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お泊まりの約束

 俺と斗真は掲示板に表示されている順位表を見に来ていた。掲示板前には多くの生徒がいるので、少し離れたところから眺めている。


「良介がテスト結果でここまで感情を見せるなんて初めてだな」


「そうか?別にいつも通りだと思うんだけど」


 斗真がこちらに視線を向けては意外そうに言ってくるので言葉を返すと、「だってほれ」と指差す。その方向には小さくガッツポーズしている右手があって、「あっ」と俺自身も驚いたように目を見張った。


 今年最後の期末テストも、無事一位の椅子に座ることができた。おそらくその安堵感から自然と出てしまったものだろう。


「今回のテスト、結構難しかったよな。先生も平均点結構低いて言ってたし。その中で全教科八、九十点台。国語は満点だっけ?もう言葉も出ねぇわ。俺は中間のときより順位下がったし」


 両手を頭に回して落胆したように呟いた斗真は二十四位だ。彼の言った通り、今回のテストは今までのテストよりも難しかった。その中でこれだけの順位に位置しているのだからそう悲観する必要はない。


「でも天野さんも凄いよな。数学で満点取るとか」


 全教科中、数学が一番平均点の低い教科だった。他の教科に比べてテスト範囲が広く、内容も非常に難しいものだったからだ。そんな中満点を取ってみせるのだから流石としか言いようがない。


 優奈の総合順位は二位。俺と僅か三点差のいうほぼどんぐりの背比べ状態であった。俺が一問でも間違っていれば同列、もしくは順位は逆転していたのかもしれない。

 

「今回のテスト、天野さんは今まで以上に真剣だったからな。負けず嫌いの天野さんのことだし、今頃は悔しがってんじゃないの?」


 優奈は瀬尾さんと掲示板の一番前で順位表を眺めているので、ここにはいない。


 確かに優奈の気合いの入りっぷりは家でテスト勉強をしていたときから感じていた。それだけ俺に勝ってお願いを叶えたかったということだ。

 優奈のお願いは、俺にとっても魅力的なものであったが、だからといって手を抜いてしまえば優奈はきっと納得しない。だからこそ、俺も勝つつもりで真剣にテストに臨み、勝ったのだ。


 だが、俺としては自分の願いよりも優奈のお願いを優先したい。むしろ優奈のお願いは俺の願いに変わりつつもある。


 優奈が納得するかどうかは別として、家に帰ったら一度相談してみようと思った。


☆ ★ ☆


「良くん。期末テスト一位おめでとうございます」


 家に帰宅して、ソファーに腰を下ろしながらテレビを見ていたところ、優奈が口を開いた。優奈の表情を窺うが、特に悔しさで表情を歪めるといったことなく穏やかに笑っていて、一位を座を死守した俺に対して労いの言葉をかけた。


「サンキュ。でも本当にギリギリだったよ。優奈に教えてもらった数学の問題が解けなかったら間違いなく負けてた」


 数学のテストで優奈に教えてもらった問題が出てきた。教えてもらわなければ解けなかった問題であり、きっと優奈にも負けていたはずだ。


「じゃあ良くんが一位になったのはわたしのおかげってことですね?」


「そうそう。優奈のおかげよ。ありがとな」


 俺は口元を緩ませて、手を優奈の頭の上に乗せて優しく撫でる。優奈は少しくすぐったげに目を細めるも、あどけない表情を見せた。


「それで、良くんのお願いの件についてですけど……」


「あ、それについてなんだけどさ」


 俺は軽く手を挙げる。


「俺のお願いはなし。優奈のお願いがいい」


 そう言うと、優奈は呆気にとられたかのような表情を浮かべて俺を見ていた。まさかそんなことを言われるとは思わなかったのだろう。目をパチパチとさせている。


「優奈だって今回の期末テスト頑張ってたのは知ってる。頑張ったのにその努力が報われないってのは俺としてもなんか嫌なんだよ」


 確かに順位で見れば俺が一位だが、三点差などあってないようなものだ。俺の中では俺と優奈の同列一位だと思っている。


「でも良くんのお願いは……」


「じゃあお願いを変える。優奈と同じ願いにする。俺のお願いはまた今度叶えてもらうことにするよ」


 そう言うと、優奈は納得したように頷く。


「……分かりました。じゃあその……いつにしましょうか……わたしたちのお願いを叶える日は……」


「そうだな……今週の土曜日ってのはどうだ?」


「分かりました……楽しみにしています……」


 優奈は頬を染めて美しく微笑んだ。


「あぁ、俺も楽しみにしておくよ」


 顔が熱くなっていくのを感じる。余裕そうに言ってみせるが、きっと優奈のように顔が赤くなっているだろう。


 俺と優奈のお願い――お泊まりしたいという一つのお願いは土曜日に叶えられることになった。

お読みいただきありがとうございます。

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