親友とのお出かけの約束
入浴を済ませて風呂掃除を終えてリビングへと戻ると、ソファーに座っていた優奈が立ち上がる。手にはタオルやお風呂セットを入れていた袋とはまた別の袋を持っていた。
尋ねると「保湿クリームです」と言葉が返ってきた。寒い季節は乾燥しやすく、今の時期は気を遣っているそうだ。
あの色白で綺麗な肌の裏には、日頃からのケアを欠かさず行っているからなのだと理解させられる。一応俺も、お風呂上がりに保湿液は軽く付けてあるが優奈ほどのケアはしていない。
女子っていうのは大変だなぁと思いながら冷蔵庫を開けて、アイスを取りだす。
「優奈も食べる?待ってようか?」
「いえ。先に食べててください。わたしもあとでいただきます」
「あいよ」
顔や髪、手足を保湿している姿を見られたくないようで扉を閉める直前に「覗かないでくださいね」と本日の二度目のお言葉をいただく。
「俺、信用されてないんですかね?流石にちょっと凹むよ」
俺はわざと落ち込んだ風に装い、肩を窄めてシュンとした様子を見せる。
「ち、違います!良くんのこと全然信用しているし信頼もしていますから!それに良くんになら……見られてもいいけど……でもやっぱり恥ずかしいというか……」
「俺なら見てもいいんだ?」
からかうように笑って言うと、プシューっと蒸気を発する勢いで優奈の顔がみるみる赤くなっていく。
「ごめんごめん。からかいすぎた。綺麗になる努力をしているところは見られたくないもんな。早くやっておいで」
正直、更なる悪戯心が湧いてきているのだが、せっかくのお泊まりなのに優奈が機嫌を損ねてしまうのは避けたい。
優奈は頬を膨らませながら「もう……」と言葉を漏らして脱衣所の扉を閉める。
扉が閉まったのを確認したところで、俺は椅子に座ってアイスの蓋をめくりアイスを掬って口に放り込む。シンプルなバニラ味のアイスだ。
(やっぱ風呂上がりのアイスは最高だな)
もう一口食べようとしたところで、スマホの着信音が聞こえる。テーブルに置いておいたスマホに手を伸ばして確認すると、斗真からの電話だった。
「もしもし」
「あ、もしもし。夜遅くに悪いな」
「いいよ。休みの日だし。遅いって言っても十一時だろ」
正確には午後十時五十分。高校生が眠る時間にしては早い時間だ。俺もそこまで眠くはないので気にしていない。
「それで、なんかあった?」
「そうそう。明日何か予定あるか?」
「いや、特にない」
基本優奈とどこか出かける時は、遅くても二日前に話をするようにしている。
二人の時間も大事だが、一人の時間や友達と過ごす時間も大切にしようと決めているからだ。
もし優奈と遊ぶ前に斗真や他の友達と遊ぶ約束をしているならば、優奈はそっちを優先してくれと言ってくれる。逆に優奈が瀬尾さんや平野さんたちと遊びに行く約束を先にしていたなら、俺も友達との約束を優先させる。
「明日買い物に行かね?」
「買い物?」
「そうそう。ほら。十二月といえばクリスマスだろ。梨花に渡すプレゼント買いに行きたいって思ってたし、良介も天野さんにプレゼント渡さなきゃいけないだろ。だからどうかなって」
「あ、そっか。もう少しでクリスマスか」
「忘れてたんかい」
「仕方ねぇだろ。去年までは縁もゆかりも全くなかったんだから」
斗真のツッコミに俺は息を漏らす。
去年までの俺のクリスマスは、母さんとケーキを食べるくらいで普段と何も変わらない平日。そのためクリスマスを特別な日と思ったことはなかったのだ。
「今年は天野さんとクリスマス過ごすんだろ。だったらプレゼントはマストだろうが」
「でも女子ってどういうものが欲しいんだ?」
「だから俺が一緒に行こうって誘ったんだ。良介そういうのに無頓着だろうし、初めてだからよく分からんだろ」
「おーおー。経験者は言うことが言うことが違いますな」
上から目線の発言に少し気になるところはあるが事実だ。斗真のように贈り物を渡したことのある人間が近くにいた方が心強い。身近な人間の意見も聞けるので信憑性も高く安心できるだろう。
「一応方向性は考えておけよ。クリスマスプレゼントは感謝の想いを伝えるものなんだから」
「分かった。考えておく」
「時間はどうするよ。俺はいつでもいけるぜ」
「そうだな……午後の一時からはどうだ?」
できるなら午前中は優奈とゆったりとした時間を過ごしたい。朝起きて会話に花を咲かせながら朝食をとり、のんびりと家で過ごす。こんな機会は滅多に訪れないだろう。
「オッケー。じゃあ駅前で現地集合な」
「了解。それじゃあまた明日な」
「おう。おやすみ」
斗真との電話が終わり、スマホをテーブルに置いて天井を見上げる。
(プレゼントか。優奈は何が欲しいんだろうか)
こう言ったことに備えて事前に自然な流れで聞いておけば良かったと後悔。そもそもクリスマスという大事なイベントを忘れている時点で自分でもどうかと思う。
(感謝の想い……か)
優奈が保湿を行なっている間、俺はアイスを食べながら優奈に渡すプレゼントをずっと考えていた。
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