0072
「どうでしたか?彼らの活躍をご覧になって」
ドクが話しかける先には一人の女性がいた。机に座り、パソコンの画面に映し出された映像を見ていた彼女は、動画が終わるのと同時にゆっくりと、そして微笑みながら息をつく。
「なかなかどうして、優秀な子たちじゃないか。そして青い、まだまだ未熟だ。彼らの成長が楽しみで仕方がないね。君が目をかけるのもわかる」
女性は満足そうに、楽しそうに動画をもう一度見ようとする。その動画がいったいどこからスタートするべきなのかをわかっているかのように、即座にシークバーを動かしていた。
「彼が正式に入隊するのは、四月からだったかな」
「えぇ、その予定です。もうすでに所属しているようなものですが」
「小太刀部隊所属……チーム名は何にするんだい?まだ決めてあげてないんだろう?」
周介と瞳の二人だけのチームだが、名前を呼ぶというのは必要なことだ。
特に外で活動するときのコールサインなどもそれによって決まってくる。外部で活動することが多くなるであろうことを考えて、何かチーム名を決めておいたほうがいいのは間違いないのだ。
「どうにも、思いつかなくて。何かいい案はありませんかね?」
「私か?私にそういうセンスがないのは知っているだろう?私が名前を付けてしまったら彼らがかわいそうだ。本人たちはどう考えているんだい?」
「どうでしょう。まだそういったことが考えられる段階ではないと思いますよ?今は自分のことで精いっぱいって感じです。少なくとも彼は」
「うん、動画を見ていると、やはり彼女がうまく引っ張っているという印象だった。先輩能力者としてしっかりと新米をフォローしてあげているね」
「彼女も、今までとは違い表に出られるでしょう。あとは他のチームとの活動も多くなる。そうすれば、ここに居場所もできるでしょう」
「……本来であれば、もっと早い段階でそれを与えてあげられれば良かったんだけどね。情けないなぁ」
動画に映るヘルメットを着けて顔を隠した少女を見ながら、困ったように、申し訳なさそうに笑う女性を前に、ドクは複雑そうな表情をしていた。
だが同時に、これからそれが変わるのだと、そういう気持ちも強かった。
「ところで、四月までに間に合うのかい?結構余計なものに手を出しているみたいだけど?」
「余計なものだなんてひどい!あれらはすべて必要なものですよ!あれらがあるからこそ活動範囲にも、何より行動力にも変化がある!それに一つ一つのノウハウを蓄積することでさらなる未来が」
「そういうのはいいから落ち着きなさい。いい年していつまでも子供みたいに……メーカーにも頼んでいるんだから、しっかりと期日は守ってもらわないと困るよ?」
「わかっていますよ。作製の息抜きに作製をしているだけです。仕事はしっかりしていますから安心してください」
作製の息抜きに作製をするというよくわからない言動だが、女性はドクの発言だからそこまで深く気にするようなことはしないようだった。
ものづくりに携わる人間には総じて良くあることだ。仕事で作るものと、趣味で作るものは違うということだろう。
もっともドクの場合、自分の好きなことに没頭してしまう悪癖があるために注意が必要なのだが。
「あれができれば、いろいろな問題が一気に解決するからね。もともとあったものを改造したんだろう?」
「えぇ、これで開発も一気にやりやすくなりますよ。彼の協力が不可欠ではありますが、そのあたりは快く協力してくれるだろう」
「私たちが雇う立場になるんだ。労働基準はしっかりと守るんだよ?」
「学生を雇う時点で労働基準的にはアウトですよ」
「おっと、そうだった」
女性は楽しそうに笑う。わかっていて言っているのだろうと、ドクは呆れてため息をついてしまっていた。
「並行してそれの関係施設も作っていますから、常に彼の力を借りなくてもよくなるでしょう。これからもっと拠点を拡張できますね」
「拡張するのはいいのだけれどね、私としてはいろいろと問題視もしているよ。大太刀部隊がもっと訓練室を増やすように申請してきてるんだよ……彼らは気楽でいいよね、こういう面倒事を考えなくていいんだから」
「そういうわけでもありませんよ。彼らの場合は死活問題でもありますから。派手に暴れればその分被害も大きくなりますからね。前の訓練室も壊れたままでしょう?」
「あぁ、もっともっと拠点を拡張しないと、はっきり言って改修が追い付かない。こっちの気も知らずにいい気なものさ。矢面に立つのが自分たちだけだと思っている連中までいる始末だ」
「そのあたりは仕方がないでしょうね。僕らの腕の見せ所ですよ」
「なんとも頼もしいお言葉ありがとう。それでもうちょっと趣味にかける時間を少なくしてくれたら、私は感激して泣いてしまうかもしれないよ」
「それは残念ながら難しいでしょう。僕から趣味を取り上げたら大変なことになりますよ。この拠点が僕の趣味で溢れます」
「あぁ、わかってる。わかっていたよ。君はそういう男だ。私の周りにはろくな男がいなくていけない」
「副長は?彼は結構いい男では?」
「私のタイプじゃない」
切り捨てるが如く言い放つ女性の言葉に、ドクは笑うしかなかった。その場にいない人物のことを不憫に思いながら。