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アロットロールゲイン  作者: 池金啓太
二話「手を取り合うその意味を」
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 スカイツリーを出た周介たちはそのままの足で東京の観光名所の一つとなっている浅草にやってきていた。


 スカイツリーからそのまま歩いてきて周介たちは東京の街並みを目にしていた。完全な都心とは別の、人が住んでいる東京という、少し自分たちの住んでいた場所に近い街を見て、周介たちはこの場所もまた人間が住んでいるような場所なのだなと実感していた。


 東京は働く場所であって住む場所ではないという印象が強かったのだ。だが見てみればところどころに家などもある。ビルだけではなくそういった建物があることに中学生たちは素直に安心していた。


「建物多いなぁ、俺らの地元とは大違いじゃんかなぁ」


「確かに。あっちこっち建物があってちょっと落ち着かない。においが全然違うよな。これが都会のにおいか」


「単に俺らの地元が田舎臭いってだけだと思うけどな」


 自然豊かで田畑などが散見する場所と違い、この東京では土を見つけることも難しい。


 街路樹などによって緑はあるのだが、それでも田舎っこの中学生たちはその匂いを敏感に感じ取っていた。


 普段嗅いでいる匂いとは全然違う。草や土の匂いではない。アスファルトと人が出すゴミのにおいが染みついているように感じられた。


 言い方自体は最悪だが、彼らにはそう感じられたのだ。それもある意味仕方がないのかもしれない。

 過剰なほどに人が住み、過剰なほどにものが供給されているのだ。その分ゴミも出てしまうのも無理のない話である。


「っていうかさ、なんか違和感があると思ったらあれだ、あの音がしないんだ」


「あの音?どんな?」


「ほら、なんかいつも聞こえてたじゃん。フクロウみたいな鳴き声」


 フクロウみたいな鳴き声といわれて、全員が『あぁ!』と納得する。地元ではよく聞こえていたあの声が聞こえないのだ。


 漫画などでよく見るフクロウの声に思えるかもしれないが、あれは梟ではなく鳩の声だ。鳩はその辺りにいるというのに、なぜかこの都会ではその声は全く聞こえなかった。


「つーかあれだよな。東京の鳩って全然飛ばないのな。さっき俺の足元にいたぞ?人間に慣れすぎじゃないのか?」


「仕方がないって。奴らはすでに野生を忘れているんだ。人間たちに与えられた餌で生活できているんだ。そのうち空を飛ばない鳩も生まれるだろうよ」


「これが進化ってやつか……人間が生態系を壊すってこういうことなんだな」


 中学生らしく頭が空っぽな会話をしながら、周介たちは浅草の街を歩いていく。小さな店やこじゃれた店、それぞれ趣のある不思議な出で立ちに周介たちは写真を撮りながら歩いていると、やや後方で悲鳴とともに誰かが倒れる音がする。


 そして同時に勢いよく周介たちの真横をバイクが通り過ぎて行った。


「ひったくり!私のバック!」


 おそらく被害者だろうか、道路に倒れてしまっている女性が大声を上げてバイクに乗って逃げようとする人物を指さす。


 ひったくりという言葉に周りの人間の意識もそのバイクに向くが、誰も追いかけようとはしなかった。


 女性は倒れた状態で、おそらく足を捻ったのか、膝を擦りむいたのか、その場にうずくまってしまっている。


 その様子を見て、周介は腹の奥から湧き上がるものを感じ取っていた。


 バイクに乗っている人間を生身の人間が追えるはずもない。近くに居る誰かが警察を呼ぶ中で、周介はバイクの位置を確かめると、目元を押さえて意識を集中した。


 ちょうど曲がろうとしていたバイクのタイヤめがけて能力を発動すると、先ほどまで順調に進んでいたバイクは唐突にそのタイヤの回転数を上げ跳ねるように急加速し、制御を失って近くにあった電信柱に衝突していた。


 バイクに乗っていた男性は衝突の衝撃でバイクから弾き落とされ、うめきながら何とか動こうとしている。


 そんな中、近くに居た男性たちがその男性を押さえつけ、女性が奪われたバックを回収していた。


「うっわ!俺初めて事故ってるとこ見た!やばいなさすが東京!」


「東京関係なくね?俺はひったくりを初めて見たことにびっくりだわ」


「確かに。やっぱ東京は物騒なんだな。俺ら田舎もんはとっとと観光すっべ」


「んだんだ、んでかえってべっこの様子みっべ」


「なんで急にそんな田舎プレイしてんだよ。お前んち牛なんて飼ってないだろ」


「鶏は飼ってるんだけどなぁ」


 ひったくりと事故という衝撃的な二つの事象を見た中学生たちはテンションを上げながらその場から歩いて離れていた。


 周介はわずかに携帯を覗き見て自分の目がもう光っていないことを確認して安堵の息を吐く。


 軽率かもしれなかったが、あぁいった行動を見過ごすのもどうかと思ったのだ。うまくいく保証はなかったため、一種の能力の練習のようなものかもしれない。


 良いことをしたわけでも、あの女性を助けたかったわけでもない。ただ、単純にあぁいった行動に腹が立っただけだ。


 理不尽な行動に、その被害を考えず行うものに、ただ苛立っただけだ。正義とはまるで遠い行動に、周介は自分を戒めようと心を落ち着かせてた。


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