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アロットロールゲイン  作者: 池金啓太
十九話「世界は動く、まだ見ぬ先へ」

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 そんなことを話していると、ラビット隊の部屋の扉がノックされる。ドクであれば返事をするよりも早く入ってくるものだが、一瞬待って誰も入ってこないことから玄徳が開けに向かうと、そこには白部が立っていた。


「おぉ白部、どうした?」


「あ、ごめん。打合せしてた?」


「いや、ちょっと全員に参加するかどうか聞いてただけだ。急ぎってわけでもないしもう終わってる」


「そう……参加ってなんの?」


「今度ドイツに行くことになってな。俺の健康診断。それについていくかどうかって話」


 白部は少し眉を動かして考えるような素振りをしたが、とりあえずは部屋の中に入ってくる。


「白部こそどうした?最近忙しかっただろ」


「まぁね。かなり根を詰めてた。おかげでいろいろとわかったけど」


 白部は今まで件の六郷会の情報などの解析につきっきりだった。周介たちが選抜試験を受けている間、時折手伝いをしているようなことを言っていたが、それでもほとんど会うこともなかったのだ。


 今までずっと六郷会で得られた情報をまとめていたのだということは周介たちも知っていたために無理に連絡を取ろうともしていなかった。


 ただこうしてやってきたということは、何かしら伝えるべき情報があったということなのだろう。


 周介たちは一度話を区切って白部を迎え入れて話を聞く態勢になる。


「それで、何が分かったんだ?それを伝えに来たんだろ?」


「ん……上にも報告した内容になるから、もしかしたらこの後伝え聞くことになるかもしれないってことだけはわかって。まず、六郷会の背後関係に関して。結構根が深かった」


「国内だけじゃおさまらなかったってことか?」


「ん……主にアジア中心にして横のつながりがかなりあった。どの程度まで能力者のことを知っていたのかは把握しきれてない。ただ、情報的には少なくとも十年近く前から能力者に関する活動は始まってたっぽい」


「活動って具体的には?」


「能力者を運用するって事。ただ運用っていっても用心棒とか都合のいい時の戦力としか見てない。私達の組織とは全く別の考え方」


 それは能力者の私的利用と捉えてもいい。営利目的と言い換えてもいいだろう。この間救助した四人は、いわばその運用の初期段階に回収された子供だったということだ。


「国内で言えば非合法……というよりは悪質な児童養護施設とのつながりが確認できてる。そういうところの調査はもう始めてる。国と連携して行動してるから、クエスト隊もファラリス隊もまだまだ仕事が山積み。情報が芋づる式に出てくるから。それも国内国外関係なく」


「……やっぱり国外の方もかなり荒れてるのか?」


「むしろ国外の情報の方が阿鼻叫喚。日本の数十倍の国土、それに人間、組織の数も能力者の数も日本とは大違い。それの裏で動いている組織が見つかったってだけで今アジア圏の姉妹組織はかなり忙しく動いてる。情報が漏れないようにしながらその組織の潰す作業。そして潰したら新しい情報が出てきてのいたちごっこ。たぶん、アジア圏から、一部中東からヨーロッパ圏までこの件は波及すると思う」


「……大事になったな」


「っていっても所謂人身売買みたいなものだからね。伝手をたどれば当然どこかは行き止まりになる。ただ、その規模と、この規模のつながりを今まで隠してこられたっていうのが腑に落ちないの。これは、私の勘だけど、この組織は私たちのなり損ねだと思うの」


 なり損ねという言葉に周介は疑問符を浮かべる。一体どういうことなのかと、どういう意味を持っているのかと。


「百枝には私たちの組織がどういう成り立ちだったか話したでしょ?」


「……戦争の前にできて、戦争の時に二分化されて、そのあと……今の政府と企業の仲立ちをしたのが組織で、軍の残党に残っていたのが一部あって、それが合併されたって」


「戦争の中で能力者を利用しようとしたっていうのは何も日本だけの話じゃないの。大戦に巻き込まれた周辺諸国、主導した国、間接的に関与した国。そのあたり全体が似たような動きをしてた。当然、組織の中で考えがいくつかに分かれることだってあった」


「……日本で言うところの旧日本軍残党に残ってたみたいに、そういうのがほかの国にもあったと?」


「そう。日本の場合は国土の狭さと、あと運がよかった……悪かったのかな。そういうこともあって合併できたけど、それができなかった国だってあったでしょうから」


「その生き残りが、裏組織として運営されてたってことか?」


「あくまで私の勘。実際その通りだったかどうかだってわからないし、記録は残ってるかもしれないけどそれもデータ化してないから読めないものも多いし、その辺りは探り切れてないの」


 国内の情報を全て保管していてもデータ化していないところなど山ほどある。日本だって完全にデータ化が進んでいないのだ。


 他の先進国でも同じようなものだろう。そして未だそういった技術革新が進んでいない後進国ならなおのことだ。


「……その探ってるのって許可取った?」


「……それで別の話になるんだけど」


 話を逸らせたということは間違いなく許可などはとっていないのだろう。毎度のことならばよくやるものだと周介は苦笑してしまう。


 ありがたいのだが、そのうち本当に怒られないかと不安になってしまう。実際何度か怒られているのだろうが。


「他国も若干あわただしくなってることもあって、例の計画は少し遅らせるかもって感じになってる。目標は年内だったけど、来年の頭辺りを目標に変えるみたい」


 来年の頭。一月から三月の間だとは思うが、その辺りに公開するということはそれなりに時間が空く。


 それは周介たちにとっても有り難い話ではあったが、少し心配でもある。何せ試験が終わってからその結果は何も聞いていないのだから。


「なぁ白部、例の試験の結果、お前は聞いてるか?」


「………………答えられない」


 知らないではなく答えられないという回答を出してくれただけ、白部らしく情報を教えようとしてくれている意図は伝わった。


 彼女は知っているのだ。どのような形になったか。だが今はまだ情報規制などがかかっているのだろう。


 それらを伝えれば周介たちが不利になりかねないと判断しているからか、このような言い方をしている。


 試験の時の情報統制などを考えると、知ろうとすること自体が減点対象となりかねない。そういう意味では無理に情報を得ようとすると帰って周介たちの首を絞めることになりかねない。


「わかった、なら聞かない。ずっと気になってるんだけどな」


「そのうち結果は出るから。百枝たちが頑張った結果は間違いなく出ると思う。ゆっくりして待つのが一番」


「ゆっくりね……そうはいってもやることは山積みなんだけどな。日々の仕事に訓練に……最近じゃ新入りの指導もし始めてるし」


 新入りの指導というのはあの子供たちの話だ。周介たち以上の新入りなどあの子たち以外にはほとんどいない。


 噂では、何人か能力を発現して組織に入った人間もいるようだが、それらはまだ拠点の中に入る許可ももらっていない。初期の周介の時と同じような状況だ。


「新入り……あの子たちのことで、少しわかったことがあるの」


 あの子たち。あの四人の子供のことだということを察して周介は意識を傾ける。


「家族が見つかったのか?」


「申し訳ないけど、これは私が手に入れた情報ではないの。確証もない。クエスト隊の他のメンバーが掴んだ情報。あの苗字のわからなかった二人の片方……あるいは両方の情報よ」


 みすずとゆうた。四人の子供の中で苗字が、出身地や家族などが見つからなかった二人のことを指している。


「一年とちょっと前、東京の多摩の方で火事があったの。いくつかの家と、その中にいた家族が死んでる。遺体の原型を残さないくらいの大きな火事だったって」


「その火事が、何か関係してるってことか?」


 白部は小さくうなずく。ただ、その時の火事はかなり大きなもので、隣接する家四つと木造の古いアパートが全焼したという。


 当時の事故記事などを白部は追加で調査したそうだが、時間が経過しすぎていることに加え、あまりの炎に死体そのものが原形をとどめていなかったこともあいまってあまり情報は得られなかったようだ。


 何より、全焼したそのアパートに住んでいた人間も一部不明なのだ。複数人暮らしていたことは間違いない。だが、届け出が出され、市役所などに住所登録されている人間と、死体として出てきた人数があわない。


「死体の数があわないっていっても、別にそこまで変な話じゃないと思うけどな。その時はいなかったかもしれないし、あるいは客でもいたかもしれないし……なんでそれがあいつらと関係してるって思うんだ?」


 行方不明者として何人かは警察にも登録され今も行方が捜索されている。だが、その程度であればよくある話だ。


 日本にいったいどれほどの行方不明者がいるだろう。その中に火事の際に一緒に誰かがいなくなっても別に不思議な話ではない。


「六郷会の縁者の何人かが、そのアパートに住んでいた記録があるの」


「……それは……」


 おそらくその火事に行きついたのも、六郷会の人間の関係を追っていたのが原因なのだろう。


 白部がデジタルな部分で調査を進める一方、アナログな調査を得意とするものも多くいる。


 そんな人間の一人が、そのアパートにたどり着いたとしても不思議はない。


 だが、だからと言ってアパートに住んでいた人間とあの子供たちが関係しているという確証はない。白部自身、それが確定するだけの情報を用意できなかったのだろう。だからこそ前提として謝ったのだ。


 確定している情報を得られなかったことに対する謝罪であり、それは周介と白部の間にある信頼関係があるからこその謝罪だ。


「そのいなくなった人間の中に、あの子たちの……あの二人の名前はあったのか?」


「なかった。けど関係はしてると思う。住所に出されている人間の背景を洗ってみたけど、何も出てこなかったの」


「何も?」


「そう。何も。ここまで露骨だと、何か隠してるって思えてくるのがちょっと違和感あるけど」


 人間が生きていれば何かしらの痕跡が残る。だが少なくとも市役所に登録されてる人間の背景が全く出てこないというのはおかしい。特に少なからず白部が調査して何も出てこないというのはおかしい。周介もそのくらいはわかる。


「六郷会と繋がりがあって、存在しない人間が住んでいたアパートで火事が起きて死体があって……なるほど、なんかあるって考えにはなるわな。でもなんでそこであの子たちが関係してるって思ったんだ?」


「あの二人の記憶、ファラリス隊の人が読んだって言ってた。その中に火事の記憶があったの。ただファラリス隊の人の見た映像を見たわけじゃないから、別件の可能性はある」


「けど、どちらも火事が関係してると」


「そう。六郷会の手口が火事だったのかもしれないし、あるいは偶然二人共火事の記憶があったってだけの可能性もある。だから、絶対そうとは言い切れない」


 白部はそう言っているが、確かに無関係とは言い難い。偶然にしては妙に引っかかる部分が多いのも事実だ。


 あの苗字のわからない二人の出生、どこに住んでいてどのような家族がいたのか。それを調べることはあの二人のためにもなる。そう思いたい。だが、本当にそうなのだろうかと、そう疑問にも思ってしまうのも事実だ。


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