旅立ち(sideマナブ) 05
病院の前にタクシーを止めると、俺は精算ももどかしく、車から飛び出した。
「シュン、アヤちゃんは無事か!」
タクシーから降りた俺が病院の中に入ると受付で診察室の場所を確認した。診察室に来ると診察室の前のベンチに座っているシュンがいたので、そばに駆け寄った。
「あ、会長、こんな時間にすいません。いま、診察中なんです。」
シュンは、俺が来たことに気が付くと立ち上がった。
「一体、何があったんだ。」
俺は、シュンをベンチに座らせるとその横に腰かけた。
「実は、あの後、アヤを探しに教室に行ったんです。そしたらアヤの友人がいて、体調不良で先に帰ったって聞いたんです。アヤが連絡もせずに先に帰るなんてこれまでなかったから、よっぽど体調が悪いんじゃないかって思って、アヤの家に行ったんですよ。そしたら、アヤが家の中で倒れてて、慌てて救急車を呼んでここまで来たんです。」
「そうだったのか。」
「会長、わざわざ来てもらってすいません。一人でいるのが心細くて、申し訳ないとは思ったんですが、電話してしまいました。」
そういうと、シュンは立ち上がり頭を下げた。
「何を言ってるんだ。困った時はお互いさまだろ。」
俺はそう答えると、シュンをベンチに座らせた。
「ところで、アヤちゃんの様子はどうなんだ?」
「今、診察中なんです。僕が部屋で見つけたときは、意識がなかったのですが、それ以外は変なところとかもなくて、一体、何が起こったのか、さっぱりわからないんです。」
シュンは、まだ状況が理解できないといった様子だった。
「そうなのか。昨日まではあんなに元気だったのに、一体どうしたんだろうな。」
そういいながら、俺は昨日のアヤちゃんの話を思い出していたが、口にすると現実になりそうだったので、何も言わなかった。
「ところで、ご両親に連絡はしたのか。」
「はい、アヤの実家は、九州なので、今日中に来るのは無理なようで、明日の朝一番にこっちに来るそうです。」
診察室の前で待っていると、一人の看護師が中から出てきた。
「先生からご説明があります。」
「会長、ちょっと待っててください。」
看護師の言葉を聞くと、シュンは立ち上がり診察室に向かった。
俺がベンチに座りしばらく待っていると、診察室の扉を開けシュンが出てきた。シュンは、扉を閉める前に診察室の中に向かって頭を下げていた。
「アヤちゃんは、どうだったんだ。」
シュンの様子に何かを感じ、俺も少し緊張していた。
「意識は戻っていないのですが、それ以外に異常は見当たらないそうです。たまたまベットが空いていたので、このまま入院することになりました。先生がいうには、おそらくXXXによる昏睡だろうとのことです。XXXによる昏睡は身体に原因があるのではなく、精神に原因があると言われているそうです。」
シュンも医者の説明を完全に理解したわけではないのか、少し戸惑っている様子であった。
「精神?それってどうすれば治せるんだ。」
シュンの説明に俺も戸惑いを隠せなかった。
「それが、薬や手術では治せなくて、可能性があるとしたら祈祷スキルくらいじゃないかってことです。」
「祈祷スキルだと。あまり聞かないスキル名だな。」
「そうなんです。各国で同じような患者がいるみたいなのですが、祈祷スキルで完治したとの報告があるらしいんです。ただ、事例が少なすぎて確かなことはわからないそうなんです。」
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『スキル』この世界の住人が生まれた時から持っている能力である。なぜ、人類にスキルが備わっているのかは、謎とされているが、大半の人にとっては、日常生活が少し便利になる程度のものとして認識されている。また、スキルの力も時代とともに弱化していると言われており、力が弱すぎて自分のスキルを認識できなくなっている人も増えてきている。
一方で、世の中には強大なスキルの力を保有している人もいると言われいるが、明らかにはされていない。
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だん!
「くそ、なんでアヤがこんな目にあうんだ。俺にもっと力があれば、何とかしてやれるのに。」
いつも、冷静なシュンが取り乱している。
「シュン、ここは病院だ。落ち着け。いったん、俺の家に行って、今後の相談をしよ
う。」
俺は、シュンの肩に手を置くと落ち着かせるように話かけた。
「はい、分かりました。すいません会長。少しだけ、待ってもらってもいいですか。帰る前にアヤの顔だけ見てきます。」
シュンは、大きく深呼吸してから立ち上がると、アヤちゃんの病室に入っていった。