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アロットロールゲイン  作者: 池金啓太
十九話「世界は動く、まだ見ぬ先へ」

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「あの子たちは今能力の訓練をしているんでしょう?」


「あぁ。二人ともいい能力してるよ。俺のとは大違いだ」


「百枝の能力は単純だけどいい能力だと思うけど……大丈夫なの?能力を怖がったりとか……発動することを嫌がったりとか」


 それは子供たちの精神状態に関しての心配だ。少なくとも周介も一時は同じような不安を抱いていた。


 最初はそれこそ目を開けることさえも怖がっていた子もいる。そういう意味では今はずいぶんとマシになっていると思うべきだろう。


「今のところはまだ平気だな。相手が俺たちだからっていうのもあるのかもしれない。ここから順々に、少しずつ慣れていけばいい。まだ、外に出るのは怖がってるけど」


「……いきなり慣れろっていうのは無理。今までが酷かったんだから。それでも少しずつ慣れてるなら……」


 白部としてもいろいろと考えは巡らせているのだろう。ただ、その中でどれが一番いいものかはわかっていないのだ。


 だからこそ見守ることしかできない。背景を調査してその家族を見つけることくらいしかできないと思っている。


 実際その通りかもしれない。白部と子供たちには直接的なつながりはないのだ。


「そのうちの一人、ゆうたは猛が妙に入れ込んでてな。将来的にラビット隊に入れるかもなんて言ってる」


「それは……うん、いい事かもね。大変かもしれないけど」


「そこまで扱き使わないから平気だろ。俺ら小太刀部隊だぞ?マーカーになるかもしれないけど、それでもやることは限られてるんだし」


 そんな事を言っている周介から、他のメンバーの方に白部が視線を向けると、全員が首を横に振っていた。


 この言葉を信用してはいけないというアピールだ。全員が同じような反応を示したことに白部はつい笑ってしまう。


「なんだよ、なんか変なこと言ったか?」


「ううん。信頼されてるなって」


「そうか?そうだと良いな」


 悪い意味でなんだけどと白部は付け足そうとしてやめる。周介とラビット隊の隊員は奇妙な信頼関係で結ばれている。


 クエスト隊はこうではない。それぞれが自分たちの得意分野で活動している面々であるため、部隊そのもので結束ということがあまりないのだ。


 少し羨ましい。そんなことを考えてから白部は目の前にいる周介を見て小さくため息を吐く。


 少なくとも、白部と周介の間にある独特の信頼感は、ラビット隊のものとはまた少し違う種類のものだ。


 他の人は他の人。自分は自分だと、白部は笑みを浮かべながら周介に向かい合う。


「必要な情報があったら言って。あの子たちの情報は可能な限り集め続ける。他に何か知りたいことがあれば、ツクモを通して依頼してくれればどうにかするから」


「お前に頼むと、本当にやばいものでもどうにかしそうで怖いんだよなぁ……怒られないようにほどほどにしてくれよ?」


「問題は何もないわ。証拠だって一つも残していないんだもの。私は何もしていないの。ただいつの間にか知っているだけで」


「……そういうことにしておくよ。ただくれぐれも言っておくけど、ほどほどにな」


「わかってる。怒られるのは嫌だもの」


 白部としても組織に怒られるのはあまり好きではないのだろう。有益な情報を得てきてもそれによって関係を悪くしたり状況が悪化するようなことは避けるべきだ。


 問題があるとすれば、白部自身が彼女の内から湧き上がる好奇心を押さえきれていないということなのだろう。


「ま、何かあったら言ってくれ。お前の頼みなら可能な限り聞く。と言っても送り迎え程度になるだろうけど」


「その時はお願いするわ。亡命したりするときには百枝を頼るから」


「……そういう状況にならないようにしてほしいもんだけどな。上手いことやってくれよ?」


「善処はするけどね」


 周介と白部の会話を聞いて他のラビット隊の面々は苦笑いしてしまう。


 周介と白部の間には何というか、見えない信頼感というものがある。周介と瞳の間にある確固たる信頼とはまた別のものだ。


 わかりにくいが、互いが互いを信じている。互いに協力したいと思っている。なんとも言えない、言葉に表しにくい信頼関係だ。


 周介と瞳の信頼関係を互いを支えることで成り立つものだとすれば、周介と白部のそれは、互いの力を頼っていることによって生まれているものだ。


 仕事人という印象が強い白部だが、こうして周介と向かっているときは、年齢相応のただの女の子のようにも見えるのが不思議だった。


 それが周介を認めているからこその、気の緩みのようなものなのだろうか。それとも、また別の何かなのか。


 その場の誰もそれを理解できない。


 それは周介自身も。そして、白部本人も気づけていない。


 いつもよりも饒舌で、いつもよりも機嫌がよくなっているということにさえも。


「そうだ百枝、さっきの話なんだけど」


「さっき?子供たちの話か?」


「その前。百枝がドイツに行くって話。健康診断とか言ってたじゃない?」


 それは白部が部屋に入ってきてすぐにした話題だ。とはいえ本当にただ向かうだけなので何ということでもないのだが。


「あぁ、右目がこんなことになったからな。本格的に検査するんだと」


「……もしよかったら私も付いていっていい?」


 思わぬ申し出に瞳が反応する。ただ口を挟むことはなかった。周介と白部の話を邪魔をするのも悪いと思ったのもあるが、口を出すようなことではないと感じたからでもある。


 ただ周介も少し不思議そうにしていた。


「いいけど、俺が健康診断してる間暇だぞ?やることないだろうし」


「私はやることがあるの。百枝が行く場所、たぶんだけど、ドイツの能力研究所じゃない?あそこ普段は外部とネットワークを切ってるから内部の情報が入ってこなかったの」


「あぁ、情報が知りたいってことですね」


 周介の言葉に白部は大きくうなずく。


 以前にも似たようなことがあったが、相変わらず白部の知りたがりは健在のようだった。


 能力の研究をしているという点から、外部に情報が漏れないように徹底的に対応しているのだろうが、普段ネットワークから切り離しているというあたりでその本気度がうかがえる。


「その場所かどうかはわからないぞ?ただの病院かもしれないしさ」



「能力の研究とか調査とか、少なくとも診断をするってだけでもかなり重要だから情報統制はしてるはず。そういう場所に入り込みたいっていうのが正直なところだから」


「……わざわざ来なくても言音に頼めば有線つないでやるくらいはするぞ?」


「それだと怪しい動きするとばれちゃうでしょ?私なら端末に近づいて触れるだけで操れるし簡単だもの」


 本当に恐ろしいやつだなと周介は目の前で小さく胸を張っている同級生を見ながら呆れてしまう。


 確かに白部の能力ならば、電子機器がその場にあれば触れてしまえば即座に操れる。その機材の性能によって、いろいろとできることも変化するだろうが情報を確認する程度であればその場にあるもので事足りるだろう。


 周介たちがどこかから有線で接続するような手間もいらない、触れて能力を発動しさえすればいいのだから。


 防ぐ手段があるとすればその場に白部を連れていかない、そして外界から完全にネットワークを孤立させることだ。


 ただそうすると外部との連絡が非常に面倒なことになるのは間違いない。アナログな手段で通信を取るのも不可能ではないが、情報の伝達という意味では非常に面倒になる。高密度の情報のやり取りをしようとすればするほどに。


 普通であれば、そんな事をやろうとしている人間を連れていくのは拒否したいのだが、相手が白部というのが困ったところである。


 少なくとも周介は彼女の頼みを断れない。断りたくない。


「一応言っておくけど、変なことするなよ?ばれたら怒られるの俺らもなんだから」


「大丈夫。痕跡を残すようなへまはしないから」


 そういうことを言っているのではないのだがと周介は眉を顰める。だがこうなってしまった白部は止まらないということもよくわかっていた。


「それじゃ、白部も付いていくってことドクに伝えなきゃな。ものすごくいやな顔されそうだけど……っていうかちょっと待て、白部ってパスポート持ってるのか?」


「大丈夫。こういう時のために準備はしてあるから」


 海外に行く準備は万端にしてあったらしい。いったいどういう背景があるのかは知らないが、何かしら海外に行けるチャンスを逃がさないようにしていたのだろう。パスポートが本人の懐から出てきたところで

周介は再びため息をついてしまう。


「なぁ白部、ひょっとして俺がドイツに行くって知ったから今日ここに来たとか、そういうことあるのか?」


 白部は周介の質問には答えず、ゆっくりと視線を逸らす。


 どうやら図星だったらしい。最初から知っていたのだろう。それが悪いとは言わないが、本当に白部には隠し事ができない。どのようなことも知ろうとしてしまう彼女の好奇心を止められない。


 ここまで来ると彼女の行動をもう少し抑制できる何かがあったほうがいいのではないかと本気で悩んでしまうほどだ。


「何でもいいけど、プライバシーくらいは守ってくれよ?お前がその気になったら本気で隠し事ができないんだから」


「わかってる。そのあたりは私だって線引きはしてるから。組織に関係することと、私の知りたいこと以外は自重する」


 自重する。その言葉が一体どれくらい本気で、どれくらい信じられるのかは周介にもわからない。


 ただ、少なくとも本人の良心以外にそれを止められるものがいないのだから仕方がない。


「その様子だと、出発の日時とかもわかってるんだろ?ドクには俺から話しておく。なんかアピールしたほうがいい事とかあるか?連れていきやすくなるような何か」


「旅費は私が自分で出す。あと、連れていってくれたら少しの間スパコンは我慢するって伝えて」


「……それは……交渉材料になるのか……?まぁいいけどさ」


 ドクがこれ以上白部を強化したくないというのは何となく周介も察している。白部がおとなしくしているかどうかはさておいて、少し我慢してくれるというのはいい条件なのかもしれないと思えてしまう。


 白部は白部でなかなかの問題児だ。ドクも人のことを言えないのだが、彼女はそれ以上なのである。


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― 新着の感想 ―
[良い点] 白部がドイツに…… 以前輸送した例の人のことを考えるとトラブルの予感がありますね。
[気になる点] >懐から出したパスポートが本人の懐から出てきたところから 前の方の懐から出したはいらない気がする...... [一言] 白部さんルートあったりしますか......?(
[良い点] この物語において白部というキャラが1番好きかも この話を読んで改めて思ったので今の内に文章にしたいと思い書きました
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