もし違うクラスになったら
新学期が始まったが、特に変化があるわけでもなくいつもと変わらぬ学校生活を送っていた。
三学期は二学期と比べると行事ごとは少ない。挙げるとすればバレンタインと一年間の総決算となる期末テストくらいだ。
三年生は大学入試に向けて勉強に励んでおり、三年生の教室はピリピリとした空気が流れていて近寄りがたさを感じていた。
対して俺たちのクラスはいつも通り賑やかで楽しそうな笑い声で溢れていた。
「いやー。時の流れは早いねー」
「どうした急に」
俺は斗真と純也の三人で談笑をしていたところ、突然斗真がそんなことを言い出した。
「だってもう一月だぜ。あと三ヶ月で二年生よ」
「それな。本当になんかあっという間って感じ」
純也も共感するように頷いてみせる。
それにあと三ヶ月も経てば新入生が入学してきて、俺たちは晴れて二年生、先輩になる。それも期末考査で赤点を取らなければの話になるのだが。だが、救済措置としてレベルを少し落とした追試と課題を提出すれば無事進級することができる。先生側からしても留年する生徒を出したくはないという思いが伝わってくる。
「まぁ、確かにそうだな」
少なくとも去年までの一年とは比べ物にならないほど過ぎていく時間が早く感じていた。それだけ充実した日々を過ごせていたということだ。
「二人と過ごせるのもあと残り僅かってことか」
そう言った純也の表情は眉が下がっていて、少し寂しげに見える。
四月にはクラス替えがある。二年生になっても同じクラスになるとは限らない。
斗真はニカっと笑うと純也の肩を腕を回して組む。
「そんな悲観することないだろう。それに違うクラスになったからって友達じゃなくなるわけじゃねぇんだ」
斗真の言う通りである。
仮に別のクラスになってもこれまでの友情はなくなることはない。そんなことでなくなってしまえばそれまでの関係だったということになるのだが、文化祭や勉強会を一緒にやってきた俺たちの仲はそんなものでは消えはしない。
「そもそもそんなこと考えること必要ないだろうよ。今この時間を楽しもうぜ」
「そっか。それもそうだな」
純也は薄く笑うと「そうだそうだ」と斗真は柔かに言った。
「それじゃあ今度休みの日にでも雪合戦でもするか?冬の思い出作りということで」
「おっ!いいね!めっちゃ楽しそう!」
「いいけどどこでやるんだよ?」
「良介のアパート近くの公園で」
「それ、雪合戦終わったあと俺の家でゴロゴロするパターンになるところまで見えたんだが」
こうして、今度の休みの日に男三人で雪合戦を行うことが決定した。
☆ ★ ☆
今日はバイトが休みのため、早めの時間帯で夕食を食べていた。
(クラス替えか……)
視線を向かいの席に座って箸を進める優奈に向ける。
当然、優奈の別のクラスになる可能性だって大いにあり得る。家に帰ればもちろん側にいてくれるのだが、今まで教室に当たり前にいた優奈が教室に入っていないと考えると、やはり少し寂しさと物足りなさを感じてしまう。
「良くん?」
「……ん?」
「どうしたんですか?ボーッとしちゃって」
箸の手が止めて黙り込んでいる俺を不思議に思ったのか、優奈はこちらを眺めていた。
「あー。大したことじゃないんだが……ほら、二年生になったらクラス替えがあるだろ?もしかしたら優奈と違うクラスになってしまうのかなってそんなこと考えてたんだ」
仮に別クラスになったとして、自分が知らないところで優奈が同じクラスの男子生徒と話していることを考えると、心がつっかえる。
他の男子生徒とは話してほしくないと思いも確かにあるのだが、俺個人の感情で優奈を束縛したくない。結果、こんな自分勝手な考えを抱いている自分に対しての自己嫌悪に苛まれて、さっきよりも心が鋭い針でチクチク刺されている感覚に襲われていた。
俺が何を思っているのか察したのか、「良くん」と優奈は俺の名を呼んだ。
「確かに別々になってしまう可能性だってありますよね。でもわたしはそこまで不安ではありませんよ。だって……」
少し暗い表情を浮かべている俺とは対照的に、優奈は穏やかで温かさを感じるような優しい表情だった。
「わたしは良くんのものですし、良くんはわたしのものですから。ちゃんと言質もいただいてますし、その良くんの想いが乗ったプレゼントもいただいていますから」
優奈は薬指にはめている指輪に視線を落として、それに優しく触れる。俺が優奈に対する気持ちを乗せて渡した大切な指輪だ。
「だからわたしはそこまで心配してませんよ」
普段と変わらない安心感を与えてくれる声音なのに、何故か頼もしさを感じた。それと同時に、こんなことでうじうじと悩んでいた自分が余計に情けなく思っていた。
「でもやっぱり……優奈とは離れたくないな……」
前々から思っていたが、俺も中々に重い。
気にしないようにしていても気がつけば優奈を目で追っているし、男子と話しているのを見ていると心の中に不快感が募っていくのを感じていた。
「それはわたしだってできることならずっと同じクラスがいいですけど、そればかりは運ですからね」
優奈は夕食を既に食べ終わっていて、立ち上がると俺の隣に移動する。
「もし違うクラスになったら、教室で会えない分お家でたくさんイチャイチャしましょうね?」
「今もこうしてやってると思うけどな」
「今よりももっと……です」
小悪魔みたいに笑う優奈の表情にドキッとしつつも、さっきよりは心のつかえが取れたような気がして俺は小さく返事をすると、俺は残っていた夕飯を食べ始めた。
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