甘々耳かきタイム
俺はソファーで横になっていた。
頭は柔らかさな感触に包まれていて、あまりの安心感からか気を抜いてしまえばあっという間に意識を落としてしまうほどである。
「〜♪」
耳元から優奈の鼻歌が聞こえる。目を瞑っているのと優奈に対して背を向けている状況であるため優奈の様子までは分からないが、きっと上機嫌なのだろう。
「それにしてもどうしたんですか?急に耳かきやってほしいなんて。わたしは凄く嬉しいですけど」
バイトから帰ってきてお風呂と夕飯を済ませたあと、俺は優奈に耳かきしてほしいとお願いすると、優奈は快く承諾してくれて今に至る。
俺は優奈の太腿に頭を預けて、身を委ねていた。
「なんとなく。ただやってほしいなって思ったから」
「ありがとうございます。甘えてくれて」
優奈は穏やかに笑う。
きっと耳が赤いのは、お風呂から上がってまださほど時間が経過していないのと耳かきを行う前にやってくれた耳周りのマッサージによって血流が良くなっているからだ。
(あったかいな……)
服越しだが、優奈の体温はいつもよりも高く感じる。実は優奈も俺の家で入浴を済ませているのだ。
一階から五階までエレベーターで移動できるとはいえ雪が降っている一月。しかも夜は相当冷え込んでいて、バイトから帰るときもダウンジャケットにマフラーと厚着をしていたが、それでも寒い。
寒い思いをしてまでわざわざ俺の家まで足を運んでもらっているのだから、風呂に入って芯まで温まってもらいたいと俺が提案した。
シャンプーとボディーソップの香りと優奈の甘い香りがほぼ零距離で鼻腔に入り込み、脳を溶かしていく。
「どう?痛くはないですか?」
「そんなことないよ。むしろ気持ちいー」
気の抜けた声で感想を漏らす。
「ありがとうございます」
頭から耳から幸福感が押し寄せてきて、嬉しさで心が潰されそうになっていた。
優奈の操る耳かき棒が耳の壁側に触れる。
最近は掃除していなかったのできっと溜まっているに違いない。
「ふふっ。いい子いい子」
優奈は頭を固定していた手を僅かに動かして、慈しむように髪を撫でる。
「あの、ちょー恥ずかしいんで子供扱いするのやめてくれ……」
口で少し反論するが、それ以上の気持ちよさが襲ってくる。優奈もそれを分かっていてずっと髪を撫でてくるのだ。程なくして反論する気力すら気持ちよさに上書きされて、俺は唇を結んで耳かきされるままになっていた。
「今日もバイトお疲れ様でした。久しぶりで少し疲れたでしょう」
「疲れたけど……優奈の耳かきで癒されてるよ」
瞼がかなり重くなっている。
優奈の温もりが直に感じることができて安心感が生まれて、その上耳かきまでされているのだ。
このまま眠ってしまいそうだが、俺が寝ている間にも優奈は耳かきをしてくれているのだろう。この心地よさはずっと味わっていたい。
終わったのか、耳かき棒が俺の耳から離れていく。
「じゃあ次は、梵天やりますね」
梵天が耳に触れると、くすぐったさを感じて俺は身をよじる。優奈はそんな俺を見てクスッと笑う。
「くすぐったいかもしれないですけど、少しジッとしててくださいね」
梵天の羽毛が耳の中を綺麗にしていく。最初は感じていたくすぐったさが、いつの間にか心地よさへと変わっていった。
「次は反対のお耳やるのでこっち向いてください」
優奈に言われたとおり寝返りを打って、反対側を耳を優奈に見せる。優奈のお腹が目の前にあって少し視線を上げれば、優奈の笑顔があった。
反対側の耳にも耳かき棒が入っていき、掃除される。
「気持ちよさそうにしている良くんの顔、とても可愛いです」
視線こそ合っていないが、顔は向かい合っている状態。変に動くこともできないので、俺はジッとして目を瞑っていた。
「お耳がさらに赤くなりましたよ」
「からかうなよな……」
「お返しです」
目を軽く開くと悪戯っぽく笑っていた。
(なんかもう……優奈の耳かきがないと満足できないような身体になっていく気がする)
他人にされる耳かきは自分でやるものよりも気持ちいいとよく聞く。俺は今日、それを肌で実感することとなった。
しかも優しく丁寧に、俺の耳を大切に掃除してくれる優奈がやっているから尚更心地よく感じてしまうのだ。
「優奈……」
「なんですか?」
「また今度、耳かきお願いしてもいい?」
そう言うと、優奈は優しい表情を作ってまるで俺を子供のように大事そうに髪を撫でて「お安い御用ですよ」と言った。
このあと、優奈が帰る時間ギリギリまで俺たちはくっついていて、優奈を送り届けて家に入る前にも、強く抱きしめてから俺たちは別れた。
お読みいただきありがとうございます。
ブクマ、評価等いただけたら嬉しいです。




