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アロットロールゲイン  作者: 池金啓太
三話「外れた者の生きる道」
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入学式、周介が粋雲高校に入学することになるその日、周介は朝起きて食堂で朝食をとってから高校の制服を身に着けていた。


初めて袖を通すというわけではないが、それでもこれから高校生になるのだという自覚が、少しだけ周介の気持ちを浮つかせていた。


ドクに渡された通信機なども身につけながら、ネクタイをわずかに調整しながらこれでよいのだろうかと首をかしげる。


「ネクタイは初めてなのか?」


「あぁ、中学の頃は学ランだったからな。ネクタイ締めるってなんか違和感ある」


「こういうタイプもあるぞ?ちょっと格好悪いけど」


そう言って手越が取り出したのは金具によってワイシャツの部分に引っ掛けて固定する金具がついたタイプのネクタイだった。


ネクタイを締めるという行為をすることなく、ただ留めるだけでよいという簡易式のネクタイのようだった。


「そっちの方が楽は楽なんだけどさ、やっぱネクタイだったら締めたいじゃん?こう、ちょっと緩めたりしたいじゃん?」


「わかる。すっげぇわかる。けど毎日こうやって結ぶのも面倒くさいんだよな」


「こういう時に女子とかに結んでほしいよな。ちょっと背伸びしながらさ」


「超わかる!けどお前の身長だとそれ厳しいだろ」


「うっせえ!これから伸びるんだよ!」


手越の身長は百七十を超えているが、周介の身長は百六十二センチしかない。場合によっては女子よりも低い。ほとんどの女子と身長がほぼ同じになってしまうのだ。


瞳ともほとんど身長が同じだった。そういった部分は周介にとってはコンプレックスでもあった。


「クラスとかどうなるんだろうな?一緒にするのかな?」


「いや、たぶんなるべくばらばらにするだろうな。あんまり能力者を固めるとなんかあった時いきなりクラスの半分近くが抜けるとかそういうことになるだろ?」


「確かに。同世代の能力者がどれくらいいるかだな」


現時点で寮にいる能力者は四人だ。他にも能力者がいるとなった場合一つのクラスに配置される能力者はどれくらいの割合になるだろうか。


周介の学年が総勢何人で、何クラスになるのかがわからないために確かなことは言えないが一つのクラスに一人しか能力者がいないという可能性だって十分にある。


知り合いが一人もいないというのはなかなか寂しいものだ。ここから友人を作っていかなければならないだろう。


だがその点に関しては周介はあまり心配はしていなかった。


「ちなみにさ、能力者とそれ以外を見分ける方法ってないのか?学校内だけでも」


「ん、一応ドクが作った通信機を持ってれば能力者か協力者だ。っていっても常時身に着けてるわけじゃないから判別は難しいかもな……あとは腕時計とかだけど、これも地味にデザイン違うから判別はできないんだよな」


ワイシャツの襟に仕込んでいる通信機と、緊急時にそれを知らせてくれる腕時計。通信機は基本的なデザインは同じだが、腕時計は個人によって若干デザインが異なる。


周介の腕時計は黒いデジタル時計だが、手越がもっているのは銀色のアナログ時計だった。


腕時計をつけていたら能力者、なんて判別法をするわけにもいかないため、この辺りは難しいところだった。


「まぁ一応同年代のやつは紹介してやるよ。たぶん今日あたり鬼怒川先輩に学校内の案内を頼むから、そしたら会えるだろ」


「ちなみに何人くらいいるんだ?」


「えっと、俺ら四人を足して、合計で七人だな。お前と安形が小太刀だから小太刀五人、大太刀二人の割合だ」


「大太刀いるのか、ちょっと緊張するな」


同世代ですでに大太刀部隊にいるというのはなかなかに恐ろしく、同時に尊敬の念さえ抱いてしまう。


戦いに身を置くというのがどういうことかはわからない周介からすれば、恐ろしいものに突っ込んでいく光景しか思い浮かべることができない。


「俺らと同世代のやつだからそんな大したことはないぞ?それに、あいつらは大太刀の中でも控えめなタイプだから、そこまでビビることないって」


「そうか?俺からすると大太刀部隊ってだけでビビる対象なんだけど」


「んなこと言ったら鬼怒川先輩だって大太刀部隊だぞ?あの人そんな悪い人じゃないだろ?ちょっと変だけど」


「まぁ、確かにな」


「それに、大太刀か小太刀って、結局のところ能力と本人の身体能力で決まるからな。能力が戦闘向きだから仕方なく入ってるってやつも多いぜ?」


大太刀部隊に入る条件として、能力が戦闘向きであることがあげられる。能力に汎用性があり、なおかつ裏方、あるいは補助向きの能力で本人の希望があれば小太刀部隊に入ることも可能なのだとか。


とりあえず適性がなかったり能力が戦闘向きではない人間は小太刀部隊に、能力がある程度戦闘向きであるなら大太刀に入れられるのだという。


そういう意味では自分の能力は戦闘向きじゃなくてよかったと周介は心の底から思っていた。


周介たちは入学式に向かうよりも前に寮から出る時にある紙を渡されていた。それはクラス分けだった。


当然といえば当然なのかもしれないが、先ほど手越が言っていたように能力者である全員がバラバラのクラスに配置されることになっていた。


周介たちの学年は進学コースが3クラス、一般コースが5クラスある編成のようだった。合計八クラスあるわけだが、どうやら能力者は全員一般コースであるためにこの五クラスの中に複数人が割り当てられる結果となるらしい。


ということは残りの寮生以外の三人がどこかに割り当てられることになる。二人以上いるクラスが二つできることになるということだ。


「安形は何組?」


「あたし2組、百枝は?」


「俺3組。手越は?」


「俺1、桐谷は?」


「5組。見事にバラバラになったね」


ある程度は作為的なものがあるのだろうが、寮生が全員ばらけたことによって全員が一度に居なくなっても教室内の総人口が一気に減るということは避けられる。


後配属になっていないのは4組だけだ。おそらく一般のクラスの中に誰かがそこに入ることになるとして、残りの二人は誰かと同じクラスになるということでもある。


「クラスがばらけるのは仕方ないだろ。あとは白部と福島と十文字の三人がどうなるかだな」


「白部ってのは昨日言ってたやつだよな?残りの二人は……」


「さっき話した大太刀のやつだ。たぶんそのうちの誰かが誰かと一緒のクラスになるわけだけど……誰が一緒になるやら。なるべく一緒のクラスにはなりたくないもんだ」


「どうして?」


「同じクラスだと、大体出動するタイミング一緒になるからなんか勘繰られることがあるんだよ。それをごまかすのが面倒くさい」


「なるほど、そういうのもあるのか」


緊急出動などがあった場合、どうしても教室から出て拠点に向かわなければいけない。それが緊急性が高ければ大太刀小太刀の違いなどなく全員が出動しなければならなくなる。


そうなると同じタイミングで教室を出ることも多くなるためクラスメイト達に妙な目で見られることも多くなるのだ。


「中学の頃はまだよかったんだよ。安形と白部が前線に出るタイプじゃなかったからな。でも安形が前線にでて、百枝まで加わっただろ?絶対一緒になる奴が出てくる」


「そういうことか……でもそれなら一緒に出ないようなクラス分けできるんじゃないのか?」


「たぶん難しいんだよな。俺らの同世代の中で出ないのは白部だけだ。必ず一人はかぶる。たぶんそういうやつは上手く調整するんだろうけど、間違いなくお前と被ることはない」


「そういうもんか」


組織も何も考えていないわけではない。学校側と協力してうまく調整できるようにしているはずなのだ。


特に周介のような新人にそういった言い訳の機会を与えるとは思えない。そのため周介は比較的安心できる立場であるといえるだろう。


「あたしたちだといいわけが面倒になるから、たぶん手越あたりとかぶるんじゃない?異性だと言い訳面倒になるし」


「そうなんだよなぁ……そこなんだよなぁ……俺かぁ、たぶん俺かぁ」


「がんばって手越、あっち形の噂が立たないようにね」


「俺はノーマルだってことを早々に表明してやるよ。面倒くせぇ」


同じクラスの異性が一緒に授業から抜けるということがあれば、確かに何やら噂が立つのも仕方がないかもしれない。


高校生というのは多感な時期だ。そういった部分でも同性で一緒に抜けたほうがまだましと思えるかもわからない。


ただ、あまりにも一緒に授業を抜けすぎてもあらぬ疑いをかけられる可能性は高い。そういう意味で手越は一緒のクラスになりたくはなかったのだろう。


「その白部と福島と十文字は全員男なのか?」


「いや、白部だけ女だ。だからそのあたりをうまく調整すると思う。どうなるかは見てみないとわからないな……たぶんクラス分けが入り口の部分に張り出されてるだろうから見てみようぜ」


周介たちは寮から小走りで高等部の校舎前まで急ぐことにした。時間にはまだ余裕はあるのだが、誰が一緒になるのかを確認しておかなければ後々面倒なことになると考えたのが原因である。


校舎前には多くの同級生たちが自分のクラスを確認していた。


自分のクラスが何であるか、そして自分のクラスにだれがいるのかを確認している。


周介も自分のクラスに先ほどの名前があるかどうかを確認しようとしていた。


「あ、俺白部と一緒だ」


そして先ほど話題に上がっていた白部という名前が自分と一緒になっているということを周介は気づく。


そして手越の名前のところには十文字の名前が記載されていた。


「十文字か、あいつかぁ……まぁいいか、しょうがないよな」


あらかじめある程度想定はしていたからか、そこまでショックは大きくないようだが、それでも手越はうなだれてしまっている。


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