0093
周介たちが配電設備のところに行くと、そこには簀巻きにされたドクが転がっていた。
ドクは転がされた状態で各員への指示を行っている。この状態にしていないと逃げられてしまうからなのだろう。
周りの人間は特に何も気にする様子もなくドクの指示に従って作業を続けている。
「あの、ドク、大丈夫ですか?」
「お?やぁ二人とも。充電は完了したのかな?」
さも当たり前のように返事をするドクは、周介と瞳の存在を確認して転がりながら二人の方に顔を向けていた。
この様子から、この状態にされるのは別に珍しいことではないということがわかる。
この状態になれているドクに対してどんな顔をしたらいいのか周介はわからなかった。
「一応十パーセントまでは貯めてきましたよ。これで少しの間はもつんですよね?」
「今の設備の十パーセントなら、全設備をフル稼働しても丸一日はもつかな。どんどん充電系の設備も追加しているから、もっともっと容量は増えていくよ」
以前聞いたときには一日充電すれば三日という話だったような気がしたが、どうやら充電用の設備を日々増やしているようだった。
充電可能な人間が周介だけである以上、電気を貯めておける設備を大量に用意しておくのは当たり前なのかもしれない。
「でもよくそんなバッテリーがありますね。バッテリーって結構高いものなんじゃ……」
「そりゃね、そりゃ高いさ。そのあたりは材料と技術の問題でね。ここは結構技術が集まるところだから新型の充電器もどんどん変わっていく。それこそ日進月歩さ。だけどここで使う分にはいいんだけどその先のことが問題なんだよ主に権利関係でね。僕はその辺りはノータッチにしたいんだけどやっぱりきっちりしておかないと面倒なことになっちゃうからね。充電系の技術だけじゃなくて発電系でも」
「ドク、充電も終わったんで俺らもう一度寮に帰っていいですか?そろそろ晩御飯の時間なんで」
このまま話を続けるときっと話が長くなるだろうなと察した周介はドクが話しているのを途中で遮る。
そうするとドクは少し残念そうにしながら苦笑する。
「……君がどんどんこの組織に慣れてきてくれているようで何よりだよ。安形君も帰るのかい?」
「晩御飯食べたいんで。それにここにいてもしょうがないし」
「というわけでドク、今日はありがとうございました。こういう場所を見ることができるのは貴重なので、ありがたかったです」
「それは良かったよ。周介君は頻繁に君たちの部屋で充電をしてくれるとありがたいね。頼めるかい?」
「了解です。暇ができたら行くようにしますよ。可能なら俺らの部屋に暇つぶしの道具とかがあると助かるんですけど。能力の練習とかできるように」
「オーケー、そのあたりはそろえておこう。安形君は何か要望はあるかな?」
「じゃあ、くつろげるようにソファとか、大きなテーブルとか、家具を置いておいてほしいかな。できます?」
「任せておいてくれ。くつろげるような快適空間を作り出して見せるよ。あとは随時必要になったら声をかけてくれるかな?いろいろと準備はしておくから」
「了解です。今日はありがとうございました」
周介と瞳は一緒に頭を下げる。簀巻きにされたままのドクだけではなく、作業をしていた作業員たちも微笑ましそうに周介たちの方を見て軽く手を振ってくれたりしていた。
組織の裏側とでもいうべきなのだろうか、組織はこのような人々によって支えられているのだということを知ることができた瞬間でもあった。
同時に周介の仕事がまた一つ追加になったということもそうなのだが、今はそのことは置いておいたほうがいいだろう。
「悪いな安形、付き合ってもらっちゃって」
「別に、どうせ暇してたし。それにチームの部屋が手に入ったっていうのは個人的にすごい嬉しいから。結構広い部屋だったから大満足」
「そりゃ何より。あそこに何置こうかね。ゲームとかは絶対置きたいね。装備とかも置いておいて、あとは訓練用の道具とか?」
「あたしは本とかたくさん置きたい。あそこを漫画図書館みたいにしたい。いいっしょ?」
「いいけど、あんまり多すぎるのはなぁ……本棚ばっかりの部屋は嫌だぞ?」
「そこまでしないっての。それに本棚ばっかりの部屋とか、もう拠点の中にあるし」
「そうなの?図書館的な?」
「似たようなもんかな。まぁそのあたりはこれから見ていけばいいんじゃない?時間はいくらでもあるわけだし。学校からほぼゼロ距離になったから拠点に行くのも楽でしょ」
今までは入り口まで移動してからだったが、これからはその入り口が学校のいたるところに存在する。
学校の寮の中にも入り口に至る通路が作られているために休日だろうと移動は簡単だ。
「ちなみにさ、あの拠点の入り口、別の入り口に行くのを勝手に使ったら怒られる感じか?」
「そりゃね。緊急時ならいいけど、普通は使っちゃダメってなってるから。勝手に使ってそれがばれると怒られるよ?」
「やっぱそんなに甘くはないか。残念」
実家に頻繁に帰ることができるのではないかと思ったのだが、どうやらそんなに簡単な話ではないようである。
周介は少し残念に思いながら、瞳と一緒に寮に戻っていた。