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冬休み明け

「ハァッ……」


 俺は洗面台の前で深くため息を吐いた。


 色々あった冬休みはあっという間に終わりを告げて今日から三学期が始まる。昨日まで家でのんびりと過ごしていた時間が、今は歯を磨いて顔を洗っている。


 久々に友達とも会うことができることの喜びももちろんあるのだが、やはり長期休暇明けの初日の学校は何かと気分が重くなってしまう。

 それに気分が上がらない理由はもう一つあった。それは今テレビで流れている天気予報士とお天気キャスターの人が言っていた。


「今日は各地で雪となるでしょう。午前中は大雪や吹雪には十分警戒してください」


 俺はカーテンを開くと、空はどんよりと重い灰色の雲が覆っていて太陽が顔を覗かせる隙間はどこにも見当たらない。さらに白く柔らかな雪がそれなりに降っていて、俺は思わず顰めっ面を浮かべる。


 昨日までは太陽が上空に浮かんでいて積もっていた雪もなくなりかけていたのに、今日になってまた雪が降ってこようとは。ただですら気分が下がっているのにさらに拍車をかけてくる。


 もういっそのこと大雪で電車が停まって休校になってくれないかな、と思いながらもテレビの下画面に流れる交通情報は、どの電車も通常運行とある。電車が止まらない限り高校はいつも通り行われる。つまり休校ではない。


 ここまでくれば今日は学校があると受け入れるしかない。

 クローゼットにしまっている高校の制服を取り出してズボンに足を通し長袖ワイシャツのボタンを留める。まだ高校には登校しないのでワイシャツの第一ボタンは留めず、ネクタイは緩く締める。


 近くに置いていたスマホが震える。


『雪エグない?』


 斗真からこのようなラインが届いていた。


『エグい』


『高校休みにならないかな?』


『そんな希望ならもう捨てた』


『ワンチャンあると俺は思ってる』


『変に希望抱いてると、後々辛くなるのは自分だぞ』


 どうやら斗真も俺と同じことを考えていたようだ。いや、きっと学生なら誰しもが休校であってくれと強く思っているに違いない。 だがそれで絶望に叩き落とされるくらいなら、この現実を受け入れてしまった方が自分のためである。


 するとインターホンが鳴った。


 インナーシャツとワイシャツ一枚では寒すぎるためブレザーを袖に通してドアを開ける。


「おはようございます」


 そこにはベージュのスーパーロングコートを羽織った優奈が立っていて、俺は思わず驚いた表情を浮かべた。まさか時間を見間違えたか?と急いでスマホで時間を確認するが、集合時刻の十五分前で俺はホッとする。


 外で話をするのもなんだと、優奈を家に招き入れる。


「それで、どうかしたのか?」


 集合場所は一階のエントランスだ。一階に部屋のある優奈が朝早く、しかもこんな寒い大雪の中わざわざ五階の俺の部屋まで訪れたのだ。何かしらの理由があるのだろうと思い、リビングに戻ると尋ねてみた。


「いえ、そんなに大したことではないんですけど……」


 優奈の言葉が途切れると、優奈は俺に抱きついて、背中に手を回してきた。突然の出来事だったが優しく飛び込んできたので、少し驚く程度であり俺は抱き止める。


「今のうちに良くん成分のチャージでもと思いまして……」


 顔を埋めてスンスンとブレザーを嗅いでくるので胸元がこそばゆくなる。「くすぐったいんだが」が軽く抵抗はしてみるが、「もうちょっとだけ」と言って離してくれない。


「冬休み中は年末年始以外は一緒にいれましたけど、学校始まったらこんなこと恥ずかしくてできないじゃないですか……」


「学校やバイトから戻ってきたらいつでもやってあげられるぞ」


「良くんエネルギーが枯渇してわたしが死んでしまいます」


「エネルギーって。ロボットかよ」


 俺は淡い笑みを浮かべると、優奈の髪を崩さないように優しく撫でて、反対の腕は腰あたりに回して抱き締める。


 朝からこんな可愛い彼女の甘えてくる姿を見せられたら憂鬱な気分なんて吹っ飛んでいってしまいそうだ。


「でも今はこれまでだ。学校遅刻しちゃうしなんなら雪降ってるから、少し早めに家を出よう」


 俺の提案に優奈は顔を上げて、プクッと頬を膨らませる。俺は人差し指でツンツンと頬を突いてその空気を抜く。


「バイトから帰ってきたらいっぱい甘やかすし甘えるから、それまでお互い我慢な。これ以上やったら時間忘れちゃいそうだし」


 そう言うと、優奈は小さく頷いてくれた。

 少し不満そうな顔をしているのがまた可愛らしくて、美しい陶芸品と思わせる彼女の頬に触れた。優奈も目を細め自分の手を重ねて、俺の体温を感じるように安心しきった顔を見せる。


「雪道は危ないから手を繋いでゆっくり行こうな」


「はい」


 電気の消し忘れや戸締りを確認して、俺たちは学校へと向かい出した。

お読みいただきありがとうございます。

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