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休日のバイト

 土曜日ーー

 俺は十五時からバイトに入っていた。平日と比べるとやはり人の出入りは激しく、特に十八時以降は注文のペースが格段に早くなっていた。


 時間帯もあるだろうが、駅前という人が密集しやすい場所。学生でも気軽に立ち寄れるファミレスならではの値段の安さ。これらがファミレスに人が集まりやすい理由だろう。


 一つのメニューを作り上げれば、新しい注文が既に二、三つ入ってきてそれの対応に当たらなければならない。注文から提供するまでの速さもこの店の売りである。一つ一つの作業を丁寧に迅速に行わなければいけないのだ。


 最初は流れるような速さに困惑していたのだが、徐々に身体が少しずつ速さに慣れてくる。人間は環境に適応できる生き物なのだ。


 今では足を引っ張らない程度にはなれていると自分の中では思っている。あくまで主観であり、客観的に見ればどうかは分からない。ひとまずこの難局を乗り越えてから、純也にでも聞いてみようと思った。


「うん。凄いとしか言えない」


 忙しさのピークを過ぎて注文のペースが落ち着いたところで、片付けを行いながら純也にさっき思っていたことを尋ねてみると、語彙力を失ったかのように彼はそう言った。


 奏さんは忙しさのピークを超えたところで、「このあと用事あるから」と言い残して帰っていったので、今は俺と純也の二人である。


「料理できるってのは知ってるけど、要領がいいんだよね。コツを掴むのが早いっていうか。適応能力も高いし。店のスピード感に慣れるの結構苦労したんだけどなぁ」


「純也や奏さんがどう動いているのか見ながらイメージしてやってたからな」


 調理する手を止めぬまま、頭の中でどう動くのか最善かをシミュレーションし、効率よく店の味を出すやり方を模索していたのだ。  


 こればかりはマニュアルには載っていないので自分で見つけないといけない。ときには、他人の一挙一動を観察して良いところは取り入れて落とし込む。忙しい時間帯を体験できたからこそ、自分のやり方の形を見つけることができたのだ。


 今では脳内で描いているとおりに動けてはいるので、あとは意識せずとも行えるように場数を踏んでいけばいいと考えている。


「あとさ。純也は緊張とかする?仮に自分が作った料理にクレームが飛んできたらどうしようとか。それで意識してやってることとかあるのかなって」


 仕事をしていればそういったことだって起こり得る。普段からどんな心の持ちようでここに立っているのかがふと気になったのだ。


「最初はあったよ。俺の場合は厨房だから、異物が混入しないように最善の注意を払いながら調理を行なっているし、声を掛け合うところは掛け合ってる。でもそれを気にし過ぎてたら動きに影響出ちゃうから、そこまで意識はしていない。俺がここのバイトを始めてからはそんなクレームはきたことないし、意識はしつつも気には留めない程度の感覚でやってるって感じかな?」


「なるほど。参考になった」


「どういたしまして。それにしてもカッキーが俺に相談してくるなんてなんか意外だな」


「なんで?」


 微笑を浮かべる純也に、俺は尋ねる。


「だってさ。初めは成績一位なのと、雰囲気で近寄りがたさみたいなの感じてたんだけど、話してみると実際そうでもなかったし。文化祭でも石坂くんと一緒にみんなをまとめててさ。すげーって思ってたやつが俺なんかに相談してきたから」


「拍子抜けしたか?」


「とんでもない。むしろ嬉しいくらいだよ。一応ここでは俺が先輩だからさ。仕事の相談なら乗ってあげる。でもその代わり……」


「代わり……?」


「今度勉強教えて。英語の文法問題苦手でさ」


 純也は手を合わせてお願いする。

 相談とアドバイスをもらったお礼だ。そもそも勉強くらい対価がなくても教えるのだが。


「いいよ」


「助かる」


 近寄りがたさか。あの頃は自分で壁を作っていたのだが、今となっては大抵のクラスメイトなら話すことができる。次第にその壁がなくなり、近寄りがたさも消えていったのだろう。


「二人ともー。注文入ったぞ」


 トモさんが厨房に訪れて、オーダーを伝えにくる。緩めてきた気を引き締め直して、準備にとりかかった。

お読みいただきありがとうございます。

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