炎の剣聖 ベリー
ベリーは最近ため息が多くなった。
ウインが追放されてから、ストレスが増えたのだ。
「これでこのパーティーはうまく行かなくなるわ。」
ベリーだけはウインの実力を評価していた。
しかし、ベリーがウインの事を助けようとすればするほど、ブレイブは狂ったようにウインを攻撃する。
ベリーはウインと二人だけの時以外は、あまり話をしなくなっていた。
ベリーとウインは1年ほど前に強制的に勇者パーティーに加入させられた。
それまで鳴かず飛ばずだった勇者パーティーは、ウインの固有スキル【キャンプ】と斥候ジョブのおかげでうまく行くようになっていった。
ある日、勇者パーティーで野営をしていた時の事、
「ウイン、テントと焚火の用意ありがと」
ウインが行った野営作業にお礼を言ったのがまずかった。
私がウインにお礼を言った瞬間にブレイブの顔がゆがむ。
「は、下級ジョブが、せこい事しか出来ないんだからもっと働けよ。」
聖騎士の固有スキルをもつガーディーも一緒になって批判してきた。
「ウイン、俺が戦っているおかげでお前は甘い汁を吸えているんだ。もっと努力して役に立ったらどうだ?」
聖女の固有スキルを持つマリーは、我関せずと、自分の爪の手入れをしていた。
ウインの事は、まるで召使いのように扱っていた。
なぜかウインが活躍しても認められることは無く、批判や八つ当たりをする対象となっていた。
ウインと私は、食事のかたづけを終わらせると、周囲の索敵の為に見回りに行った。
ブレイブ・ガーディー・マリーは見回りをしない。ウインが中心となって見回りをするのがいつものパターンなのだ。
ウインと二人だけになると、私は気が楽になった。
「ウイン、なんで言い返さないのよ!」
「言い返すとさらに面倒になる。それが分かってるからベリーもあえて俺を助けず放置してるだろ。」
「う、そうだけど・・・なんかもやもやするのよ。」
「ん、敵がいる」
ウインが警戒態勢を取る。
私たちは戦闘モードに入った。
狼の魔物が7体
「こっちが風上だからにおいでばれる前に、一気に突っ込もう」
ウインの言葉に私は頷き、一緒に駆け出す。
同時に狼に斬りかかる。
「うおーーーん」
狼が遠吠えを上げるが、無視して一気に数を減らしていく。
「ベリー!狼が追加で右手から10体が近づいてくるぞ。」
私たちはお互いをカバーしながら、増えた狼も狩っていく。
無事に敵を全滅させると、ハイタッチをした。
狼の魔石を回収しながらまた二人で話を続けた。
「俺はこのパーティーを抜けようと思ってるんだ。俺が抜けようとしても反対はされない。」
「抜けちゃうの?」
「もうベリー以外のメンバーと関わりたくない。」
「私も抜けようかな・・・」
「ベリーはマリーに嫉妬されてるからな。居心地は悪いだろ?ブレイブとガーディーはまだいいかもしれないけどね。」
「うん」
「それと、俺が抜けたらベリーが全部の雑用をすることになる・・・と思う。」
「ねえ、二人無事にパーティーを抜けたら、一緒に組まない?」
ウインは考え込み始めた。
「え?いやなの?」
「あれだ、ベリーはかわいい顔をしてるから、俺がベリー後援会の人につぶされる。二人だけだとまた話がおかしくなると思う。」
かわいいって言われた。
私は赤くなった顔を隠してそっぽを向きながら言った。
「そんなことないわよ。」
「いやいやいや!分かってない。ベリー後援会は狂信者みたいな集団なんだぞ!あいつらマジでやばいんだって!しかもベリーって今13才でしょ?」
「そうだけど何で?」
「ベリーがもっと大きくなってもっとかわいくなったらベリー後援会の力も増すんだ!やばいんだって!あいつらまっじでやばいんだって!」
「もしそうだとしても、他に人を入れれば大丈夫なんじゃない?4人パーティーとか。」
「4人パーティーか。良いかもしれないな。次はまともな人を入れたい。固有スキルがレアかどうかは関係無く、人格重視でパーティーを決めたい。」
「私もそうしたい」
二人で話をしているときは楽しかった。
ウインは、レアスキル持ちではなかったが、私より強い。
何回か魔物との戦闘で危ない目に合ったそうだ。
かなり無茶なレベル上げをしてきたんだろう。
ウインのジョブは斥候。
斥候は、戦闘能力は強くないけど、索敵や隠密行動、罠感知などに優れる。
私と同じ年で、ウインほど強い人を見たことが無かった。
固有スキルが【炎の剣聖】の私よりウインの方が強い。
しかも戦闘能力が高くない斥候なのにだ。
魔法剣を使う私と索敵能力の高いウインは相性が良かった。
二人だけで一緒に冒険出来たら、楽しいだろうな。
◇
キャンプから数日後の宿屋
「俺パーティーを抜けたいんだ。」
ウインは街に帰ってすぐに切り出した。
「やっと自分の無能に気づいたか!」
ブレイブは口を歪めて言った。ウインと同じで私もブレイブ達と関わりたくない。私も一緒に抜けよう。
ベリーは決心した。
「私もパーティーを抜ける!」
「ダメだ!ベリーはダメだ!」
「ウインが抜けるなら私が抜けても問題ないじゃない!」
「ベリーは選ばれた固有スキルを持った人間だ!ウインとは違う!」
「抜けるのは私の自由よ!」
「まず、脱退が決まってる俺から抜けさせてもらう。」
ブレイブはウインの発言を今度は却下した。
「無しだ!脱退は無しだ!」
「は?俺は問題ないだろ!」
「私も抜けるわよ!」
「二人とも脱退は認めない!!」
結局その後はグダグダになり、脱退はうやむやにされた。
私があの時に抜けるって言わなければ、ウインは幸せな生活を送れていたのかもしれない。
ウインには悪いことをしたな。
私もしばらくしたらこのパーティーを抜けよう。
次こそは、ウインと一緒に冒険するんだ。
ベリーは自分の首輪をそっと撫でた。
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