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姫と質問攻め

「ハハハッ。それは大変だったな」


「笑うな」


 学校に着いた斗真に先ほどあった出来事を話すと、笑って労いの言葉をかけてくる。俺は頬杖を突きながら「まぁこうなることは目に見えていたから」と言葉を漏らした。


 手を繋いで登校していたという噂、そして優奈がブレザーの裾を掴んで廊下を歩いていたという噂は驚くほど早く広まっていて、教室に入るや否や、打ち上げに参加せずに二人で帰った後の出来事のこと。今出回っている噂は本当なのかと俺は男子に、優奈は女子に取り囲まれた。


 目を血走らせて問い詰めてくる男子に「言うことは言った」と短く答えるだけだったのだが、なぜか女子の方からはキャーキャー騒がしい声が聞こえてきたので耳を傾ければ、


「柿谷くんからはなんて告白されたの!?」


「色々と想いを伝えていただいた上で、好きだから付き合ってほしいと言っていただきました」


「天野さんはなんて返事をしたの!?」


「わたしも好きです。と返事をさせてもらいました」


 優奈はあの出来事のことを頬を赤らめながらも嬉しそうに微笑む。学校では見せることのない締まりのないとろけた笑顔だった。それを見た男子の悶絶した表情。女子たちの歓声が教室を包んだのだった。


「そりゃ先週まで『姫』とその護衛と思ってた生徒が手を繋いで登校してりゃ噂になるわな。廊下歩いてたら騒がしいから何事かと思ったぜ」


 今でこそ教室内は少し落ち着きを取り戻してはいるが、先ほどまでは本当に騒がしくて廊下にいた生徒も覗き込むようにこちらを見ていた。

 登校中に俺たちを見かけた別クラスの生徒からは羨望の眼差しを浴びせられたのは言うまでもない。

 

 それでも何かと視線を感じるのだが、それら全てが悪いものだけではない。噂を聞きつけて教室に訪れた真司や秀隆からはお祝いの言葉と、「次は俺たちの番だから見とけよ!」という宣言の言葉を残して出ていった。

 文化祭で交流を深めた平野さんや東雲さん、家庭部の生徒や宮本からも祝福してもらい、それぞれに感謝の言葉を伝えた。


「そうだ。斗真が言ってた『色褪せてた世界に色が入って何もかも違って見える』っていう。あれ本当だわ」


「そうだろそうだろ」


 俺が共感したのを喜んでか、斗真は嬉しそうに首を縦に振る。俺に彼女いないのを俺よりも母さんよりも心配してくれていたからな。


「ようこそ。こちら側(彼女持ち)の世界へ」


「どうも」


「でも浮かれすぎて公開イチャイチャとかすんなよ。手を繋いで登校はギリ許容範囲だと思うけど、それ以上やったら男子たちから殺意の視線を向けられるぞ」


「経験者は語るってやつか」


「そうそう」


「教室内で彼女に頭撫でてもらったり、平気で惚気たりする奴が言ってもまるで説得力がないんだが」


 そうしたくなる気持ちも分かる。俺も少し前まで学校で優奈のことを抱きしめそうになっていたところをぎりぎりのところで我慢していた。好きな人と気持ちが通じ合うと、場所も人目も関係なく恋人らしいことをしたくなるというのが正直な気持ちではある。俺も斗真のことは言えないな。苦笑いを浮かべながら「とりあえず忠告は受け取っておく」と返事をした。


☆ ★ ☆


 午前の授業が終わり休み時間ーー

 

「良くん」


 優奈が俺の名を呼び微笑みを携えながら歩み寄ってくると、手に持っていた二つの弁当箱を見せるように軽く上げて、


「お昼ご飯。一緒に食べましょう」


「おう」


 今までは気を遣っていたが、付き合った以上は時間差で屋上に行く必要もなくなり、これからは堂々と二人で向かうことができる。


 クラス中の視線が一斉にこちらに集まる。

 言わんこっちゃないと斗真は苦笑いを浮かべている。そんな視線に気づくことなく、俺たちは二人の世界へと入っていく。


「実は今日、良くんの大好きなハンバーグが入っているんです」


「マジで!?」


「はい。今日早起きしたって言ったじゃないですか。良くんが喜んでくれると思って作ったんです」


「優奈のハンバーグは美味いからなー」


「希望があったら言ってくださいね。いつでも作りますから」


「でもそれって朝から負担にならない?ただですら弁当を作って貰っているのに……」


「良くんが毎日美味しそうに食べてる姿を見るだけで、それだけいただければわたしは満足ですよ」


 気にしないで、とそう言うかのように柔らかな笑みをこぼす優奈。そんな彼女が可愛らしく愛おしく感じてしまいーー


「良介。ここ教室。それにみんな見てるぞ」


 斗真に肩を突かれて、二人の世界から現実に引き戻される。そこにはクラスメイトからの幾度となく浴びてきた視線が向けられている。


「ったく。だから注意したってのに」


 斗真は呆れたかのようにため息をこぼして、やれやれと首を横に振った。とりあえず屋上に向かおうと「行こう」と優奈の手を引いて、教室のドアを開く。


「ねぇねぇ。さっきの会話からしてずっと二人で食べてたっぽくない?」


「それも天野さんの手作り弁当を毎日!?」


「羨ましい……!」


「一体いつからだ!?一ヶ月!?二ヶ月前!?それともそれ以上!?」


 昼休憩から戻ってきてから、また質問攻めにあった。ご飯を食べているときに突入されなかっただけマシだと思うしかなかった。


 それから一部の生徒の口コミで広がったことなのだが、昼休みの屋上は姫と王子が昼食をとる場所ということから≪昼休みの聖域(サンクチュアリ)≫と名が付けられていた。

お読みいただきありがとうございます。

ブクマ、評価等いただけたら嬉しいです。

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― 新着の感想 ―
[一言] なんで屋上に誰も来ないんだろと思ってたらそんなのがあったのかw
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