1 神様の養子
「…は?」
青年は、その黒炎の瞳を揺るがせた。
・
地平線なんて存在せず、下手をすれば飲み込まれてしまいそうな、そんな感覚に沈み込むような、白白白。白だけの世界。果たして、自分は今立っているのか、横になっているのか、浮いているのか。現実味をゴミ箱にダンクしたかのようなこの場所に頭が痛くなる。
…なんなんだよここ、頭がおかしくなりそうだ。
おかしいと言えば、この目の前の女性…___________もとい、'自称'神様。
「…あなたを私の養子に迎えましょう。」
うん。
「もう(主に頭が)手遅れか…クッ」
「ちげぇよクソ息子しばいたろか。」
「おい口調。」
「ふふ…口が滑りましたわ。今日のお昼、油そばだったので。」
(…ハッ!待て待て待て。)
清廉な見た目から発射された衝撃のB級グルメに気を取られかけたが、今俺は正に誘拐という名の強制養子イベントを受けている。
さっきまで俺は、自室で某動画サイトの自主的徘徊警備をしていたはずだ。(決してニートではない。立派な社会慈善活動である。)そもそも自分を神様だと主張する奴は大体やばいのだ。その養子になるなんて正気の沙汰でない。…Eカップか。
「残念、私はFです。」
「心読むな自称神!」
「あらごめんなさい。でも読めてしまうものは仕方ありませんわ。それに…もう分かっているのでしょう?」
微笑む彼女に、ゾワリ、悪寒が背筋を走る。
本能が告げる。
聞くな。
知るな。
分かるな。
「あなたは、あの女の手で殺されたのだ、と。」
!!!!!
「そ、れは…ッ」
ブオッと音を上げて風が周りを包む。咄嗟に閉じた瞼を、なんとか開く。眩い光を放つ魔法陣が、神様と俺を中心にいくつも広がる。
「さあ、愛しい我が子、あなたに世界を与えましょう。」
慈悲を携えた声。どこか儚く、消えてしまいそうで。
「この世界で、きっとあなたは様々なものに出会います。」
なんだよ、俺を養子にしたのにもう手放すのかよ。
「苦しいこともあるでしょう。歩みを止めてしまいたくなる時も、あるでしょう。」
あんた'も'結局、俺をひとり残して__
「佐藤 優斗、」
!俺の名前…
「今度こそ、幸せになりなさい。」
「ッッ、待って…!!!!!!」
急いで伸ばした手。
視界が魔法陣で埋まっていく。
待ってくれよ、俺はまだ…!
微かな光の隙間、
見えたのは、
「…ふふ」
──今にも泣きそうな、神様。
(ああ…どうして…)
・
それを最後に、意識がブラックアウトした。