好き好きゲーム
投稿遅くなってしまいすみません!
起きた俺たちは顔を洗ってうがいをしたあと、朝食の準備をしていた。最近は優奈に任せっきりになっていたので、朝は俺一人で作っている。
その間、優奈はイルカのぬいぐるみを抱きしめながら椅子に座って準備している俺の姿を眺めていたり、俺の後ろを猫のようにとことことついてきて、後ろから抱きしめてくる。
俺は気にする素振りを見せず何事もないようにしていると、優奈は不満そうな目でこちらを見つめながら頬を膨らませて、構ってと言わんばかりにさらに強く抱きついてきて、背に頭をすりつけてくる。
学校での上品な振る舞いしか知らない生徒たちが今の優奈(甘えモード)を見たら血を吐いて倒れてしまうレベルだろう。
振り向いて優奈の頭に手を置こうとすると、優奈は嬉しそうに目を輝かす。
少し意地悪してやろうと、寸前でその手を止めて引っ込める。え?っと丸くしてこちらを見たあとにあからさまにシュンとした様子を見せて、拗ねたように俺から離れていきソファーに座ってぬいぐるみを抱きしめた。
俺は軽く笑みを浮かべて「ごめんごめん」と謝るも「もう知りません」と唇を尖らせて、そっぽを向いてしまったので、あとで好きなだけくっつかせてやろうと思いながら準備に戻る。
朝食の品が出来上がって食卓へと運んでいく。
朝食はトーストにジャムを複数個用意。スクランブルエッグとベーコンにサラダといったバランスの良いメニューだ。最後に優奈のお気に入りのカフェオレと、俺のコーヒを置く。
「いただきます」
「はい。召し上がれ」
優奈はブルーベリージャムをたっぷり塗ったトーストを一口。ちょうど良い焼き目がついた食パンはサクッと音がして、口の中に広がるブルーベリーに優奈は頬を緩ませる。
ご飯を食べるときの優奈は、抱えている負の感情も一切忘れて食べることだけに至福の時間を感じている様子であり、今も美味しそうに朝食を食べている。
向かい合うようにして座っている優奈の笑顔を間近で眺めながら、俺も微笑をこぼしてコーヒーを口にする。
その姿を、優奈はじっと見つめてきた。
「わたしもコーヒー飲んでみたいです」
「苦いぞ?」
以前飲んでみるかと尋ねたときは、速攻で拒否されたのはよく覚えている。俺はマグカップを渡して、優奈は二度ほど息を吹きかけてほんの少し口にコーヒーを含む。
「どう?」
「苦い……」
マグカップから口を離しては、優奈は眉間に皺を寄せてカフェオレを凄い勢いで飲んでいき、あっという間になくなった。
「コーヒーは苦いのが美味しいんだけどな」
「よく分からないです」
コーヒー特有の香り。口にしたときに広がる程よい苦味と酸味。様々な要素が組み合わさってコーヒーの美味しさを作り出しているのだが、優奈にはそれは分からないようで、俺は軽く肩をすくめた。
「マグカップ貸して。おかわり持ってくる」
マグカップを受け取りカフェオレのおかわりを淹れて、優奈の元に置く。優奈はスプーンでスクランブルエッグを掬って美味しそうに頬張っている。
「どうしたんですか?」
「いや、本当に美味そうに食べるなって」
「美味しいですからね」
そう言って穏やかに笑うと、再びスクランブルエッグを口にする。
優奈の皿に視線を送れば、既にベーコンとサラダは空っぽ。スクランブルエッグも残り僅か。食パンは二枚食べている。そこそこの量だと思うのだが、それらは優奈の口の中に全て消えていった。
「ごちそうさまでした。美味しかったです」
「お粗末さまです」
「食器は洗っておきますね」
先に食べ終わった優奈は、食器をシンクまで持っていって洗い始めた。俺も残りの食パンにイチゴのジャムを塗って、齧り付いた。
☆ ★ ☆
朝食を食べ終えて歯を磨いたあと、俺はソファーに腰を下ろしていた。両膝には普段かかるはずない重さがかかっていて、顔の前にはクリーム色の髪がある。
優奈が俺の膝の上に座っているのだ。
正確には座らせた、という表現が適切である。
優奈は特に何かアクションを起こすこともなく、ぬいぐるみを抱きしめたままただじっと座っていた。
「さっきはごめんな。優奈が可愛いから意地悪したくなったんだよ」
後ろから優奈の髪を撫でながら謝る。
「……もっとしてください」
「仰せのままに。優奈姫」
ポツリと呟いた優奈に、俺はキザっぽく返事をして髪を撫で続ける。次第に真っ直ぐ伸ばしていた背筋も少しずつ俺にもたれかかるようになり、やがて全体重を俺に預けてきた。
俺は空いていた左腕を優奈のお腹に回して後ろから抱きしめて、首元に顔を埋める。吐息がかかってびっくりした様子を見せる。
「優奈」
耳元で囁くと、たちまち耳が赤くなる。何度かやっているのに全く同じ反応をしてくれるのだから、面白いしもっとしたくなる。
ふぅっと息を吹きかければ身体を震わせるが、俺は逃げられないように強くこちらに抱き寄せる。
「良くん……」
「可愛い」
耳元で言うと、俺の唇が僅かに優奈の耳朶に触れる。柔らかい耳朶は異常なほどの熱を持っていた。
「優奈。こっち向いて」
優奈にもっと触れていたい。感じていたい。自分の心が満たされたいと我儘な感情が沸き立ってくる。
優奈は何も言わず顔だけこちらに向けて、目を瞑って僅かに顔を上げる。指で優奈の唇に触れると柔らかな感触が指に伝わる。
俺は顔を近づけて、優奈の唇を自分の唇と重ねた。「ん……」と優奈の口から声が漏れる。
ゆっくり離すと、優奈はふやけきった表情を見せた。
「良くん。ゲームしましょう」
「ゲーム?」
「好き好きゲーム。お互いに一回ずつ好きって言い合って先に照れた方が負けってゲームです」
「ん。いいぞ。最初は優奈からでいいよ」
完全にその場の雰囲気で決まってしまったゲームだが、面白そうなのでのってみる。
「……好き」
その言葉に心臓が高鳴るも、俺はなんとか表情に出すのを我慢する。しかも涙目の上目遣いで言ってくるのだから卑怯だ。
「じゃあ次は俺の番だな……好き……」
顔を真っ赤にして腕の中でプルプルと震える優奈。なんとか堪えているので、このままだと優奈の番になるのだが……
「好き……大好き……」
「良くん……?」
「本当に好きだよ」
「ルール違反ですよ……」
「じゃあ俺の負けでいい。ずっと言えるから……我慢しててな」
俺はしばらく優奈の耳元で「好き」と連呼し続けてその結果、優奈は顔を真っ赤にしてソファーでぐったりとしてしまった。
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