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「ぷはぁ!お疲れ!」
「兄貴!お疲れ様です!」
潜水艇での調査は順調に行われていた。四カ所目の調査を終えた段階で周介たちは潜水艦に戻ってきていた。
潜水装備を身に着けていた周介はそれらを脱ぎながら自分の体から出る汗をぬぐいながら未だに蒼く輝き続ける瞳をわずかにこすり大きく伸びをしていた。
「さすがに、ぶっ続けだと疲れるな。なんかぼーっとしてくる」
時間は既に日本時間で二十時を回っている。連続で能力を発動し続けている周介は、自身の最高連続発動時間を大幅に更新していた。
時折休憩はしていても、それも十分あるかないかといったところだ。常に能力を発動し続けている負担は僅かではあるとはいえ確実に周介に蓄積し続けていた。
「今日の調査はこれで終了。一度海面に向かって、その後位置を固定。機関員を残し就寝時間とする。百枝君もお疲れ。あとはこっちでやっておくから、君達はすぐに休むんだ。電力はあと丸一日はもつから」
「ありがとうございます。最大電力まで充電してから寝るようにします。玄徳、悪いけど先に休むぞ。お前らは適当なタイミングで休め」
「兄貴、今日くらいは休んでも」
「俺以外に発電できる奴いないんだから、ぎりぎりまで発電だけはやっておく。休むのはその後だ。っていっても、横になりながらでも発電はできるからな。もしかしたら寝ながら発電してるかもだけど……変なことになりそうだから、もしなんかあったらたたき起こしてくれ」
今まで周介は眠りながら能力の発動をする訓練はしてこなかった。いつかできるようになればいいなと思いながらも、能力を精密にコントロールするだけの自信がなかったのでやってこなかった。
例えば今回の場合であれば、周介が発電の場所にだけ能力を発動していればいいのだが、もしスクリューなどを間違って動かしてしまえばそれだけで転覆の可能性が出てきてしまうのだ。
潜水艦であるため、多少ひっくり返るくらいであれば何とかなるだろうが、もしこれで注水し海の底に突撃するような動きをした場合は手に負えない。いくらドクの作った潜水艦とはいえ強度にも限度はあるだろう。
「あんたは早めに休んでいいと思うけどね。ただでさえ疲れてんだから」
周介と同じように潜水装備を脱ぎながら瞳は自分の髪をかきあげる。少し長い髪に自らの汗で滴らせながら、小さく息を吐いて周介の背中を叩く。
「あんたが潰れたらおしまいなんだから、休むことも仕事のうち。そういったのはあんたでしょうに」
「姉御の言う通りっすよ。いまお嬢たちが晩飯作ってるところっす。それ食ったらゆっくり休んでください」
「へぇ、知与の料理か。なんだ玄徳、ついてなくて心配じゃないのか?」
「お嬢はもう大丈夫っすよ。でかい鍋を振るう時はちょっと危なっかしいですが、包丁の使い方とかはもうばっちりっす。それに今はトネと雑用に手伝わせてます。まぁ足手まといにはならないでしょう」
元々知与の学習能力は異常とも思える程度には高かった。長い間玄徳の料理の姿を見て、自分でも何度も練習をしてきたおかげでどうやら包丁さばきに関しては玄徳が何も問題ないと判断する程度には高くなったのだろう。
知与が周介たちと行動するようになってから半年も経過していない。だがそれでも彼女の成長は著しい。
特に最近は葛城校長の指導のおかげで近接戦では周介はもう勝てなくなってしまっていた。
少し悲しい限りだが、その成長を喜ぶところだろう。
「今日の晩飯何?がっつり食べたい気分だ」
「昼が焼きそばだったんで、夜は中華だそうです。水もあんまり使わないほうがいいんで、炒め物って言ってました」
「そっか。了解。楽しみだ」
潜水艦だけではなく、通常長旅の船では飲料水は貴重品だ。言音の能力のおかげで基本いくらでも調達できるとはいえ、万が一を考えて節約しておくことは悪いことではない。
周介は今にも失いそうになっている意識を保ちながら装備を全て脱いで格納庫の一角に干す。明日もこれを着ることになるのだ。本当ならシャワーの一つも浴びたいところだが、水の節約のためにはこういったことも我慢が必要である。
いっそのこと海にでも入って汗を流してくるのも手だななんてことを考えながら、そんな事をすれば塩水で逆に体が汚れるということを思いつく。
どうにも疲れで思考が停滞し始めている。まともに頭が回っていないのが自分でも理解できた。
「ほら、しっかりする。もうすぐ御飯だから」
「ん……んー。腹減った……」
先ほどまで潜水艇の操作などで集中していたが、今は潜水艦の中に戻ってきたことでその緊張の糸が解けたのだろう。今までの疲労感が一気に周介に眠気という形で襲い掛かってきていた。
「急いだほうが良さそうっすね。姉御、兄貴は頼みます。俺お嬢に言って兄貴の分だけ先に用意してもらうようにいってきます」
「お願い。ほら、しゃんとして」
「あぁー。わかってる、わかってるって」
周介の体を人形で支えながら瞳は周介を食堂まで連れていく。
先に用意された周介の夕食を食べ、周介が満腹感を覚えた瞬間、周介は机に突っ伏すように寝てしまっていた。
眠る直前まで、発電機が稼働していたのはさすがというところだろうか。




