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アロットロールゲイン  作者: 池金啓太
三話「外れた者の生きる道」
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「ああぁぁあああああぁぁあぁぁぁぁああぁぁああっ?べぶふぉあ!」


 周介の体は急速な加速を経て、最後にわずかに上方向に進み体が浮いたことを確認した瞬間に柔らかな何かに突っ込んでいた。


 それがクッションのようなものであると気付くのに時間はかからなかったが、頭から突っ込んだせいで変な体勢で倒れてしまっていた。


「ちょっと、大丈夫?」


 そんな周介をしり目に、同じ穴から出てきた瞳たちはしっかりと受け身を取りながらクッションに着地していた。


 そして周介の着地の体勢を見て、手越は隠すこともなく大爆笑している。


「うっは、芸術的な着地してるな。大丈夫か?」


「てめぇ手越この野郎!押すなよって言っただろうがっ!死ぬかと思ったぞ!」


「いや、あれは百枝君が悪いね。あそこまで言われたらもう押すしかないっしょ。フリかと思ったくらいだわ」


 笑いながら同じ穴を通ってやってくる鬼怒川に、周介は憤慨しながら全身で怒りをあらわにしている。


 暗闇に頭から落ちていく恐怖、それがスロープになっていると教えられていてもその恐怖は計り知れないものがあるのだ。


「悪かったって。でも一発目でこれだけ衝撃的なら次からは余裕だろ?」


「この野郎、いつかひどい目に遭わせてやる……!ってかここって……」


 クッションが敷かれた、というかこの辺りの壁や床そのものがクッションのように柔らかい素材でできたこと場所がいったいどこなのか、周介は見渡していた。


 よくよく見れば周介たちが出てきた穴以外にも、同様の穴が壁にいくつも開いている。


 おそらく寮内からの通路がすべてこの場に通じているのだろう。これだけの穴があるのだから出てきたとたんにぶつかるということもありそうだった。


 四方すべてがクッションで囲まれ。出入口は一カ所のみ。普通の扉があるだけだった。


「あ、そういえばあの隠し扉は?閉めてきたんですか?」


「大丈夫大丈夫、あれセンサーとかで感知して自動で閉まるようになってるから。ただ、一般人が近くに居る時は気を付けてね」


 鬼怒川の適当な説明を聞きながら、周介たちはクッションの部屋からとりあえず出ることにした。


 扉から出ると、周介は一度見たことがあるような通路にやってきていることに気付く。


 それが以前、この学園で来た地下の拠点への入り口であるということに気付くのに時間は必要なかった。


「ここに出てくるのか、で、ここから入口までどれくらいあるんだ?」


 学校の地下から移動したときは車で少し移動した記憶がある。この寮から学校までは少し距離があるが、どの程度の距離なのかは正確には把握できていない。


 そんな状態で、鬼怒川は胸を張る。


「うちが全力で走れば一分とかからずに到着する。毎回なんかあるとうちがみんなを背負って走ってたんだよね」


「この人速いからな。でもこれからはそういう必要もないだろ。ほれ、あれ見てみろ」


 手越が指さす先には、駐車場スペースが用意されており、さらにそこには二台の車が停めてあった。


 十人は余裕で乗れそうな中型車だ。とりあえず周介たちはその車の近くに歩み寄っていく。


「うわ!こんなのいつの間に!この間なかったよね?」


「ふふふ、実はこれこの間搬送されたばっかなんすよ。ドクがなんかこそこそやってたんです」


「あぁ、この間これを入れてたんだ。なんか変なことやってるなと思ったら」


「いつの間に……誰の車だろ?」


 周介たちはその車がいったい誰のものなのかを確認しようとするが、ナンバープレートもないその車が一般道で走るための車ではないということはすぐに予想できた。


 そんな中、手越が扉があかないかと試していると、何の抵抗もなくその扉は開いていた。


「なんだよ不用心だな。鍵かかってないじゃん」


「まぁ、この場所自体がもう組織の拠点の一部みたいなもんだからね。鍵は?どっかにある?」


「……車の中に鍵はないみたい。っていうか、鍵を挿す場所がないような……」


「あぁ、噂のボタン一つで動かせるタイプの車ってことかな?でもそれにしてはボタンもないような」


「ってかこの車そもそもペダルが一つしかないぞ?これじゃ運転どころじゃ……」


 手越たちが車をあさっている中、周介も同じように車を調べるのだが、周介だけは気づいてしまった。

 その車に、妙に回すことができる構造の部品が多いということを。


 そして周介は、それを察知するととりあえず、一つ一つの部品を確認しながら、能力を発動し、その部品の一つを回し始める。


 すると唐突に車のライトが点灯する。やはりそういうことかと小さくため息をついて、周介は運転席に乗り込んだ。


「お、ライトついた!って百枝君どうしたん?運転するの?」


「あぁそういうことか!これお前用の車なのか!」


「たぶんな。とりあえず全員乗ってくれるか?どっかに説明書とかが……たぶんこのあたりに」


「これじゃない?」


 瞳が探し当てた冊子を見て、周介はそれを軽く読み始める。


 その間に全員車に乗り込み、それぞれ周介の様子をうかがっていた。


「よし、大体わかった」


「大体でいいのか?これ一応車だろ?」


「うん、車は車なんだけど、これ俺の能力使わないとまともに動かないっぽい」


 周介がそう言いながら能力を発動すると、車のライトが消え、今度は車内の各計器が作動し始める。


 そしてエアコンやラジオらしき音まで聞こえてくる。車に搭載されている発電機を周介が能力を使って起動させたのである。


 だが当然地下にいるためか、ラジオはノイズ混じりでほとんどまともに聞こえなかった。


「えっとあとは……ここか?」


 周介がさらに能力を発動し部品を回転させると、車内についているテレビモニターがゆっくりと起動していく。


「おぉ!すっごい!こんなことできるんだ!」


「よくここまで作り込んだもんだよ。部品が多くて覚えるのに苦労する。んじゃとりあえず軽く運転してみるけど、鬼怒川先輩、道案内お願いしていいですか?」


「いいよー。まずはここでてまっすぐ行って次の交差点を左に……ってちょいまち。百枝君や、君運転免許持ってる?」


「まだ持ってないです。今度ドクに取るようにセッティングしてもらってますけど……」


「……事故起こさないでよね?てごっち、念のため能力発動してフォローできるように準備しといてくれる?」


「さーせん先輩、俺今装備もってないんでほぼほぼ役立たずっす」


「瞳ちゃんは?」


「あたしも同じく人形ないんで役立たずです。頼りにはなりません」


「事故った時はお願いしますね」


「……オーケー。百枝君、絶対事故らないでね。君の運転の一挙一動でうちの拳が飛んでくるかもしれんぞ」


「アイアイマム。安全運転を心がけます」


 といっても、周介も何度も自分の体で能力を操っているのだ。これも同じ要領で加速くらいは変化させられる。


 そして一つだけついているペダルは、周介の能力ではどうしようもないブレーキペダルだ。これも一応能力で作動させられるように部品は取り付けてあるのだが、足で踏んだほうが練習になるだろうと周介は常にブレーキペダルに足を置いていた。


「んじゃ発進しますよ。しっかりつかまっててくださいね」


 周介の言葉に、ほとんどの者が身近にある掴まれそうな突起物にしっかりとつかまっていた。


 唯一瞳だけは助手席でのんびりと携帯を操っている。


 周介は引き続き能力を発動し、車輪を動かし始める。まずはゆっくりと、そして確実に前へと進んでいく。


「動いてる、動いてる。これ本当に能力で動かしてんの?」


「そうです。まだすっごい遅いですけど。もうちょっとスピード出しますか」


 すると周介の能力によって車は加速していき、時速二十キロ程度の速度で走り出す。それでも一般的な車からすれば十分ゆっくりなペースだ。


 このスローペースな動きで周介はこの車の動きと動かし方を少しずつだが確認していた。


「慣れた?」


「少しずつな。けどドクもよくこれ作ったな。要らない部品全部取っ払ってその代わりに俺が使えるように新しく部品作ったって感じだぞ?」


 この車の中に本来あるべきエンジンや燃料タンクといったパーツはすべて取り外されており、その代わりに周介が能力でこの車を動かせるようにするための部品が新しく取り付けられている。


 周介は能力でそれを把握することができていた。この車はもはや完全に周介用の専用車両だ。


「それだけあの人が気にかけてくれてるってことっしょ?いい事じゃん」


「そうなんだろうけどなぁ。なんかプレッシャー」


 そんなことを話していると、車両後部に乗っている手越たちはその様子を見てそわそわし始める。


「ねぇねぇてごっち、瞳ちゃんは百枝君とチームを組んでるって言ってたけどさ、なんか二人あれじゃない?なんかずいぶんとこなれた感じしない?」


「あー、確かに。あれっすかね、なんかこう、いて当たり前みたいな雰囲気だしてますね」


「夫婦感ある」


「そうそれだ!うちらがすっごいビビってる中で瞳ちゃんだけ妙に堂々としてるし?なんかもうあれじゃん?私はわかってます感?出てるよね」


「あの、聞こえてるんですけど。あたしはこいつの能力で動くものにいろいろ乗ってるから慣れてるだけです」


 瞳はわずかに目を細めながら否定するが、その様子に鬼怒川はニヤニヤしながら瞳と周介を見比べていた。


「しかも即行で助手席を確保するあたりさ、もう指定席って感じじゃん?なになに?ここは譲りませんってか?にくいねぇ」


「うざ……」


「安形、先輩にそれはちょっと……」


「本心よ」


 本心を口にするから問題なのだがと周介は苦笑してしまう。だが今は運転に集中するべきだなと、ハンドルを持つ手と能力の発動に集中していた。


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