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コスプレ

100話到達!

いつも読んでいただきありがとうございます!


 俺はとある教室に作られた四角形状の狭い空間にいた。目の前は白色のカーテンレールが閉められている。そのカーテンレールから俺の姿が透けて見えることはないだろう。


 俺は今、簡易試着室にいた。

 渡された衣装に視線を向けては、眉間に皺を寄せて「むぅ……」と唸っては困り果てた表情を浮かべていた。


☆ ★ ☆


 遡ること二十分ほど前ーー


 屋上でたこ焼きを食べ終えた俺たちは、廊下にいた。

 距離感は相変わらずのまま肩が触れ合うほどで、俺が距離を取ろうと離れてみれば、その分優奈が距離を詰めてくる。そして不服そうな顔を浮かべてジトーっとこちらを見てきた。


 彼女から視線を逸らそうとすれば、生徒や外客の様々な視線が飛んでくるので、今はただ前を真っ直ぐ見て歩いていた。


 (今日はやけにグイグイくるな)


 優奈も屋上や家で過ごしているときは甘えたり甘やかしたりしてきていた。それは誰もいないことを確認しているからであって、人前ではそういったことは避けてきた。


 だが今回、優奈の方から人目を憚ることなく何かと積極的にアクションを起こしてくるこの状況。意識するなというほうが無理な状況で、優奈も好いてくれているのかとつい思ってしまう。


 俺としてはとても嬉しいことではある。

 好意を抱いている女の子と一緒に歩いたり手を繋いだり頭を撫でたり。

 こんなことは一度はやってみたいと心の中では願っていた。だがまさか本当に、しかも意中の相手とできるとは思ってもいなかった。


 以前、斗真と話していたことを思い出す。

 優奈に好きな人ができたら、間違いなく今の関係ではいられなくなってしまう。

 それは嫌だと今ならはっきりと言えるだろう。


 しかしこの関係を壊したくないという思いがブレーキをかけて、肝心の一歩を未だ踏み出せずズルズルと進んでいるこの現状。

 いつかは打開しないといけないと分かっているのに……。俺は小さく息を吐いた。


 どこか立ち寄るわけでもなく、一年生の教室がある廊下を歩いていた。


 一緒に回ろうと誘ってはみたが、一日目で行きたいところは見て回った。寄りたい教室があるわけでもない。せっかくなら自分のクラスを客目線で行ってみるのもありかもしれない。

 

 優奈に俺たちのクラスに行かないか?と提案しようとすると、


「あれ?良介じゃん。それに……天野さんも」


 通り過ぎようとしていた二組の教室のドアが開くと、真司の姿があった。体育祭では二人とも同じ団員であったため、面識はあったらしく優奈も軽く「こんにちは」と、軽く会釈をした。


「二人とも、俺たちのクラス寄ってかない?ちょうど秀隆も店番やってるからさ」


 そう言って、彼は白い歯を見せる。

 そういえば二人がどんな出し物をしているか聞いていなかったな。

 優奈の方に視線を送れば、問題ないと小さく頷いていた。


「んじゃ、寄ってこうかな」


「はーい。それじゃあ、ここの名簿に名前を記入してね」


 名前を書いて教室に入ると……

 右を向けば服。左を向けば服。教室の至る所にハンガーラックが設置されていて洋服がハンガーにかけられていた。


「真司。これは?」


「うちのクラスはコスプレっていうか、コスチュームの試着体験できる出し物やってんの。あと撮影もできるんだぜ」


 生徒たちは興味深そうに、用意された洋服に目を奪われていた。秀隆はハンガーにかかっている洋服の乱れを直していた。


「二人はこれが着たいっていう希望ある?」


「んー。俺はないな」


「わたしも特には……」


「よし。それじゃあうちのクラスのおしゃれ番長にチョイスしてもらおう。おーい。早乙女(さおとめ)ー」


 真司が名前を呼ぶと、一人の生徒が現れる。眼鏡をかけた女子生徒だ。


「はいはーい……って、天野さん!?」


 早乙女という生徒は驚いたような声をあげては、優奈をあらゆる角度から見渡していた。


「早乙女。二人が似合うコスチュームをチョイスしてくれ」


「もちっ!まさか天野さんをこんな間近で拝める日がくるとは……!あのっ!もしよろしければ握手していただいても……」


「は、はい……」


 優奈が手を前に出すと、早乙女さんはぎゅっとその手を握りしめる。まるでこの時間を噛み締めるかのように彼女は目を瞑っていた。優奈は困惑したような表情を浮かべていて、俺と真司は苦笑いを浮かべる。


「早乙女さん。天野さんのファンらしくて」


「は、はぁ……」


「ありがとうございます!この手は一生洗いません!元気ももらったことだし気合入れて選ばさせていただきますよー!」


 手を離して感謝の言葉を伝えると、ハンガーにかけられていた洋服たちを真剣な眼差しで見つめている。理想のイメージと擦り合わせるように洋服を手にとってはブツブツと呟いていた。


「あ、そちらの方の洋服はもう決まったので早速試着室で着てきてください」


 俺のことだろう。早乙女さんが真司に洋服を渡しては、優奈の洋服選びに集中していた。


「はいこれ。試着室はそこにあるから、これに着替えてこい」


「分かった……ん?これは一体……?」


 斗真に渡された洋服を受け取ると、俺は思わず疑問の声をあげた。


「ほら。いいから早く着替えてこいって」


 真司に背中を押されて、俺は簡易試着室に押し込まれたのだった。

お読みいただきありがとうございます。

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