姫からの誕生日プレゼント
「ご馳走様でした。とても美味しかった」
「明日の朝の分まで食べちゃいましたね」
俺の目の前にはチョコレートケーキが載っていたお皿が二枚。クリームの一つ残すこともなく綺麗に食べ尽くしていた。
明日の朝食用にと優奈が切り分けてくれていたのだが、一つ食べ終えたところで余計に食べたくなってしまい、結局朝食用のチョコレートケーキーにも手を出してしまい、今は俺の胃袋の中にある。
「お気に召したのなら良かったです。また今度作ってあげますよ」
優奈の両手は湯気の立ったマグカップで塞がっていて、一つを俺の前に置いてもう一つは自分の手元に置く。
「ホットココアです」
「そういや、公園で会ったときに優奈から貰ったのもココアだったな」
過去を思い出しつつ、ホットココアを一口。さっきまで口の中に広がっていたビターチョコレートの苦味が、まったりとした甘いホットココアが中和していく。
「あのとき貰ったココアよりも甘くて温かいな」
「あのときは買って少し時間が経過してましたし当然ですよ。甘いのは少し牛乳と砂糖の割合を少し多めにしたからです」
優奈もホットココアを一口飲んで一息つく。
満足感と幸福感が満たされていくのを感じながら、味わうようにホットココアを飲んでいった。
マグカップを片付け終えて時間を確認すると、夜ももう遅い時間になっていた。そろそろ優奈を家に送り届けなくてはいけないと思っていると、
「良くん」
優奈が服の裾を軽く引っ張ってきたので振り向くと可愛らしい袋を俺に差し出した。
「誕生日プレゼントです」
「マジで今日、いろんなものを貰ってるな。優奈にもみんなにも」
たくさんなものをいただきすぎてしまって逆に申し訳なくなってしまう。特に優奈には夕食やら手作りのケーキやら俺への誕生日プレゼントなど。家族を除いてこれだけ俺のために尽くしてくれる女性なんて、もうこの先一生現れることなんてないんだろうと、確信する。
その袋を受け取り「……開けるぞ」と言うと、優奈はコクリと頷いたので、その袋を開けて中に入っているプレゼントを取り出す。
「これは……ペンケースか?」
中から出てきたのはレザー製のペンケースだった。黒一色でシンプルなデザインではありながらもデザイン製が高く上品で落ち着きのある印象を与える。
ペンの出し入れがしやすいようにと、ファスナーの部分は大きく開く構造になっているので快適に使うことができるだろう。
「良くんが使ってるペンケース。かなり年季が入ってるなと思ったので、新しいのを買ってあげたいなと……」
「今使ってるやつは中学校のときからのやつだからな」
「思い入れだってあるでしょうし、別に無理して使う必要もないですよ」
「いや、ちょうど買い替えなきゃいけないと思ってたんだ」
中学校時代は本当に勉強三昧で、今使っているペンケースだってかなりボロボロになってしまった。俺と一緒にあの怒涛の日々を一緒に過ごしたツケがきていたのだ。もう休ませてもいいのかもしれない。
「明日から早速使わせてもらうよ。ありがとう」
俺が大事そうにペンケースを扱う姿に、優奈は安堵と嬉しさを交えた表情を見せる。
時間はもう十一時。本来ならば優奈はもう帰っている時間帯だ。そろそろ送らなければ明日の学校にも影響を及ぼすに違いない。
「優奈。今日は本当にありがとう。お陰で最高の誕生日になった。もう遅いし家まで送るよ」
そう言って玄関まで向かおうとすると、温もりが身体を包む。
優奈に後ろからこれでもかと強く抱きしめられているのだ。冬のため寝巻きは厚めだが、それでも背中に当たる感触はどうしても感じとってしまい、俺はただ固まることしかできない。
「今日は良くんが産まれてきてくれた特別な日なんです。まだ一緒にいたいとか思わないんですか……?わたしはまだこの時間を一緒に過ごしていたいです……」
「俺もできることならそうしたいけど、明日は学校もあるし……」
今一緒にいたら、お互いずっとくっついて朝は寝不足になるに違いない。それにこんな安心するような温もりを俺に押し付けながらそんなことを言われてしまえば、そう思ってしまう。
「まだ……良くんの誕生日です。良くんのお願いなら、なんでも聞きますよ……」
「なんでも……ねぇ……」
「か、叶えられる範囲ですよ!もちろん多少無理なお願いでもできることなら叶えられるように努力はしますけど……」
優奈は本当に俺のことを好いてくれているのだと心から伝わってくる。それ故に時々無防備なところをなんの躊躇いもなく晒してくるところがあるのだが、それだけ俺のことを信頼して、安心できるのだと思ってくれているのだ。
だからこそ、俺は優奈の側にいると誓ったのだ。
「じゃあ……一つあるからその腕、緩めてもらってもいい?」
言う通り、優奈は抱きしめる力を緩めた。俺は優奈と向き合うような形になると、俺は優奈をお姫様抱っこする。優奈は驚いたような声を上げるも、俺は気にすることなくソファーへと向かい、俺の膝の上に乗せる。両腕は優奈の腰に回して逃げられないようにする。
「お姫様。つーかまえた」
「捕まっちゃいました」
不敵とも言えるような笑みで言う俺に、最初はぽかんとした表情を見せた優奈だったが、やがて優奈も微笑を見せる。互いの漏らす吐息は風邪でもひいているのかと思わせるほどに熱かった。
「優奈がほしい」
己の欲望のままにそう言うと、優奈は頬を染めながらはにかんで小さく頷く。
「じゃあ、お願い叶えてもらうぞ」
「はい……」
彼女の腰に回していた手を頭にもってくる。優奈も両手を俺の頭に回した。
優奈の綺麗な瞳と俺の瞳が互いの顔を捉えて、逸らすことを許さない。元々逸らすつもりもない。そう思わせるほどに、優奈の瞳は美しかった。
俺と優奈の距離がどんどんに近くなっていき、触れる。
「甘い……」
「ココアの味がしますね……」
「二人とも飲んでたからな」
実際にホットココアを飲んでいたときよりももっと甘ったるく感じたのは気のせいだ。
口づけをすると、優奈はまだほんの少しだが白い頬を赤く染める。俺もそうなっていると自覚していて、これからもドキドキさせられてしまうのだろう。
「優奈……」
「はい……なんですか?」
優奈はふやけた表情のまま言ってくる。
「大好きだ。言葉でこれ以上表現できないくらいに、優奈のことが大好きだ」
俺は少し照れながらも想いを伝える。その言葉を聞いた優奈もこれ以上ないほどの愛おしい笑顔を見せて、今度は優奈の方から口づけをしてきた。
「はい……わたしも良くんのことが大好きです……これまでも、そしてこれからも……」
優奈ははにかんでみせると、俺に抱きついてきた。まるで自分のものであるかと俺自身に自覚させるかのように。
俺も甘い香りを漂わせる優奈を抱きしめながら、愛でるように撫でる。
今日、自分の誕生日が大好きになった。
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