親友の馴れ初め
フードコーナーの四人テーブルに俺と天野さん。俺たちと向かい合うように反対側には斗真と瀬尾さんが座っていた。
天野さんはカルボナーラ。斗真は焼きそば。瀬尾さんはそばを食べている。ちなみに俺はうどんだ。
「みんな見事に麺類選んだな」
斗真がこの場の雰囲気を和ませるように言うが、みんな黙々と自分の選んだメニューを食べていた。
気まずい!
まだ斗真と瀬尾さんだったから良かった。
学校では天野さんを守る護衛的なポジションとして位置付けられている俺。だがこうして一緒にデパートにいるところを見られたのだ。多少の誤解は生まれるかもしれない。
「そ、そういえば天野さんには紹介してなかったね。瀬尾梨花。俺の彼女です」
「はじめまして。天野さん」
「わたしの名前、知ってるんですか?」
「高校じゃ有名人だからね。それと……」
瀬尾さんがそばを食べる手を止めて、こちらを見た。
「柿谷くんと天野さんって付き合ってるの?」
ど真ん中ストレートを投げ込むような質問に、啜っていたうどんが変なところに入りそうになる。
「二人の関係はわたしも耳にしてる。ずっと一緒にいたらお互い多少は意識するんじゃない?」
意識……か。
同じアパートに暮らしていることを知り、いろんなところでばったり遭遇したり、お互いの料理をお裾分けしたり、不良から助けたり。
なんというかものすごく濃い時間をこの僅かな期間で過ごした気がする。
その分、一生関わることがないと思っていた天野さんとこうして出かけるぐらいまでの仲にはなれた。彼女が俺のことを少なからず信頼してくれるのは分かるし、そのことがとても嬉しい。
だが恋愛感情が分からない。
何度も言うように俺は交友関係が全くといっていいほどなく、斗真や瀬尾さんぐらいとか話すことができない。
その二人以外でこんなにも親しくなれたのは天野さんが初めてなのだ。
一緒にいて楽しいというのが恋愛感情だというのならば、おそらくそうなのだろう。
「じゃあ聞くけどさ。二人はなんで付き合ったんだよ?やっぱり中学のときから意識してたのか?」
「いや、意識してたのは小六のときからかな」
斗真は既に焼きそばを食べ終えており、コップに入っていた水を流し込む。
「え、なにそれ初耳なんだけど」
「言ってないからな。ほら。梨花って見てわかる通り可愛いじゃん。当然声をかけてくる男だっているし、何回か告白されたっていうのも本人から聞いたんだよ」
確かに瀬尾さんは天野さんとも引けを取らない少女だ。かなりの世話焼きで男子生徒からの人気もあるだろう。
「そんときかな。梨花は誰にも渡したくないっていう気持ちが芽生えたのは。独占欲ってやつ?あの頃は梨花が他の男の話しているだけで嫌な気持ちになってたからなー」
「斗真も嫉妬とかするんだな。なんか意外」
「俺だって嫉妬くらいするさ。別になんとも思っていない女子が男子と話していても何も思わないだろう?多少相手のことを意識しているから異性と話していると嫌な気持ちになる。俺はそれがきっかけで梨花が好きだってことに気がついた。そこから梨花に告白して、オッケーもらって今に至る」
隣では瀬尾さんが恥ずかしそうにしながらも、嬉しそうに笑っている。
斗真はあぁ言っていたが、天野さんが他の異性と話しているところなんてほとんど見たことないからな。強いて言うなら不良に絡まれたときぐらいか。
あのときは嫉妬というよりは怒りのほうが強かった。やめてくれと言っている女の子の意思を無視して自分勝手に行動するあいつが許せなくて、気がつけば勝手に身体が動いていた。
「俺はそうだっただけで、誰かを好きになる理由はそれぞれ違う。十人十色だ。ここで恋愛面では良介より先輩である俺が一つアドバイスしてやろう」
「アドバイス?」
「あぁ、好きになったらとことん動け。どんな些細なことでもいい。その好きな相手に自分を認識してもらう。相手に好きってバレたってもいい。だって好きなんだから。その相手に好きな子ができた時点で、もう負け確なんだぜ」
その言葉にはどこか説得力があった。
きっと自分の実体験から得た経験なのだろう。
「もしかして二年の春から、今まで以上にぐいぐい来てたのってその理由?」
そばを食べ終えていた瀬尾さんが尋ねる。
「あぁ。多いときで一日三回告られてただろう。全部フってたけどさ」
「うん。だって……」
瀬尾さんは口元に付いていた青のりを指で取り、言った。
「幼稚園で出会ったときから、斗真くんのことずっと大好きだったんだから。こうして口元に青のりをつけてるだらしないところも全部」
瀬尾さんは満面な笑顔を見せる。
親友の顔は見る見る赤くなり、机に突っ伏す。
こっちも見るのが恥ずかしくなってきた。
「やっぱ……梨花には敵わないな……」
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