大陸外周探索開始
俺が目覚めると身に覚えのない天井が目につく。
横にはエムルがすやすやと眠る。
「おいエムル、起きろ。」
俺はエムルの頬をぺちぺちと叩いて起こした。
「ウイン、良いよ。君も大分分かってきたようだね!もっと僕を叩いてくれないかい!?」
だんだん声が大きくなっていた。
寝起きなのにテンション高すぎるだろ。
「俺が寝ている間に何か変化はあったか?」
「大きなことは無いよ。バグズの乗った船を追跡するために斥候部隊が追跡をしているのと、デイブックの被害を調べているんだよ。それと連合軍は帰還するよ。」
「そうか。出来ればバグズをつぶしておきたいんだが。」
「うーん。しばらく斥候の連絡を待ってからどうするか決めることになるんじゃないかな?」
確かにそうだな。ヤマトの方角に向かっていたが、奴らは知能が高い。急に戻ってくる可能性もある。
連合軍は今日の昼に、アーサー王国へ向けて出発した。
俺がぼーっとして歩いていると、魔王が声をかけてきた。
「ウイン、体調は戻ったか?」
「少しだるいけど、すぐに戻ると思う。」
「そうか、お前が寝ている間に会議があったから伝えておく。もしバグズがヤマトに到着したら、この大陸の外周探索を頼みたい。」
「ん?バグズじゃなくて外周探索か?」
「そうだ。今皆にゴブリンの脅威が染みついているのはわかるな?」
「分かるぞ。」
ゴブリンはアーサー王国、ディアブロ王国、デイブック民主国を恐怖に陥れた。
3つの国が攻められ、 みんなの恐怖心が高まっているのは良く分かる。
ゴブリンはもともとそこまで強い魔物ではない。だが、ゴブリンキングによって統率されたゴブリン軍団は国の存亡を左右するほどの力を手に入れ、さらに、『名前持ち』という存在にまで進化し、脅威度を上げていた。
「ゴブリンキングの発生は、この大陸の外周未開地を放置したのが原因だ。」
外周の未開地。
この大陸は中央の魔の森をドーナツ状に国が覆い、さらにその周りの外周には未開地が多く広がっている。
「未開地からゴブリンが攻めてくるのを怖がってるんだろ?」
「ゴブリンだけではないが、不安になっている。そして未開地への軍の派遣はリスクが大きい。名前持ちまで行かなくとも、ドラゴンと遭遇したら全滅もありうる。ウイン・エムル・ルナ・ベリーの4人で外周を探索してほしい。正直な話、ここでもめて時間を取りたくないのだ。」
みんなを安心させる必要があるか。
確かに今会議で時間を潰したり、国民の反対を抑えるために力を使うのは得策ではない。
今回の進軍で兵・物資・国費に打撃を受けた。さらに国内の魔物を放置したことで、国内の魔物狩りを行う必要がある。魔物はすぐに数を増やすのだ。
四天王や騎士団はその対応に追われるのだろう。
すぐに立て直しに動くべきだ。
俺が外周探索に動くことで、外周探索の対策をやってますよとアピールできる。
「俺はそれで大丈夫だけど、みんなはどうなんだ?」
「皆はウインについていくと言っている。ウインが納得すれば何の問題もない。」
「分かった。外周の未開地を探索しよう。斥候の連絡次第だけどな。」
バグズの行き先を慎重に見極める必要がある。反転してこの大陸に戻ってきたら外周探索どころではない。
バグズか、早く潰しておきたい。
「ウイン、バグズが気になると思うが、バグズが戻ってこない限り、戦うのはしばらく先になるぞ。」
「軍が打撃を受けたからか?」
「それもあるが、ヤマトは王の権限だけで物事を決められない国だ。周りの領主の力が強すぎるのだよ。意思決定に時間がかかる可能性が高い。それと今こちらからヤマトに軍を送ると、最悪攻め込まれたと勘違いされて戦争に発展する。」
「ヤマト国内の協議とアーサーディアブロとヤマトの協議が2重にあるってことか?」
「そうだ。バグズがヤマトに向かった場合、まずバグズの脅威を伝えたうえで、協議を重ね、お互いの合意があって初めて軍を送ることが出来る。しかもそれが終わるまでにこちらの軍備を整えておく必要がある。」
「まあ、バグズがどこに行くか結果が見えてからだよな。」
「それまでは国内の魔物狩りを行ってほしい。」
◇
魔王とアーサー王は二人で協議をした後すぐに自国の内政に追われたようだ。
ウォールやオガ達も忙しく働いているんだろう。
俺たちはアーサー王国で魔物を狩りつつ物資の補充を進めたが、俺たちの物資は国から優先的に届けてもらった。
ルナ用のケーキも優先で届けられた。ルナ曰くみんなのお菓子だが、8割ルナが食べるんだろう。俺はあえて口には出さなかった。
エムルもさすがに空気を読んで、最初だけは内政を手伝っていたが、落ち着いてくると俺の魔物狩りに同行した。
ベリーはバグズ戦の後、鬼気迫る勢いで魔物を倒していたが、何か思うところがあったんだろうか?聞かない方が良い気がしたのでそっとしておこう。
俺は成長できなくなっている自分に焦りを感じていた。トータルレベルの伸びは鈍化し、レベルを上げることが出来ず、聖剣月光を使った状態ですら死にかけたのだ。
俺が疲弊したタイミングで、爆炎の矢で孤立させられ、ゴブリンの精鋭と名前持ちの固有スキルの同時攻撃をされた時はさすがに焦った。
1対1ならまだ良かったが、あの知性と統率力は厄介だ。
俺は、前に出ようとして止めてくれたアーサー王にお礼を言いたかったが、会うことが出来なかった。ことづては頼んだが、伝わっているか分からない。
海兵による報告がほどなくして届いた。
どうやらバグズ達はヤマトの本土に停泊したようだ。
ヤマトは4つの島からなる国だが、国の中心部にある一番大きい島を本土と呼ぶ。
バグズ、強気だな。
今は考えていても仕方ない。外周探索が先だ。
「みんな、出発だけど大丈夫か?」
「大丈夫よ。行きましょう。」
「準備できてますよ。」
「バッチこいだよ。ついでに僕のお尻を叩いてやる気を出させてもらえればさらに良いよ!」
「出発だ!」
俺たちの外周探索が決まった。
俺たちはアーサー王国の南東部から右回りに探索を進めることとなった。
アーサー王国とディアブロ王国の外周を探索して、デイブックの外周は後回しにする。
探索と言っても、出てきた魔物は全部倒していく方針だ。
みんなで話をしたら、全員のレベルを300以上にする方針に決まった為だ。
まるで示し合わせたかのようなスムーズな決定だった。
「早速ハチの魔物の反応がある。数は約三千!全部呼び寄せたいがどうだろう?」
「呼びましょう!」
「そうね!全滅させるわ!」
「僕もそれでよいと思うよ。」
「戦闘開始だ!」
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