲くらしいって天気予報で言ってたし。駅から少し離れたところに大きな広場があるだろ?あそこの桜満開になったら凄い綺麗らしいから行こーぜ」


 爽やかな笑みで提案してくる斗真を、俺は特に反応を示すこともなくただ見つめていた。


「……なんだよ?あ、もしかして俺に惚れた?でもごめんな。俺には梨花という恋人がいるんだ。でもその気持ちはちゃんと受けとったよ。ありがとう」


「デコピン喰らわすぞ」


「もしかして照れ隠しってやつか?」


「ぶっ飛ばされてぇのか」


 荒々しい言葉と共に俺はため息を漏らす。斗真も俺がそんなことをすることはないと分かっているので、カラカラと笑っていた。


 ぶっ飛ばしはしないがなんとなくイラッとしたので、油断している斗真の額に少し強めにデコピンを放つ。ビシッとクリーンヒットしたデコピンに斗真は「いってー!」と悶絶するが、おちょくりすぎた罰とでも思ってもらおう。


「斗真が花見に行きたいって言ってたことが意外で反応に困ってただけだっての」


「お前も中々失礼じゃねぇか」


 今度は斗真のデコピンが俺の額に直撃する。


「いった……」


「お返しだ」


 ジンジンと痛む額を摩る俺に、斗真は指に息を吹きかけながら笑う。


「で、花見の話はどうだ?」


「ん。俺は全然いいぞ」


「そうか。良かった良かった」


「俺以外に誰を誘う予定なんだ?まさか男二人で花見に行こうとか言うんじゃないだろうな」


「まさか。俺と良介と梨花と天野さんの四人のつもりだよ。ダブルデートだな」


「ん。オッケー。日程はどうする?」


「そーだなー。三日はどうだ?その日は部活もオフだし。天候にもよるだろうけど」


「分かった。俺もバイトの日程確認してみて問題なかったら教えるよ。優奈からは俺が伝える」


「頼むわ」


 優奈も瀬尾さんや平野さんや東雲さんと遊びに行く予定は入れていたと思うが、三日は特に予定はないと言っていたはずだ。一応帰りにでも確認してみることにする。


「それと弁当も持参な。桜の木の下でレジャーシート広げてみんなでご飯シェアしようぜ」


「斗真はみんなの飯を食いたいだけだろうが」


「テヘ」


「テヘじゃねぇんだよ」


「俺は良介と天野さんと梨花の飯が食べたいんだよ」


「少しは手伝うという意志はないのか。働かざるもの食うべからずだぞ」


「俺には食すという仕事がある」


「斗真にだけ激辛料理プレゼントしてやるよ」


「それだけはご勘弁ー」


 手を合わせて必死に懇願してくる斗真に、「じゃあ瀬尾さんの手伝いでもするんだな」と言って、再び深いため息を吐いた。


☆ ★ ☆


「はい。三日は特に予定は入っていませんよ」


 その日の帰り道、優奈に予定がないか確認をしてみたところやはり問題はなかった。


「斗真がその日に俺たちと瀬尾さんの四人で花見しようって誘ってきたんだ」


「お花見ですか。いいですね」


「一応斗真には問題ないって伝えておくぞ」


「はい。お願いします」


 優奈は薄く笑みを浮かべて、植えられている木々に目を向ける。木の葉はもう散っていて枝の先端には桜の蕾らしきものが見受けられた。


「それで花見する公園で弁当食べることになったから当日は弁当箱持って向かうことになるんだ。一緒に弁当の準備してくれると助かる」


「分かりました。腕を振るって作りますね」


「おう。頼む」


 少し先の予定である花見の準備のことを軽く相談しながら、俺たちはアパートに向かった。

お読みいただきありがとうございます。

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