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アロットロールゲイン  作者: 池金啓太
二話「手を取り合うその意味を」
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東京駅。この場所は人も建物もとにかく多い。


高くそびえたつビル群に、ターミナル駅として使用される東京駅を利用するため毎日のように何万という人間がその駅に押し寄せていく。


周介たちが到着したころには、すでに朝のラッシュの時刻は過ぎていたが、それでも普段周介たちが見る駅のそれとは全く違う光景が広がっている。


「やっばいなこれ。これ全部人?全員人なの?東京えぐいな」


「さすが日本の首都東京。すっげーな。ここまで来ると引くわ」


「確かに。これ全員なんか用があってここに来てるんだろ?」


周介の友人たちは口々に単純な人の多さに驚いてしまっていた。とはいえそれは周介も同様だ。


受験するときは東京駅を外から見ることはなかったが、こうして外から見て、そして中に入っていくとその人の多さがわかる。


「うわ、おいこの人数で利用客数四位らしいぞ?」


「マジで。え?ここで四番目なの?一番は?」


「新宿駅。二番目が渋谷らしい。三番目は池袋だってさ」


「やべえな東京。いったいどんだけ人間詰め込んでんだよ……俺らの地元よりだいぶ小さいはずだよな?」


「そのはずなんだけどなぁ……これが地方格差ってやつか」


携帯で東京のことなどを調べながら、周介たちはまず第一にスカイツリーへと向かうことにした。


「東京からだとスカイツリーってどう行くんだ?」


「中央線で神田行って、そこから銀座線に乗り換えて浅草行って、そのあとスカイツリーラインに乗って、とうきょうスカイツリー駅ってところまで」


「駅まであるのかよ。すごいなスカイツリー」


日本で最高の高さを誇る建造物なだけあって、かなり観光地としての目的が強いのだろうか。スカイツリーの専門の建物があるという事実に周介たちは驚きながらとりあえずその駅に向かうことにしていた。


東京駅の中に入った段階で、周介たちはすでに目を回しそうだった。とにかく人が多い。気を抜いたら人の波にさらわれてしまうのではないかと思えるほどの人の数。それこそこの国のすべての人間がここに集められているのではないかと錯覚してしまうほどだ。


「ここまで人がいるとさ、なんかこう、一気に巻き込みたくなるな」


「あぁ、塊魂な。確かに。あるいは一気にこう、薙ぎ払いたくなってくる」


「わかるわ、無双ゲームとかのあれな。こう、一気に吹っ飛ばしたくなる!」


大量の人間がいる光景など、体育館での全校集会程度のものである周介たち中学生にとって、これほどの大量の人間が集めようとしたわけでもなく自然に存在しているというこの状況は違和感しかない光景なのである。


とはいえ、これが自然なことである以上、いずれはこれが当たり前だと思わなければいけないのだろう。ネットなどでそういった情報を知ることができても、いざそういった光景が広がっているのを目の当たりにすると、やはりいろいろと思うところがあるのだ。東京の駅から電車に乗る際も、やはりその人の多さに驚いてしまう。


とにかく人が多い。


電車に乗るのも移動するのも乗り換えるのもホームで待つのも、とにもかくにも人が多い。


これだけ人がいるのであればなんでもできそうだなと思えてしまうほどだ。


「こんだけ人がいるのにさ、テレビとかで政治家とかがさ、少子化だとか人材不足だとか言ってるじゃん?いったいどこが足りないんだって話よな。足りてんじゃん!めっちゃ人いんじゃん!って感じ」


「ほんとなー。いったい何見て政治やってんだか」


今目の前にあるこの光景しか見えていない中学生が政治を語るという滑稽な光景が、周りの人間から一体どのように見えているのか、それらは知る由もない。


いや、そんな話をしている子供に意識を向けていない、興味を向けていないというのが正確なところなのだろう。


無関心というのは現代における一つの慣習のようなものだ。いつの間にかそうなった、そうなってしまった一つの文化のようなものだ。


悲しいかな、それはどの場所でも大体同じようなものなのかもわからない。


東京駅からいくつかの駅で乗り換え、経由することで周介たちはその建物を目の当たりにしていた。


東京スカイツリー。日本で一番高い建物。


とうきょうスカイツリー駅という、名称がそのまんま過ぎるその駅から降りて、そもそもその建物がどこにあるのだろうと少し歩いてから周囲を見渡すと、その答えはすぐ近くにそびえたっていた。


「おぉ!やばい!マジこんな高いんだ!」


「どこにいてもわかるなこれ。迷わないな」


「でっけー」


同級生たちとともに、周介も携帯で写真を撮っていく。


「これ人間が作ったんだろ?やばいな、バベルの塔もびっくりだな」


「あれと同列視するのはどうなんだ?とにかく中入ってみようぜ?いくらだっけ?」


「え?金かかんの!?」


下調べが不十分だった友人は驚いているが、とりあえず周介たちはスカイツリーの中に入っていくことにする。


観光名所としてあげられるだけあって、スカイツリーの中にはたくさんの店があった。


この建築物の本来の存在意義を見失いそうになるが、それでも一つの商業施設として成り立っているのは間違いなさそうだった。


「ぉぉおお!すっげぇ!」


スカイツリーの展望台とでもいうべき場所から見える景色は、今まで見てきたそれとは別物だった。


飛行機などで見えるような、人の姿などほとんど見えないような、車でさえも米粒のように見えるような高さの光景に、周介たちは目を奪われていた。


ここがどこなのかとか、あの場所にあるのがどこなのかとか、そういったことはわからない。今自分が東京のどのあたりに立っているのだとか、見える場所に何があるのかとか、そういったことはわからない。


だが目の前に広がるこの街が、建物が、すべて人の営みによって生まれたものだと知って、目をそらすことができなかった。


いい景色。その言葉を意味する光景は山ほどあるだろう。


自然豊かな光景を見てもその言葉を言うのは間違いではない。そしてこのように、視界の果てまで続く人々の営みを見ることができるこの光景もまた、その言葉を言うにふさわしいものであるということを周介は感じ取っていた。


もちろん、中学生である彼らがどの程度この光景のすばらしさを理解できるかは個人によって差があるだろう。


だがそれでも、この高さが、この光景が、素晴らしいものであるということは理解できただろう。


「いやぁすげぇなあ。金出すのも納得だわ。店も結構あるし、ここって本当に電波塔なのか?」


「一応そうらしいな。地デジの発信源?らしい……っておい、ガラス床とかあるらしいぞ」


「ガラス床!?やばい行こうぜ!」


「ジャンプしようぜジャンプ!」


中学生の知識で、調べてもその程度の事しかわからなかったが、彼らからすれば目の前で広がる光景よりも、この建物が本来なんであるのかよりも、ガラス床の方に興味を惹かれたようだった。


「うへあぁああ!やっべぇ!これやっべぇ!怖い!」


「これ落ちたら死ぬよな?絶対やばいよな?」


「無理無理無理無理!なんでお前らそんな普通に立てんの!?抜けたら死ぬんだぞ!?落ちたら死ぬぞ!」


「大丈夫大丈夫。死ぬときはたぶん一瞬だって」


地上からの高さはおそよ三百メートル以上といったところだろうか。そんな場所で床が透けているというのは人間の根源的恐怖を思い起こさせることだろう。


周介はガラス床の上に乗りながら、橋の上から高速に落とされたときのことを思い出していた。


たったあれだけの高さでも死にそうになっていたのだ。この高さでは間違いなく助からないだろうなと、そんなことを考えていた。


「すげぇなぁ。これジャンプしても大丈夫かな?大丈夫だよな?」


「動画とっててやるよ。万が一落ちたらマスコミに売るから」


「やめろ、割とシャレになってない!」


「飛ぶ勇気はさすがにないな。そこまでできない。立つだけでも結構怖いぞこれ」


下からのぞき込まれているとか、下を覗き込むとかそういう考えよりも、透明な地面の上に立つというのがどれだけ怖い事かというのを彼らは知っていた。


ガラスなのだから大丈夫という考えは浮かばない。何度かガラスが割れている光景を知っているのだ。


いくら強いとはいえガラスはガラス。どうあがいたところで壊れることに変わりはない。建築用で、おそらくかなりの強度を誇っていたとしても中学生にそれを理解しろというのは難しい話である。


「写真撮ろうぜ写真。ほれほれ」


「はいはい撮るぞ。お前変顔すんな!笑われるだろうが!てか笑われてる!」


「旅行の恥はかなぐり捨てるものっていうだろ!こういう時じゃないとこういうことできないだろ!」


「ほら他の人もガラスの上に乗りたいみたいだから、さっさと撮るぞ」


観光名所というだけあって人も多い。同じようなことを考える人間も多い中、一つの場所ばかりにとどまっているのはマナー違反だ。


周介たちは即座にガラスの上で変なポーズで写真を撮ってからその場から離れる。


「いやぁやばいな!思ってた以上に怖かったわ」


「ここからバンジーとかできるようにしたらいい商売になるんじゃないか?ダメかな?」


「さすがにダメだろ。たぶん、なんか条例的に」


「出来たら絶対長蛇の列だわ。俺はやらないけど」


できないだろうけれども、できたら楽しいだろうなという話をするのもまた学生の特権のようなものだ。


周りから変な目で見られるのも、微笑ましく見られるのもあとどれくらいだろうか。中学生の彼らはそんなことは知らずに、今をただ享受していく。


そんな中、周介の時計が小さく鳴り始めていた。


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