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「じゃああれか、水に浮く物体を操れば水の手より速く動いて、水に沈む物体を操れば水の手よりも遅くなるってことか」
「早い話がそういうこと。基本は水だけど、砂とか木とか、そういうものも混ぜて操ると種類が作れる。その分面倒くさいけどな」
能力を使うといっても単純に使えばいいというものではなく、色々と工夫を求められるようだ。
周介が回転数などを変えるのと同じように、彼は操る物体を変えて緩急をつけているのだろう。
少なくとも、あの高速道路で見た光景を考えると、一度に複数の手を操ることができると考えていい。物体の種類をつけることで、手そのものの速度を変え、翻弄することを目的としているのだろう。
「アイヴィー隊って、俺が関わった中で一番よく会うけど、あれなのか?暇なのか?」
「暇って……俺らの部隊の性質上、ドクに結構な頻度で呼び出し受けるんだよ。被害を食い止めるっていう意味で」
「部隊の性質?」
「なんだ、そのあたりも説明されてないのか。それぞれの部隊には、コンセプトって言えばいいか?部隊それぞれの特色があるんだよ。俺らの部隊で言えば『足止め』だ。目標をその場にくぎ付けにする。そんで敵を捕縛する、あるいは味方の増援が来るまで待つって感じ」
「あぁ、そういえば高速道路の能力者を動けなくしてたりしたよな」
周介を追ってきた能力者を完全に動けなくしていたり、高速で動いていた周介を簡単に止めてみたりと、確かに動きを止める、足止めをすることに特化した能力であるように思える。
能力者が集まることによってできたチーム。能力を組み合わせることによって、より高い効果を発揮する。その中でも特化した構成にしたのがコンセプトチームとでもいうべきものなのだろう。
「じゃああれか、他のチーム、例えば……エイド隊とか、ギリー隊とか、スペース隊にもチームの特色があるのか」
「あるぞ。エイド隊は治療、ギリー隊は隠匿、スペース隊は搬送と、まぁいろいろ特殊なことができるようにしてある。お前、メイト隊のナビを受けたことってないのか?」
「ある、俺をいつもナビしてくれるのはメイト11だった」
「メイト隊はナビゲートに特化したチームだ。俺らもよくお世話になってる。こういう風に、チームそれぞれに役割があるんだ。それが小太刀部隊。戦闘部隊の大太刀部隊とはまた系統が違うんだ」
小太刀部隊。戦闘を主目的とせず、各部隊のサポートを主目的とした、所謂多目的部隊。
戦闘を主目的とした大太刀部隊との大きな違いは、部隊によって立ち回り方が大きく異なるということなのだろう。
「俺、大太刀部隊の人と会ったことってないけど、やっぱ強い人ばっかりなのか?」
「あぁ、あれはやばいぞ。ぶっちゃけ大太刀部隊は本当に、戦うことが目的の部隊だ。能力もそうだし、訓練も全部戦闘特化。小太刀部隊はいろんなことに気を使って能力を使うけど、大太刀部隊はそういうことを考えない。相手を倒す事しか考えないんだ」
「倒すって……いままでそういう相手が出たことあるのか?」
少なくとも、周介が知る限りそういった事件が起きた記憶はなかった。どこのニュースでもそういったことは取り上げなかったし、マスコミもそういった話題を取り上げた記憶はない。
もっとも、五輪正典という組織が圧力をかけている可能性があるためあてにはならないが。
「ある。ここ数年で、大規模な戦闘になったのは三回くらいか。大太刀部隊が出撃した事件はもう少し多いけど」
「それって、戦いになったんだよな?能力者同士の」
「そうだ。周りに被害を出さないように小太刀部隊が状況を整えて、相手能力者に大太刀部隊をぶつける。それが大体の流れだな。最近は小太刀部隊だけで解決できる内容が多いから大太刀部隊の出撃数は少ないけど」
大太刀部隊と小太刀部隊。それぞれの役割があるためにそれぞれできることをする。大太刀部隊が戦闘部隊であり、戦うことが目的であるため出番こそ少ない。小太刀部隊は出番が多い代わりに、大太刀部隊のような戦闘能力がないために解決能力には限界があるということだろう。
特に相手が高い戦闘能力を持っていた場合は、どうしても大太刀部隊に協力を仰がなければいけない。
「大太刀部隊にもコンセプトみたいなのはあるのか?小太刀部隊みたいに」
「それはチームによりけりだな。チームそのものの総合戦闘能力を高めるってのもいれば、逆にチーム内で協力しないで個人プレーが多いところもある。そればっかりはチームによってばらばらだ。そこが小太刀部隊との違いだな」
「へぇ……ってか手越妙に詳しいけど、お前何年くらい組織にいるんだ?」
「俺か?俺は小学校の時から居るから、もう四年くらいになるか。いろいろ詳しくなるのも仕方ないって」
能力に覚醒したのが小学生の高学年の頃だったのだろう。能力覚醒、というか暴走の条件を考えれば能力の出力こそ周介よりは高くはないかもしれないが、それでも高い経験値と知識を有しているということになる。
先輩能力者としてこれから頼りにさせてもらいたいなと、周介は考えていた。
「とりあえず自己紹介はこれくらいか。これからよろしくな。後で先輩に寮内とか高校の中のものを案内してくれるように頼んであるから、お前のチームメイトも呼んでおけよ」
「安形か。そういや安形もここに住むのか」
瞳は女子寮であるために場所こそはなれているものの、この寮に住むことには変わりない。
周介はとりあえずメッセージを瞳に飛ばすことにした。