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夕飯作り

 フードコーナーで俺たちと斗真たちは別れた。

 いつの間にか天野さんと瀬尾さんは仲良くなっており連絡先を交換していた。


 見た目やどことなく雰囲気が似ている二人は、気が合ったのだろう。天野さんも途中から笑顔で喋っていた。


「天ちゃんまたねー」


「はい。梨花さん」


 お互い手を振って別れると、二人は手を繋いで仲睦まじくデートへと戻っていった。


「二人、とても仲よしだね」


「あぁ、見てるこっちが恥ずかしくなるぐらいのバカップルだ」


 瀬尾さんのあの告白には驚いた。

 幼稚園から抱いていた恋心が成就したのだから、あれだけ愛が溢れてても不思議はないか。


「昼飯も済ませたことだし、そろそろ夕飯の買い出しでも行くか」


 そう言って椅子から立ち上がろうとする。


「あ、あの……」


 天野さんが呼び止めた。


「ん?他にどこか行きたいところでもあるのか?」


「いや、そうじゃなくて……手……握ってみます……?」


 可愛らしく首を傾げて尋ねてきた。自分でも恥ずかしことを言っているのは自覚しているらしく、頬を染めていた。そして何より敬語に戻っていて、緊張しているのが見て分かる。


「そ、それはまた突然だな……」


「嫌……ですか?……」


 大きくて綺麗な瞳をこちらに向けて、上目遣いで聞いてきた。


「嫌じゃないが……こういうのってもっと親しい関係になってからじゃないとさ。天野さんだって好きじゃない男と手を繋ぐっていうのは……」


 あの二人の姿を見て感化されたのだろう。

 だが俺たちは恋人関係ではない。あくまでも姫を守るボディーガード。みんなは王子様やら茶化してくるが。


「わ、わたしは別に、柿谷くんとなら……手を繋いでもいいです……」


 消え入りそうな声で、天野さんは言った。

 

「わ、分かった」


 ここまで言わせておいて手を握らないのは男の恥である。

 誰にも見えないように机の下で右手を出して、天野さんの左手をゆっくりと掴む。


「っ!!」


 天野さんの身体がビクッと震えた。


 色白で俺の手で覆い隠せそうなほどの小さな手だ。普段から保湿なりハンドクリームなりで手入れを欠かしていないのだろう、ずっと握っていたいと思わせるほどのもちもちとした手の感触。


 (やばい。この感覚クセになりそう……)


「柿谷くん……手……離してもらっていいですか……限界です……」


 見るからに顔をリンゴのように赤くしていた。

 それを見て慌てて手を離す。


「ごめん。やっぱり、嫌だった?」


「そうじゃなくて。嫌なんかじゃなくて……なんかもう恥ずかしくなって……」


 彼女は首を横に振って否定する。


「手を握るというのは、また今度の機会に……」


「あ、うん」


 え?また握るの?握らせてくれるの?

 俺からしたらご褒美みたいなものなんだけど。


「じ、じゃあ行こうか」


「はい……」


 お互い顔を赤らめながら、フードコーナーを後にした。


☆ ★ ☆


 スーパーで購入するものは牛肉のバラ肉、じゃがいも、にんじん、玉ねぎ、デミグラスソース缶。調味料は家にあるため、問題ない。


 俺は野菜たちと睨めっこをしていた。

 美味しい食事は美味しい食材から。とは言っても大した目利きはできないのだが。


「にんじんは茎の付け根が小さいもの。じゃがいもはふっくらしてて傷やシワのないものがいいですよ」


 天野さんがそうアドバイスしてくれる。


「タメ口もいいけど、敬語のほうがしっくりくるな」


「わたしも柿谷くんとは敬語で話すほうが落ち着きます」


 俺たちはそう笑いながら、食材をカゴの中に放りこんでいく。


 会計を終えて、持参しておいたエコバッグに詰めていく。二人とも持ってきていたのだが購入したもの自体はそんな多くないため、一つで足りた。


「ありがとうございます」


「いいよ。荷物持ちは男の仕事だから」


 右手にエコバッグを持って、俺たちは帰宅した。


☆ ★ ☆


「さて。早速とりかかりますか」


 時刻は四時を回った頃。煮込み時間込みで考えると七時くらいだな。俺は購入した食材たちを並べる。

 黒のエプロンを着用して、調理を始めた。


 天野さんはワンピースが汚れるかもという心配があったため、一度家に戻って着替えてからこちらにくるそうだ。事前に部屋番号は教えている。


 野菜の皮をピーラーで剥いていき、食べやすい大きさに切っていく。バラ肉も1口サイズまでカットしていき黒胡椒で味付け。


 フライパンにサラダ油を注ぎ温まったのを確認してカットしたバラ肉を入れて、焦げ目が付くまで焼いていく。


 ピンポーンとインターホンのなる音が聞こえた。一度火を止めて、玄関のドアを開けると天野さんが立っていた。


 黒のパンツに同じ黒色のパーカー。パーカは少しサイズが大きいのかブカブカで手は隠れていた。家での食事というので、かなりラフな服装である。

 

「いい匂い……」


「肉焼いてるからな」


「お邪魔します」と一言のあと、靴を脱いで俺の部屋に踏み入れる。


「あんま大したものは置いていないけどな」


 そう言うも、天野さんは俺の部屋を見渡していた。普段から綺麗にしておいて良かった。


「適当にくつろいでて」


 俺はキッチンへと戻る。すると彼女も俺の後ろについてくる。


「見てていいですか?」


「いいけど……面白いか?」


「はい」


 俺は再び肉を焼き始めた。焦げ目が付いてきたところでカットしたにんじんと玉ねぎを入れていく。

 野菜がしんなりしてきたところで、俺は大きめの鍋に移し替えて、水を加えて煮込んだ。


 これでしばらく放置っと。


「手際いいですね」


 その様子を見ていた天野さんが口を開いた。


「まぁな。料理作るのは嫌いじゃない」


「料理をし始めたのはいつからなんですか?」


「小三くらいのときからかな。そこからーー」


 ビーフシチューを煮込んでいる間、俺たちは談笑していた。

お読みいただきありがとうございます。

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