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アロットロールゲイン  作者: 池金啓太
二話「手を取り合うその意味を」
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0062

 ナビによって辿り着いたのはとある雑居ビルの屋上だった。周介たちはナビに従って階段を上がり、扉に手をかけるとすでにその扉は開いている状態だった。


 どうやって開けたのかは不明だが、少なくともこの雑居ビルの人間に何か話をしたというわけでもないのだろう。


 扉を開けて屋上に出ると、そこには四人の人間がいた。そのうちの一人は手に包帯を巻いている。彼が先ほど言っていた負傷者だろうかと、周介たちは急いでその場に駆け寄っていた。


 屋上のほぼ中心に、男性が一人倒れている。そしてその男性からそれぞれが均等な距離を保ったままになっていた。


 遠巻きに見ても、その倒れている男性に意識があるようには見えない。だがその目がいまだに蒼く光っているのがわかる。時折その光が途切れることはあっても、その光が停まることはなかった。


「すいません、お待たせしました。ドクの指示で来た…えっと…新米二人です」


「どうもです」


 まだチーム名も何も決まっていないために、周介たちは新米と名乗るほかなかった。扉が開いた音を聞き、周介たちがやってきたことを知ってか、その場にいた全員が周介たちの方を見る。


 彼らは全員顔を隠していた。フルフェイスのヘルメットを着けている者もいれば、サングラスを着けている者もいる。


 一見すると不審者の群れだったが、こういう活動をするうえでは必要なものなのだろうと周介も半ば割り切っていた。


「来ましたね。あなたたちがドクターの言っていた二人ですか」


「はい。この前小太刀部隊に入った百枝周介です。よろしくお願いします」


「……結構前から小太刀部隊にいる安形瞳です」


 周介と瞳が軽く自己紹介をすると、その場の四人は小さくうなずいて顔を見合わせる。まずはこの状況を説明する前に自分たちのことを言ったほうがいいと思ったのか、それともそのように指示されていたのか、まずはサングラスをかけた女性二人が前に出た。


「初めまして、私たちは小太刀部隊所属のエイド隊。コールサインはエイド04、と06です」


「よろしくお願いします」


 二人の女性はともにスーツを着ている。おそらく近くで勤務している人物なのだろうか、スーツ姿にサングラスという非常に軽装な状態で来ていた。


 準備ができなかったのか、それともこれが彼女たちの正式な活動服なのか。そのあたりは周介には分らなかった。


 そしてエイド隊の二人の紹介が終わってから、残る二人の男性の方に視線が向く。やはり自己紹介をしなければだめだろうかと、包帯を巻いた男性はバツが悪そうに前に出た。


「俺は小太刀部隊のスペース03。そっちのはまた別の部隊のやつだ」


「同じく小太刀部隊のギリー02。よろしくね新人君」


 それぞれ部隊名があるからこそ、部隊のコールサインで自己紹介をしてくれる中、自分たちだけ本名を名乗っているのは恥ずかしいものだなと、周介は若干気まずくなっていた。


 もっともそんなことを気にしているだけの余裕はなくなっているわけなのだが。


「それで、あの人が能力を発動しているんですよね?大丈夫なんですか?」


「いいえ、大丈夫ではありません。あの方はすでに死亡しています」


 死亡しているという事実に、周介と瞳は目を見開いてしまっていた。


 簡単に死んでいるという事実を告げられても信じられなかった。


 だがよくよく観察すると、その男性が身に着けている衣服には何やら血の跡も見られる。だがその衣服もだいぶボロボロになっているし、その体の一部は崩れ、虫などがたかってしまっているのがわかる。


 だが、その虫が次々に地面に落ちているのが気がかりだった。


 そして、生まれて初めて人の死体を見てしまったという事実に、周介はわずかにめまいがするのを感じていた。


「能力のせい、ですか?」


「死体を詳しく調べられていないので、詳細までは不明ですけど、死体の状態から鑑みて少なくとも今日昨日のうちに死んだということではないようです」


 なんでそんなことがわかるんですかと周介は聞きたくて仕方がなかったが、とりあえず今は話を先に進めることが先決だった。


 未だ心臓は強く、そして早く鼓動を続けている。興奮、というよりは不安だろうか。それとも恐怖だろうか。


 目の前に死体があるということに、目の前で人が死んでいるという事実に周介はまだ適応できていなかった。


「あの能力者、死体なのに能力を発動し続けてるんですか?」


「能力者の死体ではたまにあることです。死ぬ瞬間まで能力を発動し続けていると、そういう状態になることは時折あるんですよ」


「……マジっすか、そうですか」


「それで、なんで早いところ片づけないんです?能力に関係が?」


 エイド隊は治療するためのチームだから仕方がないとして、スペース隊とギリー隊の二人は運搬するため、そして対処できる程度の技能があったから呼ばれたのだろう。


 近くに居たというのもあるのだろうが。


「それがな、あれを運ぼうとしたら、この様でな」


 そう言いながらスペース隊の人間は負傷した状態の手を出す。先ほどドクが言っていた負傷というのはこのことなのだろう。


「俺の能力は対象に触れることで浮かせたりすることができるんだけど、触れて動かしてたらいつの間にかこんなことになってた。近づくとやばい能力らしい」


「俺は近づかなくてもいいから問題はなかったけど、結構手がえぐいことになってたよ。写真見る?」


 なんでそんなものを撮影したのかと疑問にも思うが、周介と瞳はその写真を見てみることにした。


 そこには皮膚がただれて、内部の肉が見えてしまっている右手の写真があった。それを見て食後の周介は軽く吐き気を催したのは仕方のないことだろう。


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