好きな季節
雪の影響で始業式の時間は予定時刻より少し遅れて行われた。体育館には大型ストーブが二台ほど設置されていたが、広い体育館全域にストーブの熱が届くわけもなく、焼け石に水だった。
始業式を終えて教室に戻ると、暖房がついていて斗真は手に息を吐きかけながら「あったかー」と呟いていた。
その後は中村先生の軽い連絡事項の話とホームルームを行って、本日の学校は終わった。
「それにしても雪降り止まねぇなー」
斗真が窓から景色を眺めてそう言った。
辺り一面は雪景色で真っ白に染まっている。外に出れば肌を凍てつくような寒さに襲われるに違いない。
「今日からしばらくはずっと降るっぽいからな」
「この時期はランとか地味にキツいトレーニングメインだからしんどいんだよ。あー早く夏にならないかなー」
「斗真夏好きだもんな」
「冬なんて寒いし、道は凍って危ないし、風邪ひきやすいし何もいいところなんてないだろうよ。それに比べて夏はいろんなイベントあって楽しいし、思いっきりサッカーできるし、女子の素肌見ることできるからな」
「最後のやつ言う必要あった?完全に欲望丸出しじゃんか」
俺もどちらかと言えば夏の方が好きである。
斗真の言う通り、体育祭や夏祭りのイベントにそしてプールや海などにも行くことができる。冬だってクリスマスという大事なイベントもあるが、それ以上に俺は寒い場所が苦手なのだ。
朝は布団から出たくないし、家から出るのだって足取りが重い。学校や買い物やバイト以外は絶対に外に出たくない。
斗真と話していると、優奈が俺の元に来た。
「かなり雪降ってますけどもう帰りますか?」
「いや、もうちょっと様子を見よう。もしかしたら勢い弱まるかもしれないしそのタイミングで帰ろうぜ」
天気予報が正しければ、午後から雪と風の勢いが少し弱まると言っていた。それにこんな悪天候の中、優奈としんどい思いをして帰りたくはなかった。
「はい。分かりました」
優奈は小さく頷く。
「そうだ。天野さんは夏と冬どっちが好き?」
斗真はさっきしていた話を優奈に振った。「そうですね……」と優奈は少し考えたあと、
「……わたしは冬の方が好きですね」
と、結論を出す。
「へぇ。なんか意外」
「なんでですか?」
声を上げた俺に、優奈は疑問の目を向けてきた。
「優奈も結構寒がりだからてっきり冬嫌いだと思ってた」
この時期はブレザーの下にセーターを着ることが許されていて優奈も突然着用している。スカートの下には黒タイツも履いているが、それでも常に寒そうにしているのだ。
これだけ寒いのにも関わらず、この学校の女子生徒に限らず素足を晒している女子生徒もいて、寒そうだなーと思っていた。
「確かに前までは冬は好きじゃなかったんですけど……つい最近好きになったんです……」
「へぇ。なんで?」
そう尋ねると、優奈は少し恥ずかしそうに指を絡ませて、斗真はその反応を見て分かったようにほくそ笑むが、未だに理由が分からない俺を見て、「嘘だろ?」と言いたげな顔を浮かべた。
しばらくして、優奈が閉じていた口をゆっくり開く。
「家にいるときは良くんにずっとくっついたまま温めてもらえるからです……」
「あっ……」
上目遣いで言ってくる優奈に、俺は思わず目を逸らす。そしてチラッと横目で再び見ると、優しく微笑み返してくる。
(今日はいっぱいくっついてよ)
三人で話しているうちに瀬尾さんも合流して四人で話し込み、気がつけば降っていた雪の勢いも弱まっていたので、俺たちは今のうちにと学校を出た。
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