不良に絡まれた姫
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何度も言うが、天野優奈は美少女である。
男子だけではなく、女子生徒からも人気のある彼女。その噂を聞きつけて他校の男子生徒がお近づきになろうと、帰り際の彼女に声をかけるもあっけなく撃沈していくというのがいつもの流れなのである。
だが、今回はそうもいかなかった。
☆ ★ ☆
俺は外履きに履き替え、踵を直していた。
天野さんがあんな悔しそうな顔をするとは。普段の学校では決して見せることのないその表情に、俺は未だに驚きを隠せないでいた。
明日の朝ばったり出くわしたらどうしよ……しばらくは口も聞いてもらえないんだろうな。
そんなことを思いつつ、俺は校舎を出る。
ん?何やら正門前が騒がしいな。生徒たちが何やらヒソヒソと話している姿が見える。
気になって、俺もその現場を見ることにした。
そこにはーー
「ねぇ、いいじゃん。このあと暇なんでしょ?俺と遊ぼうよ」
「迷惑です。やめてください」
天野さんが他校の男子生徒に言い寄られていた。それもかなりしつこく。
髪は金色に染められている。学ランのボタンは留められておらず、黒のインナーシャツがだらしなく出ている。
おそらく大城田高校の生徒だろう。
その高校は、ここから自転車で二十分ほどの場所にある高校だ。とにかく不良が多い。タバコは当たり前、夜中も平気で遊び回り補導を喰らう生徒もいるらしい。
「お、おい!やめろよ!嫌がってるじゃないか!」
一人の男子生徒が止めにかかる。
「あぁ?テメェいまなんつった?」
「だから……」
その男子生徒が喋る前に、その不良は彼の腹を思い切り蹴飛ばした。
「ガハッ!ゲホッ!ゲホッ!」
「だ、大丈夫か!?」
「わたし、誰か先生呼んでくる!」
その場に居合わせていた生徒が、騒がしくなる。
「うるせぇ!外野は黙ってさっさと帰れ!」
不良が荒々しく叫んで、生徒たちを睨みつける。そして再び天野さんの方を見た。
「ほら。きみ一年生でしょ?噂は耳にしてるんだ。俺と遊んでいいことしようよ。きみの知らないこと、たくさん教えてあげられるから」
「最低ですね」
「……あ?」
「何も関係のない人に暴力を振るう行為を最低って言ったんです。あなたに何と言われようとも、あなたと交友関係を持つつもりは微塵もありませんので」
「はーん。だったら力ずくだ」
不良は彼女の手を掴み、強引に連れて行こうとする。
「離してください!」
「いいから黙ってついて来い!」
天野さんは必死に抵抗するも、男子高校生の力に敵うはずもなくずるずると引っ張られる。
「誰か!助けて!」
その声を聞いたとき。いや、不良が天野さんの手を掴んだときから俺は動き出していた。
「んぁ?」
見知らぬ力に引っ張られ、不良は声を上げた。
俺が不良の腕を掴んでいたのである。
「お取り込み中悪いんすけど。コイツ、俺の彼女なんで、今日はお引き取り願えますか?これからデートなんすよ」
彼女と言ってしまったのは失言で穴があったら入りたいくらい恥ずかしいのだが、そう言っておけば諦めるかと思い、そう言った。
「あぁ?」
不良はガンを飛ばす。
俺も負けじと睨みつけた。
「何だテメェ?デートだぁ?知るかよ。今から俺と遊ぶんだよ。引っ込んでろよ。つーか彼氏?お前がが?こんな冴えない男がこの女の彼氏な訳あるかよ」
「あぁ、冴えない顔っていうのはよく言われる」
「だったら大人しく手ぇ放せや」
「だがあんたよりはマシな顔だよ。あんたこそさっさと彼女の手を離せ。せっかくの綺麗な手が汚れるだろうが」
「柿谷くん……」
天野さんは涙目になっていた。
「誰にもの言ってるのか分かってるのか?」
「頭の悪いイキってるガキに言ってんだよ。馬鹿か」
そう言うと、不良は右拳を放った。
それは頬に直撃して、俺は地面に倒れ込む。
「柿谷くん!」
「へっ。口ほどにもねぇ。おら、さっさと行くぞ」
「いや!離してください!」
男は早くこの場を去りたいのだろう。強引に天野さんを引っ張る。
「あーいって」
不良は驚いたように振り返った。
倒したはずの男が平然と立っているのだから、当然の反応だろう。
「おい……どうなってんだ。俺のパンチをモロに喰らったんだぞ」
俺はブレザーを脱ぎ捨てて、ネクタイを緩める。そして不良の肩を掴み、こう言った。
「先に手を出したのはそっちだ。これでこっちは正当防衛で通用するからな」
「何を言って……」
不良が何か言いかけていたが、俺はお返しと言わんばかりに右ストレートを顔面に放つ。
「ガボホォッ!」
不良は吹っ飛んだ。同時に天野さんを掴んでいた手が離れた。
「柿谷くん……」
天野さんは何か言いかけていたが彼女の方を見て柔らかく微笑むと、俺は倒れ込んでいる不良へと向かう。不良は必死に上半身を起き上がらせた。
「テメェ!何しやがーー」
「黙れ」
またも何かをいう前に、俺は奴の顔面に拳を振るう。不良の鼻からは鼻血が出ていた。
さてさて、このあとはどうしたものか?
俺は大の字に未だに起き上がれない不良の元の顔の横に座る。
「相手の力量はちゃんと見極めないとな」
にっこりと笑う俺を見て、不良は恐怖で震え上がる。
「先生!こっちです!」
先生を呼びに行った生徒が戻ってきたのだ。先生も続々とこちらに向かってくる。俺は不良が逃げることがないように押さえつけた。
「言っておくが、復讐しようなんて舐めたこと考えてないよな?お前の顔はおぼえた。もし今後、俺と彼女の前に現れようものなら……次はこんなもんじゃ済まさんぞ」
腹の底から出した声に、不良はカタカタと歯を鳴らす。
「おい!大丈夫か!?」
先生が声をかける。
「はい。大丈夫です」
「そうか。ほら!関係のない生徒はさっさと帰宅しろー!」
先生の一声に、生徒は安堵する様子を見せて帰宅する。ひとまずこの騒動は、こうして幕を閉じた。
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