旅立ち(sideマナブ) 06
タクシーで俺の家に着くと家の前には、ヨシとユウが立っていた。
「シュン、大丈夫か。会長から連絡があったんだが、アヤちゃんの容態はどうなんだ?」
シュンがタクシーから降りると、ヨシとユウが駆け寄ってきた。
「ヨシ先輩、ユウ、二人とも来てくれたんですね。」
シュンは、二人の顔を見て、ホッとした顔をした。
「当たり前だろ、こんな時に水くさい事いうなよ。」
「そうですよ。」
ヨシもユウもシュンを元気づけようと笑顔で肩をたたいていた。
「家の前で立ち話もなんだから、みんな家の中に入ってくれ。」
タクシーで精算をすませると、俺は三人の傍までやってきた。
「みんな、立ってないでその辺に座ってくれ。」
俺はキッチンに行き冷蔵庫を開けて中を確認した。後ろを見ると、三人は向かい合わせに2つずつ並べられた椅子があるテーブルのそばに立っていた。
「飲み物は・・・お酒って気分じゃないよな。お茶にしようか。」
俺は、お茶のボトルをテーブルに置いた。
「じゃあ、コップを用意します。」
「ユウ、ありがとう。コップはそこの食器棚に入れてあるから適当に選んでくれ。」
ユウはテーブルの近くにリュックを下ろし、マナブが示した棚に向かった。
「シュン、立ってないで座ったらどうだ。ヨシも座ってくれ。」
「はい、すみません・・・。ありがとうございます。」
ヨシに促され、シュンは、椅子に腰かけた。病院に居たときに比べ、少しは落ち着いたようだがそれでも元気がなくひどく疲れているようだった。
ユウが食器棚からコップを取り出し、テーブルに並べると、冷蔵庫から取り出した市販のペットボトルのお茶をそれぞれのコップに入れた。
お茶が注がれたのを確認すると、重い雰囲気のなか、ヨシが口を開いた。
「シュン、アヤちゃんの容態はどうなんだ。」
「先生によると、XXXによる昏睡だろうとのことです。身体的な異常はないようなので、精神的な要因だろうとしか分からないようなんです。」
シュンは、苦しそうに言葉を出した。
「世界各地で同様の症例があるらしいんだが、祈祷スキルによる完治以外の報告はないらしいんだ。その祈祷スキルによる完治もほとんど事例がないらしく、治療についての情報がほとんどない状態らしい。」
シュンの様子にたまりかねて、俺が後を引き取って二人に伝えた。
「そうなんですね。」
ユウは、俺とシュンの説明を聞きながら、携帯で検索をしていた。
「ネットで調べてみたら、近畿に祈祷スキル使いが一人いるという噂はあるみたいなんですが、詳しいことは載ってないですね。」
「近畿に一人か。雲をつかむような話だな。でも、アヤちゃんのために何としても探さないといけないな。」
ユウが調べた結果に気を落としながらも、シュンを元気づけるようにヨシは答えた。
その時、突然、俺の鞄の中から光があふれ出てきた。
「あれ?会長のカバンなんか光ってませんか?」
その光に気付いたシュンが叫んだ。
「ん?なんだ、何が光っているんだ。」
三人が注目する中、俺は、恐る恐る光っている鞄に手を入れた。そこには、一冊の御朱印帳が入っていた。光を放っていた御朱印帳を手に取ると、徐々に光が弱まっていった。
「会長、それは、なんなんですか。そんな御朱印帳を持ってましたっけ?」
三人は、驚きを隠せない様子で御朱印帳を見ていた。
「おお、そうだ。今日、みんなに見てもらおうと思って持ってきてたんだった。」
今朝、枕元で見つけた御朱印帳を鞄に入れていたことをすっかり忘れていた。
「昼間の麻雀の時に相談したいって言ってた件ですね。」
昼間の話を思い出したのか、ヨシは頷きながら手元のお茶に口をつけた。
「ああそうなんだ、じつは昨晩・・・・」
俺は、三人が落ち着いたのを確認すると、昨晩の出来事を話し出した。
三人は、固唾をのんで俺の話を不思議そうに聞いていた。
「そんな事があったんですか。でも、ホントにそんな御朱印帳なんてあるんですか?酔っぱらってどこかで拾ったのを忘れてるだけとか。」
シュンは、にわかに信じられない様子であった。
「シュン、俺も信じられなくてな。で、今日、みんなに相談しようと思って持ってきたんだ。」
「御朱印を揃えたらどうなるんでしょうね。」
ユウは、御朱印帳を手に取りぱらぱらとページをめくっていた。
「しかし、これ一冊を埋めるとなるとかなり大変そうだな。しかも、今はXXXのこともあるからな。」
ヨシもユウの横から御朱印帳を見つめていた。
「でも、アヤが倒れたこのタイミングで、会長のもとにこんな不思議な御朱印帳が現れるなんて、何か関係があるんですかね。」
シュンは、このタイミングで御朱印帳が光りだしたことを疑問に思っているようであった。
俺たちは、謎の御朱印帳を前に途方にくれていた。
「会長、らしくないですよ。いつも動いてから考えてる人が、まずやってみようって言うのが会長じゃないですか。」
おもむろにシュンは、立ち上がると俺に向かってこぶしを突き出した。
「確かに、そうだな。やってみて意味がないってわかったら、その時に考えればいいか。」
シュンの言葉を聞くと、自然と考えがまとまり、まずは動いてみようという気になってきた。
「アヤの治療の手がかりもないですし、とりあえずこの御朱印集めをやってみるのは良いと思います。」
シュンも御朱印帳の登場に期待するかのように俺を見ていた。
「そうですね。この御朱印はよくわからないけど、アヤさんの治療の手がかりになるかもしれないし、まずはやってみるしかないですよね。アヤさんは僕たちの仲間というか、御朱印同好会のアイドルなんだから、彼女がいないと僕たちの明日に関わるし、アヤさんのためにも御朱印集めをやってみましょう。」
ユウもこぶしを振り上げて、熱く語った。