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アロットロールゲイン  作者: 池金啓太
十話「分水嶺に立つ小動物」

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「それではいいですね?時間は一分間です。鬼怒川さんは、先に能力の発動をしておいてください。片腕だけですよ」


「わかってますって!信用ないなぁ」


 周介と鬼怒川は、互いに向かい合った状態で距離をとっていた。今までの訓練であれば障害物がある場所で適当に位置して相手を見つけるところから始めるところだが、今回は障害物のある中でも所謂道沿いの場所に布陣していた。時間が短いことに加え、おそらくは周介が鬼怒川から初手の不意打ちを受けないようにするための配慮だろうことはうかがえた。


 そして先に能力を発動させることで、鬼怒川の能力を周介に見せておく意味合いもあるのだろう。何も知らないところから急に始まるより、始まるよりも先に情報を与えてきたいという古守なりの気遣いだ。


 周介はその気づかいを理解していた。まずは相手の能力を把握するところから始めるべきだと。


 先程の会話から、体に何かを作用させる能力であるということは理解していた。体の部位を限定する形でも発動できる能力。


 一体どんな能力なのか。周介が疑問を頭の中に抱えたままになっている中、大きく伸びをした鬼怒川は、屈伸をするような動きをしてから右腕を真上に突き上げる。


「よっしゃ!いっくぞぉ!」


 その動きはまるで特撮系の変身ヒーローのような動きだった。能力発動的には全く意味のない動きなのだろうが、妙にキレのある動きに周介は意味がないだろうということはわかっていてもいつでも動けるようにと警戒してしまう。


 瞬間、鬼怒川の胸元が一瞬光ったかと思えば、普段周介たち能力者の目が放つ蒼い光がその体からあふれ出す。


 いや、正確には、胸元からあふれた強い光のせいで全身から放たれているように見えているだけだ。

 そして、突き上げた右腕に変化が訪れる。


 その腕は、女性の細腕とは似ても似つかないほど巨大で、太く、筋肉質な何かに変貌していた。


 もはや人間の腕ですらない。鋭い爪を持った巨大な手とそこから繋がる太い前腕、肘の部分には突起、角のようなものも見えており、上腕は前腕に比べると細いものの、それでも通常の人間の倍以上の太さを有している。


 肩は骨格そのものが変わっているように変形しており、太い腕を支えるための頑丈なものへと変わっていた。


 腕の長さ自体も普通の人間のそれではない。倍近い長さを誇るそれを見て、周介は驚愕を隠すことができなかった。


 変身、まさにそう形容するべき能力だった。だが特撮ヒーローのような何かのスーツを着込んでいるようなそれとはわけが違う。


 どちらかというと、人ではない何かに変身したようにすら見える。そう、それを言葉に表すのであれば『鬼』というのが良いだろうか。


「よしよしよし、これならいいかな?ヨッシーさん!いいでしょ!?」


 きっちり右腕部分だけに限定した彼女に、遠くから見ていた古守も渋い顔をしながらも首を縦に振っていた。


「ではでは、まずは軽ぅく……」


 そう言って鬼怒川は自分の足元の床を変貌した右腕で叩く。


 軽く叩いているだけにもかかわらず。周りには重たいもので叩きつけるかのような音が響いている。部屋中に響くのではないかと思えるほどの衝撃音が聞こえている。


 あれはまずい。能力の詳細を知らない周介でも察しがついてしまう。


 古守が鬼怒川は特別だといった意味をほんの少しだけ理解できた周介だったが、まだその本質を理解できていない。


 情報が整理しきれていない中、鬼怒川は周介の方を向く。


「まぁこんなもんか。よし、それじゃ」


 逃げろ。


 鬼怒川が笑みを浮かべ、それを見た時周介の中の何かがそう叫んだ。周介は何も考えず、反射的にその叫びに従い後方斜め上へ跳躍する。


 瞬間、周介のいた場所めがけて鬼怒川が襲い掛かり、通り過ぎた。


 そして周介の背面側にあった障害物に殴りかかり、その障害物を一撃で砕いていた。


 通り過ぎた瞬間に発生したその風だけで、どれだけの速度で移動したのかがわかる。周介は即座に態勢を整え、近くにあった障害物に着地していた。


 攻撃を外し、障害物に加えらえた一撃、右腕でただ殴っただけの一撃のはずだ。だがその一撃は頑強な障害物を粉砕していた。


 亀裂が入るとかそういう次元ではない。一撃のもとに粉砕し、障害物を叩き折っていた。


「ありゃりゃ、これくらいは耐えられると思ったんだけど……やっぱ攻撃の時は力入っちゃうなぁ」


 鬼怒川は、あれでも手加減をしたほうなのだろう。少なくとも障害物やこの訓練場が壊れない程度の加減をしたつもりだったのだ。


 だが、それでも耐えることはできなかった。周介が回避できたのは、はっきり言って運の要素も大きい。本能が全力で警鐘を鳴らしたからこそ避けることができたというべきだろう。


 腕だけでどうやってあの加速をしたのか。その答えは鬼怒川がいた場所にあった。床がえぐれている。何かを突き立てて、そこからさらに力が加わったと思うべきだろう。つまり、あの右腕を突き立て、その腕を使って前へと進んだのだ。


「それにしても良く避けたね百枝君。いいよいいよ、思ってたより反応がいい。これなら、もうちょっと楽しめそうじゃないか」


 屈託のない、ただ楽しそうな笑みを浮かべる鬼怒川に、周介は寒気と冷や汗を止めることができなかった。


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