第一章 第一幕 始まりの日
自分が物語を書こうと思ったきっかけはとある作品に共感を受けたからです。
少しでも楽しんでいただければ幸いです。
「さあみんな、初めてのLiveで緊張しているかもしれないけどとにかく楽しむことが一番だ、後悔しないように楽しんで来い。」
父がスタンバイしていた7人アイドルを集め、円陣を組み、そう伝えた。
「はい!!!」
舞台袖の緊張感がある中でめいっぱいに気合を入れる彼女たち。
そうして父は、彼女たちをステージへ送り出したのだった。
僕は、父のスーツの裾を掴んだ。すると、父は、
「あいつらは今日までとても頑張った、だからきっと最高のものになる。お前も目に焼き付けろ。これが俺のすべてだ。」
その後のことは夢の中にいるかのような最高の時間を過ごした。
この時、僕は決めたのだ。絶対に父親のようなアイドルプロデューサーになりたいと。
こうしてKalsunはデビューした。
そこから、彼女たちは瞬く間にアイドルの階段の頂点に上り詰めた。
しかし、幸せな時間は長くは続かなかった。
~一年後~
とあるホテルの一室に集められた記者とカメラ数台。
「カシャ、カシャカシャ。」
「あっ、入ってきたぞ。」「今日はいったい何を話すんだ」
会場がまだざわついているときに父と彼女たちは入ってきた。そして会見のステージに並んで一礼をし、座る。
その後、すぐに父は立ち上がり、マイクを握りしめ話し始めようとした。
しかし、隣にいたリーダーの伊吹にマイクを取られた。そして、伊吹は話し始めた。
「この度は私たちKalsunの会見にお越し頂き、ありがとうございます。今日集まって頂いたのはお伝えすることがあるからです。」
この会場の、当然僕も、さらにはこの中継を見ていた人達はきっとこの会見を楽しみにしていたことだろう。
しかし、声を震わせながら伊吹は思わぬことを口にした。
「私たちKalsunは今日をもって解散いたします!!」
会場が一瞬のうちに凍り付いた。そして、僕にも衝撃が走った。それもそのはず、今日までずっとアイドル界のトップを走ってきて今でも人気は爆発的なものなのに今この時にどうしてやめることがあるだろうか。
そんな沈黙が数分続いた後、一人の記者が質問をした。
「この時期に解散ということは何か大きな理由があると思います。その解散する理由はいったい何ですか?」
みんな、固唾を呑んで伊吹の答えを待った。しかし、その答えはみんなの求めている答えではなかった。
「理由は・・・お答えできません。」
すぐに記者席からヤジが飛んだ。
「どういうことだよ!!」「おい!!ふざけてるのか。」「理由があっての解散だろ!!筋を通せよ。」
そんな中、父が伊吹からマイクを取り、
「皆様誠にすいません。ヤジになるようでしたら本日はこれにて終了とさせていただきます。本日はお忙しい中ありがとうございました。」
「ふざけるな!!」「何のための会見だったんだ!!」
そういって、ヤジにも耳を貸さず父に連れ添われながら会場を後にするKalsun。
別室で見ていた僕は、部屋を飛び出して父のもとへ向かい、問い詰めた。
「どういうことだよ、父さん!!」
父は、俯いて情けない顔をしながら
「すまない、お前にも話せないんだ。」
僕は、そんな父に絶望し父の胸ぐらを掴んだ。そして涙を流しながら
「ふざけんなよ。なんだよそれは、そんなのってないだろ!!」
それでも父は僕に目を合わせようとはしなかった。
「もういい、アイドルなんてもう糞くらえだ。」
そういって僕は走り出した。
「それ以来、僕は父と一度も会話をしていない。」
Kalsunの解散は世の中に大きな衝撃と爪痕を残した。
ファンは嘆き悲しみこの騒動を「abasement of goddesses」と呼んだ。
そのあとすぐ世の中は鬱患者が多発した。
~abasement of goddessesから三年後~
俺の家に一通の手紙が届いた。
「嘘・・・・・・だろ・・・・・・」
父が死んだ。何とも言えない気持ちで実家に帰った。
葬儀後、僕は母に呼ばれた。
「どうしたの、母さん。」
「知ってると思うけど父さん、アイドルプロデュースしてたでしょ。それで事務所を使ってたんだけど、そこの片づけをしてきてほしいの。母さんこの後もやることたくさんあるから・・・。ね!!お願い。」
僕はため息をつき、嫌々「わかった。」と伝えた。
事務所はもう数か月使われていないくらい埃っぽく薄暗かった。
僕はブラインドを上げ、片付けを始めた。
片付けを着々と終わらせ最後に父の使っていた机を片付け始めた。
机の引き出しを開けたとき、何かが一つ床に落ちた。
「ん?なんだこれ?」
拾ってみると手紙だった。宛先は・・・自分だ。
「この手紙が読まれている頃には俺はこの世にはいないかもしれない。だからこの手紙を書こう。俺はある研究をしていた。人はどんな時幸福を感じるのだろうと。そしてアイドルという答えにたどり着いた。だから俺はいろんなところに赴き、アイドルグループKalsunを作り、いろんな人を幸せにしたかった。しかしそんな日々もあの事件で終わりを迎える。Kalsan発足から半年がたったある日俺の研究所からそれまでに培ってきた研究結果が盗まれていることに気づいた。私がしていた研究にはマイナス面も生んでしまっていた。それは、人々を負の感情に貶めるウイルスである。これが使用されたら世界は大混乱に陥ってしまう。だから私は調査をするためにKalsunを解散させた。これが解散の真実だ。お前にも言わなかったのはお前と母さんを危険にさらす可能性があったからだ。そして俺はとうとう犯人のしっぽを掴んだかもしれない。今になってこんなことを言い出すのは自分勝手かもしれないが今日世界で流行してる鬱はただの精神病ではない。ウイルス性の病気である。お前にはアイドルプロデューサーになって、このウイルスの駆除をお願いしたい。俺の願いをお前がかなえてくれ。 父」
「もう・・・遅いんだよ・・・。」
そう思いながら僕はその手紙を破り、捨てた。
その時、後ろから書類が落ちる音がした。
僕は後ろを振り返り「誰だ!!」と叫ぶ。
物陰から出てきたのはウサギの着ぐるみだった。そしてウサギはつぶやいた。
「きっ、君は・・・。もしかして、懐かしい。私は・・・。」
そして、僕に迫ってきた。僕は必死な形相で
「誰だお前は?僕にウサギの着ぐるみを着た知り合いはいない。ここで何をしている。」
というと、ウサギは冷静になったようで歩みを止めて説明しだした。
「ああ、取り乱してすまない。まず自己紹介しよう。私は君の父親の下で働いていた・・・、まあウサギとでも呼んでくれ。君の父親から君がここに来るだろうと聞いていた。父親については残念だった。しかし彼から君の手助けをしてほしいと頼まれている。どうだい?私と一緒にアイドルを育ててみないかい。」
僕は、知らん顔してウサギの横を通りすぎた。後ろからウサギが
「おい~、どこ行くんだよ~。」と、僕の肩を掴んだ。
その手を払って僕は振り向き
「どこって、帰るんだよ。こんな茶番に付き合ってられるか。」
そう言うと、ウサギの顔が真剣になった。
「茶番じゃない。本気だ、君じゃなきゃダメなんだ。どうか、どうかお願いします。」
「・・・・・・ウルサイ・・・・・・」
そして僕は事務所の扉を開け外に出た。
ウサギが後ろで何か言っていたけれどその声に耳を傾けずに僕は走った。
どれくらい走っただろう。もうすっかり空は暗かった。
「あのウサギを思い出すと今でもイライラする。しかしなんだ、この気持ちは。イライラだけじゃない。心の奥がすごくもやもやする。」
そんな時、どこからが声が聞こえた。
「兄ちゃん、こっちこっち。」
「なんだ、この声。・・・こっちか。」
僕は、声のするほうへ走り出した。
「どこ見てるの?こっち、こっち。」「はぁはぁ、こっちか。」
声を追いかけた先には広場が広がっていた。
「こ、ここは・・・。」
そうだ、ここはKalsunが1stliveを行った場所だ。
僕はそう思った後、目を閉じた。
「わぁー!!お父さん。本当にお父さんが作ったアイドルはすごいや。僕もお父さんみたいな立派なプロデューサーになりたいな。」
「ああ、お前ならきっとなれる。なんたってこの俺の子なんだから。」
その時、涙があふれて僕の頬を伝った。
「ああ、そうだった。思い出したよ。」
そうして、ポケットから何かが落ちた。一枚の写真だ。僕は拾い上げて見た。
そこには・・・笑顔の僕と父とKalsunだった。
僕は、何も考えず事務所に向かって走った。前からウサギの着ぐるみが向かってくる。
「はあはあ、やっと見つけた。もう、すっごく探したよ・・・。ん?何泣いてるの。」
僕は顔を袖で拭い、
「いや、何でもないよ・・・。それで、さっきの話だけど僕やるよ。いや、やらせてください。」
「そうそう、さっきの話。やってほしいって頼みに来た・・・。え、本当?」
「今言っただろ。本当だ。明日からよろしく。」
(続く)