カッコいいところ
第一試合、第二試合、昼休みを挟んだあと第三試合を終えて、総当たり戦での試合は全て終えた。
今俺たちはその第三試合を終えた直後であり、設置されているベンチに腰を下ろしていた。
「まさかの全勝とはな」
「流石に俺もこれは予想外だったぜ」
俺がポツリと呟くと、斗真も驚きを隠せないと言った様子で反応した。
俺たちのチームは三試合とも勝利を収めて、準決勝に駒を進めたのだ。
「やっぱ斗真バケモンだわ。大活躍じゃんかよ」
斗真の運動センスの高さを改めて感じた三試合だった。打っては長打を連発して、投げては相手を完璧に抑えこむピッチングを披露してみせた。外野にいた俺は特にボールが飛んでくることもなく、ただ立っているだけに等しかった。もし優勝すればまずMVPは斗真だろう。
「別にそんな大したことねぇよ」
鼻の下を擦る斗真だが、鼻の下が完全に伸びきっている。完全に調子に乗っているが、彼の性格上こちらの方が力を発揮しやすいので何も言わないでおく。準決勝でもこの調子で暴れ回ってもらいたいものだ。
「それを言うなら良介もだな。毎試合ちゃっかりヒット打ってるし」
「そいつはどうも」
斗真からお褒めの言葉を受け取り、俺はペットボトルの蓋を開けてスポーツドリンクを流し込む。
「そういや天野さんのチームはどうなったんだろうな?」
「さぁな。時間的に試合も終えてるだろうし、こっち来たら聞いてみるか」
昼休みは俺と優奈に、お弁当を持ってきていた斗真と瀬尾さんの四人で屋上で食べていた。
どうやら優奈のいるチームも順調に勝ち進んでみ、準決勝までいったそうだ。瀬尾さんのチームは初戦で三年生のチームに完敗したらしい。そのチームに元バスケ部のエースの人がいるらしく、優奈たちは準決勝でそのチームと戦うとのことだった。正直勝つのは難しいと言っていたのだが、頑張ってもらいたいところだ。
「なんだよ」
ペットボトルから口を離して、斗真に向けて言う。彼は何故かニヤニヤと笑みを浮かべていてこちらを見ていたのだ。
「なーにがほどほどにだよ。初っ端からマジでやってたじゃんか」
「……なんのことだか分からんな」
「天野さんにカッコいいところ見せたいから本気で勝とうとしてただろ」
「……悪いかよ」
「ぜーんぜん。彼女を持つ男として当然の考えだよ。現に俺も梨花にカッコいいところ見せたくて頑張ってるようなもんだしな」
カラカラと笑う斗真を見てバツが悪くなった俺は「フン」と鼻を鳴らして再びスポーツドリンクを口にした。
スポーツは勝ち負けよりも楽しむこと。そう思っていたのだが、今日になって優奈にカッコいいところを見せたいと強く思うようになったのだ。
その想いは原動力になり、勝ちたいと思う感情へと変換されて、いつの間にか本気でやっている自分がいた。それに勝つことでまた違った楽しさを実感することもできた。
カッコいいところを見せて、勝ちたい。それが今の俺の頭の中に強く残っている。
「斗真」
「ん?」
たかが球技大会。体育の延長線上と今まで思っていた。こんなことを言うのはガラではないと分かっている。だが、
「勝とうぜ」
「まさか良介からその言葉を聞けるとは思わなかった」
斗真は驚いたように目を丸くするが、すぐに笑みを見せてそう言った。
☆ ★ ☆
俺たちは総当たり戦表を見ていた。
各ブロックの一位がどこかを確認するためである。俺たちはCブロックだ。
「おっ。真司たちも一位だ」
Bブロックの欄に、真司たちのチームが一位で載っていた。先ほど馬鹿騒ぎをしていたので何事かと思っていたのだがこういうことか。
準決勝はAとB、CとDで行うことになっている。もしお互い勝ち進めば真司たちとは決勝で戦えるだろう。
「良くん」
俺のことをそう呼ぶのは一人しかいない。振り返れば優奈と瀬尾さんの姿があった。
「お疲れ。どうだった?」
「完敗でした。やはり三年生は強いですね」
負けず嫌いの優奈だが、彼女の表情は穏やかだった。完敗と言っていたので、悔しいというよりは相手が強すぎたと笑ってしまうほどだったのだろう。
「天ちゃんすごく頑張ってたよ」
「ありがとうございます。それで良くんたちのチームはどうなんですか?確かお昼の段階では二勝だって」
「三試合目も勝って今から準決」
そう言うと、優奈は頬を緩ませて瞼に喜びを浮かべた。
「おめでとうございます。近くで応援しているので頑張ってください」
「おう」
「見とけよ梨花。大活躍してやるぜ」
「応援してるけど、気合い入れすぎて空回りしないでね」
自分の胸を強く叩く斗真に、瀬尾さんは注意の言葉をかけつつも柔らかな微笑みを見せた。
「さてさて。Dブロックの一位は……」
再度、斗真は表に目をやって俺たちの対戦相手のチームを探す。
「どうやら三年生のチームらしいな」
「すげ。どの試合もボロ勝ち」
「こういうチームこそボコボコにして勝ちたくね?」
斗真は舌で唇を舐めてニヤリと笑う。それは好戦的でスイッチが入ったときの斗真の表情だ。
「おう」
俺も斗真の熱に当てられれように、不敵な笑みを見せて言った。
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