表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
アロットロールゲイン  作者: 池金啓太
二話「手を取り合うその意味を」

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

67/1751

0067

「やぁやぁお疲れ様。大活躍だったじゃあないか。東京は秋葉原の未曽有のバイオハザードを防いだスーパーマンだよ君たちは」


「随分地味なスーパーマンもいたもんですよ。空でも飛んでスパッと解決したかったですけどね」


「はっはっは、お疲れみたいだね。まぁあれだけの距離を人を担いだ状態で走れば無理もないか。お疲れ様。君たちはよくやったよ。おかげであの死体は無事収容できた。いま専門のチームが調査しているところだよ」


 どうやら無事に死体は回収できたようだ。一定距離内に発動する能力を常に発動しているとなるとかなり危険だ。


 そんな死体をどのように処理するのかはともかく、一人人が死んでいるのだから、何かしらの調査をしないわけにはいかないだろう。


 以前周介の家に来た時のように警察に協力してもらって話を通すのか、それとも別の手段をとるのか、それは定かではないが。


「今回のことでよくわかりました。せめてもうちょっとまともな装備がないと満足に動けないですね。特に東京では信号が多すぎます」


「君からすればそう感じるかもね。かなり曲がりくねったルートを進んでたから仕方がないけれど。まぁいろいろと得るものがあったんじゃないかな?装備の要望とか、こういうのがあったらいいなとか、そういうのがあると僕としては装備を作りやすいんだよね」


「それだったら後でいろいろと出しますよ。思うところたくさんありましたからね」


「でも結構快適に走れたんじゃあないかい?少なくとも、自転車より、普通のローラーよりはずっと」


「……そういえば」


 周介は自分の足に着けている脚部装備を見て思い出す。前に自転車で高速道路を全力疾走した時は足にも尻にもハンドルを握る手にも振動が常にかかっていたのだ。


 地面の小さな凹凸によって生じるものであることは理解できる。アスファルトで舗装されているとはいえ、どうしたって小さな凹凸ができてしまうものだ。


 車などの大きなタイヤで、専用の緩衝材、サスペンションを着けているのであればそれらは緩和できるが、ただの自転車ではそうはいかない。


 そう、自転車の時にあった振動が、今回はあまり感じなかったのだ。曲がるときや段差などを超える時はもちろんあったが、普通の道路を走っているときには振動などは自転車の時ほど感じられなかった。


「一応その脚部装備も結構こだわっているからね。君の足にかかる負荷を可能な限り減らすためにいろいろと機能がついているのさ。そうやって一つずつ、装備を完成させていけば、いずれ君の個人装備が完成する。だから要望を出すんだ!早く出すんだ!」


「ドクター、話が進まないんでいったん止まってください。それで、あの死体はどうするんです?またどっかに運ぶっていうならやりますけど」


 このままでは周介の装備の話を延々と続けそうなドクを止め、瞳は人形を自分のもとに呼び寄せていた。


 ここは拠点だ。瞳の人形がいくつもある。ここからまたどこかにスタートするということであれば、少なくとも周介が瞳を背負う必要はなくなるだろう。


「いいや、ここまで運んでくれれば十分さ。少なくとも今日明日どうするってことはない。だから今日のところはここで解散してくれて構わないよ。すまなかったね、卒業旅行中にわざわざ呼び出しちゃって」


「ちょうどいい屋外研修だとか思ってませんか?さっきから顔がニヤついてますよ」


「機嫌がいいだけさ。別に何かを企んでいるとかそういうことではないんだよ。それに、君自身いい経験になったんじゃないかな?一人でできないことも、誰かと一緒にやることで可能になる。当たり前のことだけど、これはとても大事なことだよ?」


 中学生というのは、ある種の全能感を抱えた年代でもある。自分一人で何でもできるような気になり、自分一人で何でもこなせるような気になる年代だ。


 だが、少なくとも周介はあまりそういった考えはなかった。何せ周介がもつ能力は、そもそも誰かの助けがなければまともに発動したところで意味がない能力なのだから。


 道具がなければ能力を活かすことができない。そういう意味では装備を開発するドクの協力が不可欠だ。


 そして道具を開発しても、それらは速く動くことしかできない。そうなるとほかの人の協力が必要になる。


 一人ではただ移動することしかできないのだ。それでは何でもできるとはとてもいいがたい。


「今日は確かに助かりました。俺一人じゃ何もできなかったですし、何より、一人じゃ死体を見てパニックになっていたかもしれません」


 周介は初めて死体というものを見た。人が、人間が死んでいるのを初めて見てしまった。


 もちろん、目の前で絶命したわけではないとはいえ、死体というものを見たという衝撃はまだ周介の中に残っている。


 あの場に冷静な大人や、安形がいたからこそ冷静さを保つことができていたが、もしあの場に誰もいなかったら、誰もいなくて周介一人だったら、きっと平静を保つことはできなかっただろう。


 どこかでパニックになり、どこかで大きなミスをしていただろう。


 そうならないように安形たちが気を配ってくれていたということも理解している。


 周介はまだ能力者として未熟すぎる。経験がなさすぎる。ドクが意図的にこういったことに参加させようとしていても不思議はない。そう思える程度には。


「で、あの死体は、その…どうするんですか?」


 周介にとって、生まれて初めて見てしまった死体だ。どのようになるのか、気にならないといえば嘘になる。


 能力を発動し続けている死体というのがネックではあるが、この組織がどのようにそれに対処するのかも気になった。


「まずは身元の確認かな。幸い顔はまだ原形をとどめているから判断はできるだろう。警察と連携してそのあたりは捜査はするよ。かなり極秘にだけどね」


「極秘って、公表はしないんですか?」


「『しない』というよりは『できない』が正しいね。目が光り続けている人間が死んで、その周りでは生き物が腐り続ける。そんなものを公表したら新手の病気とかウィルスじゃないかと騒がれること請け合いさ」


「じゃあ、あの人の身元がわかっても、死体は家族のもとには返さないんですか?」


「火葬すれば返せるかもしれないね。少なくとも能力を発動している現状では返すことはできない。危険すぎる。だから、彼には悪いがこのままここにいて、行方不明になってもらうしかないね」


 行方不明。死んだことすら知らされずに、その存在そのものがいなくなってしまったということにする。


 攫われたのか、それとも殺されたのか。それすらもわからずに残された家族は待つことになる。


 そんなことが許されていいのだろうかと、周介は悩んでいた。


 そして許されるはずがないと、ドクを強くにらむ。


「そんなの……あの死体の、能力さえなんとかなれば家族のもとへは返すことができるんですよね?」


 何も知らされず、いつ帰ってくるのかもわからない、そんな状態の家族を作るのは周介には容認できなかった。


 あの死体の死因が他殺なのか、能力の暴走による自爆なのか、それはわからないが、家族にとってはそんなことはどうでもいいのだ。


 家族がどこに行ったのかわからない。生きているのか、死んでいるのかさえ。


 そんな状態で家族がただ待ち続ける。そんな状態がいいとは思えなかった。


 もちろん、死をつきつけるという、酷なことをすることになる。もしかしたら、いつか帰ってくるだろうと、望みを抱いていられるほうがいいのかもしれない。


 それでも、周介はこの死体を家族のもとに帰してやるべきだと、そう思っていた。


「そうだね。けど、僕はあの状態をどうにかするつもりはないよ。もちろん君が何かをしようとしたらそれを止めさせてもらう。申し訳ないけどね」


「なんで!なんでドクにそんなことを決められるんですか!」


「僕はそれなりに権限を与えられてるっていうのが一つ。そして死体が能力を発動するというのは結構レアなんだよ?全国見ても、百件くらいしか事例が確認できてない。彼は検体として非常に貴重なんだ」


「検体って……人の死体ですよ?」


「そうだよ。能力の全容が解明できていない以上、それは必須さ。それに、残念ながら、死体が発動するタイプの能力は、解除条件が判明していないんだよ」


 死体が発動する能力。今まで世界規模で見ても百件程度しか発見されていないというのもそうだが、能力の解除条件がわかっていないというのも気がかりだった。


「でもさっきは、火葬すればって……」


「そう。だけどこうも言ったはずだよ。かもしれないって。今までに二件ほど、火葬ってわけじゃないけど、骨だけになっても能力を発動し続けるっていう実例があるんだよ。能力が発動され続けている以上、家族のもとに返すことはできない」


 周介だって能力が危険だということは十分にわかっている。


 特に生き物を腐らせる能力。あれは危険だ。負傷していた人のあの指の状態を思い出すだけで、その危険性は十分すぎるほどに理解できるだろう。


 近くに居るだけで、生き物を腐らせてしまう。それが鳥だろうと虫だろうと人間だろうと、そして家族だろうと。


「警察も、それは納得済みってことですか?」


「納得なんてしていないだろうね。警察は法を守る組織だ。そして僕らが今やっている行動は、法律から逸脱した行為だ。でも、わかっているんだよ。こうしたほうが被害は少なくて済むって。こうするほかないんだって」


 納得なんてできるはずもない。死体を法的機関以外が保管するなどあってはならない。病院などの、設備が整っている場所や、法律によって許された場所であるならばまだわかる。


 だが、すべての電灯が光を放っていないような、こんな場所にそんな設備があるとも思えなかったし、ここが法律によって認められた場所であるとも思えなかった。


 だがこの組織は、曲がりなりにも政府には認められた組織だ。警察とも連携し、マスコミや各種大企業などとも関係を持っている。


 個人の意見などでは覆らないほどの大きな流れが、すでにできてしまっているのだ。


 理不尽。


 感情などではどうにもならない、一人の気持ちなどどうにもならない、そういう大きな力が、今目の前にあった。


「本当なら、返してあげたいさ。家族のもとに返せるならね。けど、そう簡単にはいかない。それは君もわかるだろう?能力の力を知っている君なら」


 能力の恐ろしさを、周介はよく知っている。知らず知らずのうちに多くの人間を危険にさらした周介は、それを良く知っている。


 もしこの死体が、このまま家族のもとに帰った時どうなるか。そしてその先に待ち受ける悲劇がどのようなものであるのか、想像できないほど周介はバカではなかった。


 近づくだけで傷つける。触れ合わなくとも腐らせる。そんな能力を前に、家族がどんな反応をしてしまうのか、その程度、中学生にでもわかることだ。


「でも……そんなの……」


「……そうだね。君が言いたいことはわかる。けど、それが今の状況だ。今のこの状況で、他にできることはない。他にどうしようもないという結論は、もうずっと前に出てしまっているんだよ」


 周介のような感性を持った人間が、今までいなかったわけではない。誰かの死を悼み、その体を家族のもとに送ってやりたいと、そう訴えた人間がほかにもいたのだ。


 その遺体の友人だったのかもしれない、あるいは見ず知らずの他人だったのかもしれない。あるいは、家族にも等しい何かだったのかもしれない。


 だがそんな人の言葉が届かない、そんな状況がこの場にはあった。以前に何度も、何度も同じような議論がなされたのだということを知らしめるように、周介の眼前にはすでに出てしまっている答えがあるように見えた。


「でもね、君のようにまっすぐと、そういうことが言えるのは、とてもいいことだ。だから君は何も、何も間違ってはいないんだよ」


 間違っていない。間違っていないのに、なぜ認められないのか。


 この考えは、この気持ちは、正しくないのか。間違っていないのであれば正しいのではないのだろうか。

 そんな、不思議な矛盾に、周介は不満そうに視線を逸らせることしかできなかった。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ