姫の弁当と寝顔
日間現実世界[恋愛]11位!
皆さんほんとうにありがとうございます!
午前の授業が終わり昼休み。
食堂で学食を食べに行ったり、別の教室に向かい友達と弁当を食べようとしていた。
天野さんは大きい袋を取り出して俺の横を通り過ぎて屋上へと向かった。
「あれ?」
「どうした?」
「午後の授業の教科書がない。斗真、悪いけど先に行っててくれ」
「良介の分も席取っておくか?」
「今日は一人で食べるよ。斗真もたまにはサッカー部の生徒と食べてこいよ」
「おう。そうするわ」
斗真を見送って一分ほど。
鞄の奥に隠れるように教科書が入っていた。
(俺も向かうか)
立ちあがろうとすると一枚の紙があった。ノートの紙を切り取って、それを二つ折りにして置かれている。
なんだこれ?と思いその紙を開くと、
『屋上で待ってます』
と、可愛らしい文字でそう書かれていた。
そういえば天野さん。いつもはそのままドアに向かうのに、今日はわざわざ俺の方を通っていったな。
廊下を出て階段を登り、屋上のドアを開ける。
いつものベンチに天野さんは腰掛けており、俺が来たのを確認すると安心したような表情を見せる。
「あの手紙に気づいてくれて良かったです」
「食堂に行くギリギリだったけどな。それでどうしたんだ?」
そう尋ねると、天野さんは袋から大きな弁当箱を取り出した。彼女が食べるにしては大きいサイズの弁当箱である。
「これ、柿谷くん用に作ってきたんですけど……」
そう言って俺に弁当箱を渡す。
俺もベンチに腰掛けて、
「開けてもいい?」
天野さんはコクリと頷いた。
開けると彩り豊かなおかずが詰められていた。
昨日の残りであろう生姜焼きと卵焼き、添え野菜であるトマトとレタス。そしてふりかけ付きの白米だ。
「おぉ」
俺は思わず感嘆の声を上げた。
「これ、作ってくれたのか?」
「一人分も二人分も対して変わらないので。それにわたしが落ち着くまで側にいてくれるんですよね?」
「え?それは昨日の話じゃ……」
「だったら弁当は没収します」
「それは勘弁してください」
平謝りすると天野さんは笑った。
「冗談です。ただ一人で食べるのは味気ないので、お誘いしただけです。迷惑でしたら……」
「迷惑なわけないじゃん。俺も今日は一人で食べる予定だったし。むしろ俺のために作ってくれて嬉しいよ」
「だから一人分も二人分も変わらないだけであって、別に柿谷くんのために作ったわけじゃ……ほら、早く食べてください」
ありのままの気持ちを伝えると、天野さんは顔を赤くして急かしてくる。「いただきます」と手を合わせて、早速いただく。
「マジで美味いな。何度食べても飽きないよ」
「そう言ってもらえると、作った甲斐がありました」
「でも作ってもらってばかりじゃ申し訳ないな」
「わたしが好きでやっていることですから、気を遣う必要はありませんよ」
彼女はそういうが、貰ってばかりというのも気が引ける。
「今度の休日……夕飯とか食いにくるか?」
「え?」
天野さんは目を丸めて、声を漏らした。
「天野さんほど料理上手くはないけど、やっぱり作ってもらうだけじゃ割に合わないしな。昨日も夕飯ご馳走なったし、今もこうして弁当貰ってるし」
「じゃあ……お言葉に甘えてさせていただきます」
「おう。何かリクエストとかある?」
「そうですね……ビーフシチューとか?」
ビーフシチューか。確かに休日でないと作ることのできない品だな。一人で食うには寂しいし、ちょうどいいだろう。
「分かった。日時はまた連絡するよ」
「はい、お願いします」
今度の休日、天野さんに手料理を振る舞うという約束を交わして俺たちは弁当を食べた。
☆ ★ ☆
弁当を食べ終えて、俺は大きく伸びをする。
ただですら寝不足だというのに、こんな気持ちよち日差しに当てられては睡魔に逆らうことなどできはしない。
しかしここで寝てしまっては、「柿谷くん。昼寝は生活リズムを崩すと言ったでしょう。また夜ふかしでもしたんですね」と注意を受けるに違いない。
そういえばさっきから静かだな。
そう思って彼女の方を見ると、
「すぅ……すぅ……」
規則正しい寝息を立てていた。やがて俺の肩にもたれかかるような体勢で眠っていた。
彼女が起きるような様子はなかった。
可愛い。
思わず口に出そうになったのを堪えつつも、素直な感想が出た。無防備な寝顔。近づいたことでより一層感じるシャンプーの匂い。
「全く、自分が寝てたら説得力ないじゃねぇか」
そう愚痴を漏らしつつも、俺は彼女を起こさぬように身体を固定する。あんな思いをしたのだ。彼女もきっと昨日はあまり寝付けなかったのだろう。
ポケットからスマホを取り出して時間を確認する。時間は一時十五分。まだ時間に少し余裕はある。
寝顔を写真に収めたいという欲望に耐え、時間になるまで天野さんを好きなだけ寝かせてあげることにした。
そのときの彼女の顔は、とても穏やかなものだった。
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