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姫とお出かけ

『夜遅くにすみません。以前話していた、休日に柿谷くんがご飯を振る舞ってくれる件についてなのですが』


 風呂上がり、髪を乾かしながらスマホを触っていると天野さんからラインがきた。


『今週の土曜日とかどうでしょうか?』


 確かその日は大した予定もない。唯一の友人である斗真もその日は部活が休みになったため、瀬尾さんとデートに行くと浮かれていたな。


『ん。その日で大丈夫だ』


『食材の買い出しとかは大丈夫ですか?』


『そうだな。午前中に買い出しでも行こうかと思ってる』


『わたしも一緒に行った方がいいですよね?』


『あーそうだな。お願いしようかな』


『分かりました』


 可愛いペンギンのスタンプが送られてくる。

 

 なんだろう。

 あの不良の一件以来、天野さんの距離が近いような気がする。(物理的)最初は一人でいるのが怖いだけなのだと思い特に疑っていなかったのだが、あの出来事からもう一週間は経過している。


 一緒が嫌なわけではない。むしろ彼女ほどの女の子と一緒に登下校できるのは、男としてありがたいことでもある。そのおかげで他の男子生徒からは冷たい目で見られることも多い。

 

 それが原因なのか、天野さんに声をかける人間が極端に減ったのだ。変に声をかけようものなら俺にシメられるという噂まで立っている。


 目撃している生徒もいるし、校内で記事にまでされてしまったからな。


 何よりも、屋上で弁当を食べているときの距離感が近くなった。最初は人一人分くらいの距離が空いていたのだが、今となっては幅十五センチほどの距離しか空いていない。


 そして俺といるときは笑顔の時間が増えた。彼女の笑顔は見ているこちらとしても癒されるので得なのだが、それにしても何故これほどまでに距離が縮まったのか不思議でならないのだ。


 俺が気にすることでもないか。と思い、そのままベッドに横になって眠りについた。


☆ ★ ☆


 そして休日ーー

 午前中は少し離れたデパートで買い物。そして夕食は俺の家でビーフシチューを食べるという予定になった。


 なぜデパートなのかというと、「服が欲しい」と言っていたからだ。

 季節は五月中旬。暑すぎず寒すぎずの丁度良い季節である。


 俺は服装は黒のテーパードパンツに白のトップス薄手のジャケットを羽織っている。

 なかなかいいファッションなのではないか?と自画自賛。


 ポケットからスマホを取り出す。時刻は十時二十分。集合時間は十時半で場所はアパートのエントランスだ。しばらくスマホをいじって時間を潰す。


『今からそちらに向かいます』


 ラインが届く。それから程なくして、天野さんが姿を見せた。桃色のノースリーブワンピースに純白のカットソーを着合わせいて、肩にはショルダーバッグがかかっている。

 

 初めて見る天野さんの私服姿に、目が奪われてしまった。


「あ、あの……そんなに見ないで……」


「あ、あぁ。よく似合っているよ」


「……本当に?」


 先ほどまで不安そうな表情を浮かべていたが、俺の一言に顔が明るくなる。


 近くのバス停まで歩き、バスに揺られること二十分。俺たちはバスを降りて五分ほど歩いた。


 ハウォーレ。

 俺たちの目的地である。服もちろんのこと映画、フードコート、ゲームコーナー、スーパーその他諸々揃っている。


「スーパーは最後に行くとして、最初は天野さんの服選びでいいんじゃないかな?」


「……いいの?」


「もちろん」


 そうと決まれば、俺たちはエスカーターに乗って二階へ移動。可愛らしい服装が多く揃っている服屋へと向かった。


「これは……わたしにしては少し派手かな……こっちはもう少し色合いが……」


 天野さんの目の色が変わった。

 服を自分に合わせては鏡を見て、うーんと唸り戻していく。


 俺はレディースのものは見てて全く分からないため、ただ見ているだけだった。


「柿谷くん。どんな服が似合うと思う?」


 まさかの質問に俺は固まる。


「あーえっと……そうだな。天野さんは何着ても似合うと思うけど強いて言うなら暗い色よりは明るい色の方がいいと思う」


「なるほど……」


「それにスタイルもいいから縦のラインが見える服装とかも似合うと思う」


「は、はい……」


「いや、でも結局素材がいいからな。何着ても似合うんだよ。うーん」


「もう……大丈夫だから……」


 天野さんが頬を赤らめてやめてくれと懇願していた。今思えば俺、恥ずかしいこと言ってなかったか?


「あ、その、なんかごめん」


「うん……」


 お互いそのあと気恥ずかしくて、しばらく話せなくなってしまった。


☆ ★ ☆


 結局、天野さんは服を購入しなかった。

 

「そういえば……」


「どうしたの?」


「今もそうだけど天野さんって俺と話すときいつも敬語なのに、今日はタメ口で話してたから使い分けでもしてるのかなって」


「……」


 無言になって顔を赤らめる天野さん。


「普段は緊張しちゃってつい敬語で話しているんですけど……両親とかその、親しい関係の人には無意識でタメ口になっちゃうんです……」


 何この可愛い告白。

 つまりあれですか。俺のことは親しいと思ってくれていたから無意識のうちにタメ口で喋っていたと。


「……嫌でしたか?」


 今は無理に敬語で話してるんだろう。


「いや、全然です」


 何故かこっちまで恥ずかしくなってきた。

 それでも、俺と天野さんの距離がまた一歩近づいたような気がした。


「お昼ご飯、どうしよっか?」


 可愛らしく尋ねてくる天野さん。

 タメ口にこんな破壊力があるとは。


「そうだな。食べてから買い物しよう。時間かかるかもしれないし」


 俺たちはフードコートへ向かおうとしたその時。


「「あ」」


「「あ」」


 デート中だった斗真と瀬尾さんと出くわしたのである。

お読みいただきありがとうございます。

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