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アロットロールゲイン  作者: 池金啓太
十九話「世界は動く、まだ見ぬ先へ」

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 ドイツに行くと決まっている日は思っていたよりもすぐにやってきていた。


 日々を訓練などで費やし成田空港にやってきたドク、周介、瞳、白部の四人は空港で手続きを終えた後、通常の搭乗口ではなく格納庫にやってきている。


 そしてそこにあるのは通常の大型旅客機と比較するとかなり小型の、それも普通の飛行機とは全く違う形状をした飛行機だった。


「本当にこれで行くのね」


「白部はこいつを知ってるのか?」


「……以前組織が航空会社と組んでいろいろやってた中にこれのデータもあったの。新型旅客機の研究って名目だったけど」


「まぁ……旅客機に違いはないんだろうけどな」


 旅客機というにはあまりにも異様な外見をした飛行機を前に周介は苦笑してしまう。


 元々旅客機も流線型を取っているものが多いが、この航空機はさらに突出して機体の凹凸が少ない。


 通常の旅客機が丸い鼻先と楕円形かつ筒状の胴体に羽を取り付けているのに対し、この機体は鼻先は鋭く、羽と胴体が同一化されているかのように全体が三角形に近い外形をしている。


 周介は過去どこかで調べたことのある超速航空機を思い出していた。見た目で言えば軍用のそれに近い。


 中に入ってみると、確かに人が乗る空間も確保されているようだった。だがその座席は極端に少ない。


 十人乗れるかどうかという座席の少なさだ。小型のプロペラ機と同等か、あるいはそれ以下の搭乗人数で、大きさは通常の旅客機と比較しても遜色ない。


「全然人乗れないんですね……全員連れてこなくてよかったかな」


「確かにこれじゃあぎゅうぎゅうになっちゃうかもね。けど、音速を超えて動くっていうのはそれだけ大変な事なんだよ。機体そのものの強度を維持するための構造からして、人が乗るスペースは少なくなっちゃうさ」


「動かすコストに対して、得られるものが少ないですけど……それで採算合うんですか?」


「合うわけないじゃないか。こういう実験機は採算とか度外視なんだよ。将来的に採算を合わせる為にいろいろやらなきゃいけないけど……まぁそのあたりは技術の発展やら機体の改良やらで頑張るしかないね。なかなか難しいことだけど」


 十人程度乗れるかもわからないような客の数に対し、必要な燃料や操縦手、機体の整備費等、飛行機を運用するうえでは一度の飛行に対して最低これくらいの数は客を載せないと採算が合わないということはよくある話だ。


 ただ、これはあくまで実験機。そもそも利益を得ようとしていない機体なのだから。


「今回はこれの試験運用も含めての適用ってことですか?」


「まぁ実績作りも含まれてるだろうけど、少なくとも君のスケジュールの穴をついて行動しようっていうのもあるから。君結構忙しいじゃない?学校とかあんまり休ませるわけにもいかないからさ」


 学生を扱き使っているという時点でいろいろと問題はある。そういう背景もあって周介に対してはこういう機会を使うことも許されているのだろう。


 だが周介は絶対にそれだけではないだろうと考えていた。


「……ドク、俺の能力の場合こういうのは操れませんよ?これプロペラとかジェットじゃないでしょ?」


「あ、ばれた?ごめんごめん。まぁわかってたけどね。ただこういう特殊な機体と接触する機会があればさ、何かあった時にうまく対処できるでしょ?」


 周介は回転させるような構造を有していないと操作はできない。そのためプロペラやジェットエンジンなどであれば操作は可能だが、ロケットエンジンのような反動力推進の場合は回転するものそのものがないために推進力を得られない。


 細かなパーツ、特に飛行をするための翼の微調整部分や尾翼を操ることはできるが、それだけだ。


 ドクとしてはこれに周介を乗せることで多少得られるものがあると感じたのだろう。周介が細かな検査が必要というのも本心ではあるのだろうが、一つの物事に対して二つ以上の獲得を模索するのは相変わらずというべきか。


「ドク、今後能力者の存在を明らかにするわけじゃないですか」


 専用の機体の扉が閉められ、ここにいる人間以外で誰も聞いていないという状況になってから周介はドクに聞くことにしていた。


「そうだね、そうなるね」


「将来的に転移能力とかで移動とか、そういうこともできるようになるんですか?」


「…………んー……すごい将来的にはあるかもしれないね。能力にもよるけど、一度で数百キロ移動できるような人も出てくるかもしれない。その人個人の能力に依存しちゃうのが何とも危ないところだけど、そういう風なこともできるかもしれない」


「現時点ではいないんですか?そういう転移を使える能力者は」


「いるにはいる。けど、そういう能力者は大抵各拠点やら各国やらが抱えちゃってるからね。簡単に協力してくださいとはいえないさ。うちで言うところの、伊納君をなるべく外部に出したくないみたいなものだよ」


 言音の能力は非生物に限定されているものの、この世界であればどこにだって繋げられる運搬路のようなものだ。


 本人の協力があってのことだが、予め必要なものさえ渡しておけばどこにでもどんなものでも届けられるというのはかなりの強みだ。


 今までの物流、運輸の根底が覆る。それは人が移動することに関しても同じだ。


 今まで何時間もかけて移動していた場所に一瞬で行けるとなれば、多くのものが飛びつくだろう。ただそれを享受するためには個人の素質に依存するところがあるのも事実だ。


 得られた能力によっては一財を成すこともできる。ある意味不平等な世界が出来上がることにつながるだろう。


「能力頼りというか……そういうのに依存した世の中になるのも危ないとは思いますけど……個人の才能の奪い合いになるというか」


「今も似たようなものじゃないか。才能ある人を採用してっていう企業間でのやり取りは。けど能力に対してもそう言うことが行われるようになるのはもっともっと……もっとずっと後の話だろうけどね」


 それこそ数百年はかかるかもしれないなぁとドクは苦笑する。数百年。周介には想像もできないほど遠く未来の話だ。


 能力が認知され、そしてその能力が一般にも当たり前に浸透していくまでに数十年から百年単位が必要かもしれない。


 そしてその能力をよりよく利用するために法改正なども必要になってくるだろう。企業や政府、そしてそれ以外にも民間の、一般人の理解がより必要になってくる。意識改革と言えばいいだろうか。一般の人間が当たり前のようにそれを享受できるようになるのは途方もない時間が必要になるだろう。


 それが技術的なものであれば、新たな技術が生まれたのだろうと受け入れるのも早いかもしれない。だがそれが人の、超常の力となると少し事情が変わってくる。


 同じ人間でありながらそのような強大な力を持っている人間を、果たして一般人は同じ人間として見られるかどうか。


 そうやって排斥した人間の力を、それによって得られる利益を当たり前に享受できるかどうか。

 ドクの言うように百年単位で時間がかかるかもしれない。


 技術の真価と能力者をどれくらい受け入れられるかで今後の世界の形が決まるといってもいいだろう。


「だからこそマーカーの存在っていうのは重要なんだよ。能力をよりよく捉えてもらえるかどうか、それによって今後の世界の色が変わるといってもいい。だから世界的に能力を普及させるっていう意味でも、それは必要なのさ」


「……将来的に、組織の運用というか、それらを一般人の感性に任せることになるかもってことですか?民間にもそういう能力者の運用が出てくるってことは」


 本当に将来的な話だが、先ほどの転移能力者を使った移動などを考えた時、その能力者の指導や運用を一般の企業に委託することになる。


 それが一般的になれば、組織としての役割、危険な能力者の排除なども一般企業や一般人に委託する時が来るかもしれない。


「どうだろうね……ただ能力を統制する組織は必要になると思うよ。一般人でも活用できる能力があるのも間違いない。周介君の能力だってそういう能力の一つだ。むしろ僕らが運用するよりも、より良く活用できるようになるかもしれない。けど、危険な能力に関しては一般人に委託はできない。それは周介君もよくわかっていると思うけど」


 その原因は周介にもよくわかる。身近にいる強力な力を保有する面々を見れば、それを保有することが一つの軍隊に匹敵する力を保有すると同義であることは理解できる。


 そんな力を一般の人間が保有するのは危険すぎる。特に先日の六郷会のような非合法組織が保有すれば大変なことになるのは想像に難くない。


 そういう意味でも小太刀部隊と大太刀部隊という二つの区分でそれぞれ分かれることになるかもしれなかった。


「じゃあ、軍隊……日本の場合は自衛隊ですか。それと合併することもあり得ると?」


「あり得るね。ただ何度も言うようだけどずっとずっと、ずーっと後の話さ。簡単に世の中を変えられるはずがない。今回のことだって、能力者を、能力を公表するにあたってどういう風な活動が起きるのか、予測はできても予知できるわけじゃないからね。確定したことは何も言えないのさ」


「……それが分かったからそういう、公表っていう手段に出るのでは?」


 周介の言葉にドクが首を横に振る。


「残念ながら、僕らだって隠しておけるならそうしたかったよ?けど限度が来てる。情報はもう止められない。ことわざにある通りさ。人の口には戸が立てられないってね。それがもう、歯止めが利かないところにまで来てる。ある意味、急かされるように決めただけだからね。その摩擦を少しでも少なくするのがマーカーの役割さ」


「……俺らか、あるいはあの選抜に参加していた誰かがそれを担うってことですよね?年内……はもう厳しいですか?」


「んー……」


 ドクは一瞬白部の方を見たが、白部は全く我関せずといったように周介とドクの会話を気にしてもいなかった。


 どの程度の情報を得ているのか気になったのだろうが、つい先日自分で言ったように、白部に隠し事をするのは無理だということを理解してため息を吐く。


「年内はちょっと無理だね。世界的にちょっと姉妹組織が忙しくなってる。そのあたりは白部君から聞いてるんじゃないかい?」


「さぁ?俺はどっちかっていうとマーカーに選ばれてるのかどうかっていうほうが気になってますけどね」


 白部からは直接聞くことができなかったが、周介とドクの仲だ。こうして雑談程度に話すことができる内容ではないとはいえ、少しくらい情報は漏らしてくれるかもわからない。


「……まだ選考途中というのが正直なところだね。今回のマーカー部隊の選抜にあたり、適性な能力を持っている部隊がいくつかある。もちろんその中に君達ラビット隊も入ってる。ただ、まず第一陣としてどの部隊を出すか、あるいは複合部隊にするか、その辺りで議論してるってところだね」


「……それは話してよかった情報ですか?」


「決まってないってことを伝えただけだからね。問題はないさ。ただ……」


「ただ?」


「いや、これはまだ言わないでおくよ。一つだけ言えることがあるとすれば、そろそろΔが完成するってことくらいかな」


 Δ。ラビットシリーズの最新型であり、正式採用になる機体だ。ついに完成するのかと周介は少し楽しみだったが、それとマーカー部隊と結びつけるというのもどうなのかと思えてしまう。


 非常に目立つからある意味いいのかとも思いながら、周介は考えを巡らせていた。


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[一言] ドクにはいずれ可変できる機体を作ってもらいたいなw
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