クリスマスプレゼント
今日投稿しないと言っていましたが、なんとか体調が良くなったので投稿することにしました。
イルミネーションを観に終わった俺たちは、帰りに予約していたケーキ屋でケーキを受け取り、アパートに帰宅する。
エアコンの暖房をつけてしばらくすると温風が出てきて冷えた身体を温めてくれた。家には炬燵がなく、実家の炬燵が恋しくなるときがあるのだが、それはバイト代を貯めてある程度余裕ができたときにでも購入しようと決めている。
手を洗って早速夕食の準備に取りかかるのだが、下拵えはイルミネーションを観に向かう前にある程度済ませていたので、そこまで時間はかからなかった。
「改めて見て、すげー豪勢だよな」
俺は食卓に置かれている料理たちを見渡す。
「良くんと一緒に過ごす初めてのクリスマスイブですから。豪勢になるのは当然ですよ」
この献立を考えたのは優奈である。
俺も今日は特別な日だし少し奮発するかと考えていたのだが、「今日はわたしに任せてください」と言われたので任せてみれば、俺が想像していたものよりも豪華な夕食となった。
マーガリンを塗って焼かれたフランスパン。彩り豊かなサラダにかぼちゃポタージュ。そしてメインのローストチキンはこんがりとした焼き目がついていて、香ばしい香りをさせている。
こういう特別な日の食事のとき、大人は赤ワインやシャンパンを飲んでいるのだろうが、俺たちはまだ未成年なので普通の麦茶。少し雰囲気を出す為に、ガラスのコップに注いでいる。
「あー染みるわー」
カボチャのポタージュをスプーンで掬って口にすると、濃厚な甘みと風味が口の中に広がって俺はホッと息を漏らす。
イルミネーションを観終わってケーキを受け取りに行ったときに突然と雪が強く降りしきり、また風も強くなってきたので本当にタイミングは良かったと思う。
暖房の風が身体を温めているとはいえ、カボチャポタージュの甘みと温かさは身体の内側を安心させてくれるような優しい味だ。
「良くんが作った料理は本当に美味しいです」
カボチャポタージュは学校の給食とかで何度か口にしたことがあるくらいで家では作ったことがなかった。一応レシピを見ながら作ってみたのだが、作り方自体はそんな難しいものではなく手のかかる作業がないので、材料さえあれば作れるものだろう。
「じゃあ俺は優奈が作ったローストチキンを頂こうかな」
このローストチキンは優奈が一人で下処理から味付けまで行なっている。今日のメインディッシュというのだけあってかなり気合を入れて作っていた。
ナイフを当てればスッとチキンへと沈んでいく。食べやすいサイズにカットしたチキンをフォークで刺して口に運ぶ。
口の中に入れた瞬間、鶏肉がほろほろと溶けていく。噛めば噛むほど肉汁が溢れ出してあまりの美味しさに頬が落ちそうになる。いつまでも味わっていたいと思ってしまう。飲み込むと「美味い……」と感嘆の声を漏らして余韻に浸っていた。
「美味しそうに食べてくれて嬉しいですよ」
「美味いものは美味く食わないと優奈にも料理にも失礼だからな。それに優奈の料理はいくらでも食える。普通に毎日食いたいくらい」
「毎日作ってあげていますよ」
「そうなんだけどさ。それくらい美味しいってこと。優奈の料理ってなんかホッとするんだよな。もう俺の第二の実家の味って感じ」
半年以上食べていたせいか、いつの間にか優奈の手料理に安心感を覚えている俺がいた。それはこの身に余るほどの幸福感を与えて、満たしてくれる。
「そう言ってもらえて冥利に尽きます」
俺は引き続きローストチキンをカットして口に運んでいく。優奈は美味しそうに食べる俺の姿を柔和な微笑みを浮かべながら見ていて、彼女もローストチキンを口にして「美味しい」と頬を綻ばせていた。
夕食を食べ終えて、俺たちは食後のデザートを食べていた。
優奈はふわふわとしたスポンジ生地に生クリーム。真っ赤なイチゴがふんだんに使われたショートケーキ。俺はチョコレート生地にチョコクリームで覆われて、上部にはチョコ板が飾られているチョコレートケーキを食べていた。
「良くん。一口貰っても?」
「ん?あぁ、いいよ」
優奈は口を開いて待っていた。俺はフォークで小さく切ったチョコレートケーキを優奈の口に運ぶ。
「甘くて美味しいです」
「俺にもショートケーキ一口くれよ」
「いいですよ」
今度は優奈がショートケーキを一口サイズに切って俺の口の前にまで持ってくる。
「はい。あーん……」
「あー……ん……うめっ」
ケーキをシェアするときはお互いに食べさせ合っている。最初の頃もそして今も恥ずかしさはあるのだが、こうしていると恋人らしさを感じることができて幸福感を覚える。
ときどきだが、お互いに食べさせ合うのが続いてしまっていざ自分のケーキを食べようとすると気がつけば相手に全部食べさせてしまっていることがある。それも今ではいい思い出だ。
ケーキを食べ終えて、お腹が十分に満たされた俺たちはソファーでのんびりと座っていた。
そこから二十分ほど経過した頃だろう。
「良くん。良くんに渡したいものがあるので……ちょっといいですか?」
優奈が立ち上がってリビングから姿を消すと、程なくして戻ってきた。手には少し大きめ紙袋を持っていた。
「クリスマスプレゼントです……受け取ってください……」
優奈はソファーに座り直して、その紙袋を俺に手渡す。
「開けてもいい?」
優奈はコクリと頷き、俺は紙袋からプレゼントを取り出した。
「マフラーだ」
俺は箱からマフラーを取り出してじっくりと見つめる。色は黒と白でデザインはシンプルな横のボーダー柄。肌触りはふわっとしていて柔らかくチクチクするということもない。多少長めに作られているが、首元にぐるぐる巻けるので気になるほどではない。
「実はそれ……手編みなんです……」
「マジか。すっげ……」
「その、あまり上手にできなくて……お店のものにするか迷ってたんですけど、でも良くんにはどうしても手編みのものをプレゼントしたいって思ったから……」
マフラーは編んだことないので分からないが、きっと家に帰ってから毎日編んでくれていたのだろう。やり慣れないことのはずなのに、俺のために編んでくれていたというその気持ちだけで十分嬉しかった。
「今ここで巻いてみてもいい?」
「はい。どうぞ……」
俺は首元にマフラーを巻き始める。が、これまでマフラーを巻いたことのない俺はどう巻けばいいのか分からずモタモタしていた。優奈は小さく笑って、マフラーを巻く俺の手を優しく触れて、巻き方を教えてくれる。
「どう……ですか?」
マフラーを巻き終えて、優奈は尋ねてくる。
自分の編んだマフラーが俺に合っているか不安で仕方がないのだろう。俺は口元の部分のマフラーを下げて、
「暖かい。とても嬉しいよ。ありがとう」
俺は笑みを見せて言うと、優奈も安堵の表情を見せた。
「次は俺の番だな」
一旦、巻いていたマフラーを畳んでテーブルに置いて、俺は自室に隠していたクリスマスプレゼントを取りに向かい、小さな紙袋を持ってリビングに戻ってきた。
その紙袋から取り出したのは、白色の小さな箱だった。その箱の中身が何かは予想できず、優奈は小さく首を傾げる。
俺はソファーに座る優奈の前で、片膝を突くような格好をとって、その小さな箱を開ける。
そこにはキラリと輝く指輪が入っていた。
「これって……」
「俺からのクリスマスプレゼント」
緊張と恥ずかしさで鼓動が少し早くなるが、俺は気にすることなく優奈に笑みを見せる。一方の優奈は目の前に輝く指輪に目を丸くして、驚いている様子だった。
華奢で清潔感を与えてくれるシルバーリングに中心には小さなライトストーンが埋め込まれている。優奈はあまり目立つような服は着たがらない。それに合うようなシンプルで落ち着いていて、優奈に似合うものを俺の中でチョイスしたつもりだ。
指輪を渡すというだけなのに、なぜか告白するときと同じくらい鼓動が鳴り響く。それは優奈が付けたらどれほど似合うのかという楽しみと、それを受け取ってくれるのかという不安の二つのの気持ちがせめぎ合っているからだ。
「斗真から言われたんだ。クリスマスプレゼントは感謝の想いを伝えるものだって」
俺の感謝の想いがどうやったら優奈に伝えられるか考えて、優奈と一緒に過ごしたあの時間で指輪を買おうと決めた。
でもその感謝の気持ちはこれだけでは伝えられない。だからこの指輪と言葉で改めて伝えることにした。
「優奈」
俺は目の前に座る彼女の名を呼んだ。優奈は何も発することなく、ただ俺を見ていた。
「俺と出会ってくれてありがとう。あのとき公園で声をかけてくれてありがとう。弱さを受け入れてくれてありがとう」
今だからしか言えないこともある。それを余さず伝える。
「今までも、そしてこれからも優奈のことが好きだ。もっと好きになる。これは一人にさせないって言った俺の決意表明みたいなものだ」
俺は最後の言葉を言うために、大きく息を吸った。
「俺のことを好きになってくれて、付き合ってくれてありがとう」
伝えたいことは全て伝えられた。俺は緊張からか解き放たれて思わず力が抜けそうになる。
優奈は何も言葉を発さないので、どうしたんだと思いながら優奈の方を見上げると、
「ゆ、優奈!?」
俺は思わず声を上げた。彼女の目尻には涙が溜まっていて、手で口元を覆っていたからだ。
俺は頭を必死に回転させて、なぜ優奈が泣いたのか原因を考える。
「ご、ごめん!もっといい指輪を買えば良かったな!」
優奈は首を激しく横に振る。その反動からか、優奈の頬には涙が伝って、落ちた。
「違います……全然違くて……指輪も凄い嬉しくて、良くんがそう言ってくれたことも嬉しくて……感情がぐちゃぐちゃになって泣いちゃったっていうか……」
「と、とりあえず涙拭こうな」
ティッシュを渡して優奈は涙を拭く。目元は少し腫れていた。落ち着いたのかゆっくり深呼吸をして優奈は俺を見た。
「ありがとうございます……」
「一応予算内で買える一番いいやつを買ったんだ。優奈に似合うと思ったし……でも優奈の希望をさりげなく聞いておけば良かったよな」
「そんなことありません。良くんがわたしのために指輪を買ってきてくれたこと。それがなによりも嬉しいんです」
優奈は屈託のない笑顔を向ける。
俺の想いが優奈に伝わったとみてもいいだろう。
「右手を出して貰ってもいいか?」
優奈は右手を前に出す。俺は彼女の手を優しくとって薬指に指輪をはめた。
左手の薬指は大事なときにとっておきたいという女心もあるだろう。
「サイズもピッタリ……なんでわたしの指のサイズを?」
「優奈が寝たあとにこっそり測った」
抱きしめられていたので変に動けば優奈も起きるだろうし、相当苦労したがなんとかどうやら問題なさそうだ。
「綺麗……」
優奈はうっとりしたような目で指輪を眺めながら左手で優しく撫でる。
「似合っているよ。その指輪」
「ありがとうございます」
何度も指輪を見ては嬉しさのあまり笑みを隠せない優奈がいて、俺もソファーに座り直す。
それぞれの手がお互いの手を求めて動き、手に触れれば決して離れられぬように指を絡ませて強く握りしめる。
俺たちは向かい合うと、額を軽く当てる。お互いの吐息が近くで感じて、鼓動が早くなる。優奈もきっと同じだろう。
「これからも……一緒にいてくれるか?」
「はい。ずっと一緒にいます」
そう言うと、俺たちは笑い合ってしばらく額を当てたまま、しばらくこの時間を楽しんでいた。
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