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アロットロールゲイン  作者: 池金啓太
三話「外れた者の生きる道」
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「あ!いたいた!悪い悪い!すっかり約束忘れてた」


 笑いながら申し訳なさそうに頭を下げる女子生徒に、周介は面食らってしまっていた。


 すらりと伸びた手足に短い髪、そして豊満な胸部が印象的な女子生徒。彼女が先ほど言っていた先輩能力者であるということを理解するのにそれほど時間はかからなかった。


「先輩遅いっす。約束の時間過ぎてますよ」


「悪い悪い。すっかり忘れてた。初めまして新入生諸君!って言ってもほとんど顔見知りじゃんか。一人だけ知らないのいるけど」


 安形も桐谷もどうやらこの女子生徒のことは知っているらしい。確かに新人は周介だけであるため、当然といえば当然なのかもしれないが。


「加奈ちゃんや、周辺に一般人はいるかね?」


「大丈夫です。全員部屋に戻ったり洗面所に行ったりしてます。こっちには来てません」


「オッケー。じゃあ話放題だ。初めまして新米能力者君。うちは鬼怒川桜花(きぬがわおうか)、一個上の先輩能力者だ。所属は大太刀部隊ね」


 大太刀部隊。先ほど手越も言っていたが、本当に大太刀部隊所属だったということに周介は少しだけ緊張してしまっていた。


 大太刀部隊ということはつまり戦闘特化の能力を有しているということだ。それだけの強い能力を持っているということでもあり、小太刀部隊である周介たちとは一線を画す存在なのだろう。


「初めまして、小太刀部隊所属の百枝周介です。安形とチーム組んでます」


「ありゃ、瞳ちゃんチームメイト出来たんだ。そりゃよかった!これで外でも活動できるね」


「ありがとうございます。でも外に出るの面倒ですね、この間出ましたけど」


「そりゃね、仕方ないってもんさ。でも活躍できるぜ?」


 どうやら彼女は瞳たちと同じように昔から知っているようだった。気安さが一朝一夕のものではない。


「なぁ手越、鬼怒川先輩はどれくらい組織にいるんだ?」


 女子たちが話している間に、周介はこっそりと手越に話しかける。別にこっそり聞くことでもないのかもしれないが、あまり意識的に聞くのもどうかと思ったのだ。


「あぁ、あの人はだいぶ前だな。確か小学校に上がるかどうかって頃から居たらしい。だから俺らよりも能力者年数はだいぶ上だな」


 能力を発現する条件などを鑑みると、能力の出力自体はそこまで高くはないのかもしれないなと思いながら、周介は同時に驚いてもいた。


 幼いころから能力を発現したということはマナの許容量自体は少ないということだ。だがそれでも大太刀部隊にいるということはそれほど戦闘に特化したタイプの能力なのだろう。


 敵にはしたくないなと思いながら、周介は鬼怒川の方を見ていた。


「ところで新人君、えっと百枝君だっけ?君はもう現場に出てるの?」


「この間初めてまともに活動しましたけど、一応契約上四月から本格的にって話です。今はまだ装備とかがそろってなくて」


「なるほど、うちよりてごっち系の能力なわけだ。それじゃ準備に時間かかるかもなぁ」


『てごっち』というのが手越のあだ名だということを知って周介は一瞬笑いそうになってしまう。


 そして手越はそんな周介を見てため息をつく。


「あの先輩、いい加減その『てごっち』ってやめてくれません?」


「なんで?いいじゃん、てごっち」


 どうやら手越自身はこのあだ名が好きではないのか、やや不機嫌そうにしている。とはいえ長い付き合いだからかこれ以上強く言えないのだろう。


 なんとも複雑そうな表情をする手越に、周介は話題を変えてやったほうがいいだろうと口を開いた。


「えと、鬼怒川先輩、今日はよろしくお願いします。俺能力者になってまだ一カ月程度しか経ってなくて、いろいろとわからないことが多いので、いろいろ教えてください」


「ん、うんうん、しっかりとお願いできるいい子じゃんか。いいねじゃあ親切にいろいろ教えてしんぜよう。といってもうちが教えてやれるのもそんな大したことじゃないけどね。学校の仕組みっていうか、そういうのを教えるくらいだし」


 そう言いながら鬼怒川はあたりを見渡してあれやこれやと思い出しながら携帯を操作し始める。


「んじゃまずはこの寮のことから説明してこうか。三人はあれだろ?中等部の寮と構造ほとんど変わってないから何となくわかるだろ?」


「何となくは。でも細部が違ってるんで仕組みが違うかもですよ」


 細部が変わると何か問題があるのだろうかと思っていると、食堂の一角にある柱のところに鬼怒川は歩いていき、何やら柱を触り始める。


「んじゃ新人君にはびっくりどっきりな仕掛けをお見せしよう。えっと、ここの開け方は……?」


 携帯にあるデータを確認しながら、鬼怒川が柱をいじっていると、柱の一角が扉のように開き、その中に入れるようになっていた。


 一体どこに繋がっているのかは不明だが、どうやらこのまま直下に降りられるような作りになっているようだった。


「おぉ!隠し扉!?」


「イグザクトリィ。この地下部分に拠点への門に通じてる通路がある。有事の際はこういう場所に飛び込んですぐに拠点に移動できるようにすんの」


「へぁ……ああーこれ落ちても大丈夫なんですか?」


 周介は穴を覗き込むが、そこが見えない。光源の類がないから仕方がないのだが、このまま落ちたらただでは済まないのではないかと思える。


 声の反響からちょっとやそっとの距離ではないのは予想できた。


「若干スロープ状になってるからそのあたりは問題ねえよ。何なら降りてみるか?」


「待て待て、まだほかに案内する場所あるんだから。そういうのは最後にしなさい最後に」


 仮にスロープ状になっているからといって、この闇の中に落ちていける勇気はないなと周介は唖然としてしまっていた。


「こういうのって結構当たり前に使うのか?」


「当たり前かどうかはさておいて、俺は結構使うな。割と出撃回数多いし」


「あたしも拠点に行くときは基本これ使ってる。慣れれば大したことないよ」


「私もよく使うかな。絶叫系のアトラクションだと思えばそこまで驚くことはないと思うよ」


 同世代の三者三様の反応だが、三人とも能力者の反応であるためにあまり参考にはならない。もっとも周介も能力者なのだが、一応まだ一般人としての感性が働いているためにそこまで参考にならない意見だなと思ってしまっていた。


「んじゃ加奈ちゃん、これからいろいろ見て回るからさ、とりあえず周りに人がいないかだけチェックしててくれる?適当に穴がある場所を紹介していくから。あと、これの開け方の説明書も後で送っておく」


 説明書があるのかと周介は不思議に思っていたが、それ以上に疑問なのが鬼怒川の桐谷に対する言葉だった。


「なぁ、なんで先輩は桐谷に人がいるかどうか確認させてるんだ?」


「ん?あぁ、あいつはそういうことがわかる能力なんだよ。実はさっきから能力ちょくちょく発動してるんだぜ?」


「マジで?目は全然光ってなかったけど」


 能力が発動したことを示す目の光だが、先ほどから桐谷からはそういったものは放たれていない。


 だというのに能力を発動していたということがどういうことなのか、周介は気がかりだった。


「まぁ実際に聞いたほうが早いか。桐谷、ちょっと索敵頼むぞ」


「わかった。今は大丈夫、近づいてくる人がいるけど、距離的にまだまだ余裕はある」


 数秒の間に再び索敵を行ったと思われるのだが、やはり能力を発動したようには見えなかった。


 一体どうやっているのかさっぱりわからない。能力発動の時の目の発光を隠すコツでもあるのだろうかと疑問だったが、そんな周介に瞳がため息交じりに答えを出した。


「瞬きの瞬間に能力を瞬間的に発動してるだけだし。慣れると結構簡単にできるから」


「瞬き?ってあんな一瞬で?」


「私の能力は索敵にちょっとした準備が必要だけど、そういう瞬間的な索敵でも結構なことがわかる能力なんだよね。だからこういう日常的な索敵には便利」


 確かに会話をしているときに何度か瞬きをしているが、目を閉じている時間は一秒にも満たないだろう。本当に一瞬のその瞬間に能力をタイミングよく発動する。熟練した能力者でなければできない芸当だろうと周介は感動していた。


「すごいな、俺なんかそんな瞬間の発動はまだできないわ。てか俺の能力の場合瞬間発動してもあんまり意味ない……」


「そういう能力もあるだろうし、そこは仕方ない。私みたいな索敵系の能力者はこのテクニックは結構重要」


 瞼を閉じた瞬間の能力発動。慣れれば簡単だと桐谷は語るが、少なくとも今の周介にはできる気がしなかった。


「そういえば新人君、百枝君はどういう能力なんだ?ちょいと教えてみ」


「えっと……」


 周介は一瞬瞳の方を見る。能力をあまり教えないほうがいいというのは能力者同士の暗黙の了解だ。


 特にチームを組んでいる瞳がいる前で、堂々と能力のことを教えるのは気が引けた。


「別にいいんじゃん?少しくらい教えてあげてもさ」


「それじゃあ、俺の能力は物を回転させる能力です。物体を回すことができます」


 そう言って周介は適当に回せそうなものを探すが、あいにくこの辺りで回せそうなものを見つけることはできなかった。


 壁掛けの時計はアナログ時計だったが、あれを回したら戻すのに時間がかかりそうだったためやめておくことにした。


「回すって、例えばどんな感じに?」


「本当に回すだけですよ。時計の針とか、タイヤとかそういうのです。それを使って高速移動するのが得意です」


「すごいんすよこいつ、この間高速道路を自転車で疾走してたんです。しかも車顔負けの速度で」


「へぇ、そりゃ速い。自分で漕いだとかじゃなくて?」


「いえ能力です。そういうことしかできないですけど」


 戦うことができる力ではない。移動することしかできない力だと周介は考えていた。ドクはそんなことはないといい、手越も良い能力であるといってくれたが、それでも周介はあまりこの能力が優れているとは思えなかった。


「そういうことしかだなんて謙遜だ。そんなことができる能力だ。誰かのためになるいい能力じゃんか」


 鬼怒川の言葉に、周介は少し疑いの気持ちが強かった。こんな能力のことを褒められてもうれしくはなかったし、どちらかというと気を使われているように聞こえてしまう。


「まぁ、これで毎回先輩に担いでもらうことはなくなりますよね」


「そう!それ大きい!毎度毎度タクシー代わりに使われなくて済む!それかなり大事!」


 鬼怒川がどういう能力なのかはさておき、どうやらある程度人を運ぶことができる能力なのだろう。


 もしかしたら移動が楽になるから誉めてくれたのだろうかと、周介は勘ぐってしまっていた。


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