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アロットロールゲイン  作者: 池金啓太
十話「分水嶺に立つ小動物」

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「よーっす!百枝君いるかい!?」


 周介がラビットαに自転車を使わせ、ぎこちなく自転車を漕がせていると、ラビット隊の隊室に珍しい人物がやってきていた。


 鬼怒川桜花、周介たちの先輩でもあり、大太刀部隊所属の能力者である。


 古守を周介に紹介した人物でもあり、最近はあまり関わってこなかったのだが、唐突に部屋にやってきたことで周介たちは目を白黒させていた。


「鬼怒川先輩、どうしたんですか?」


「やぁやぁ、最近面白いことを始めたっていうからさ、ちょっと様子を見に来たんだよね。ってなんかいろいろとすごいね」


 鬼怒川はラビット隊の部屋にやってくることは少なかったために、その変化に多少なりとも驚いているようだ。


 私物が増えている。特に知与が筋トレ、および体力増強のために必要な器具がいくつも増えているのだ。


 快適かどうかはさておき、どんどん改装されているその部屋の中を見て、鬼怒川は知与の方に目を向けた。


「お、君が新しいラビット隊の新人だね。初めまして。うちは鬼怒川桜花、大太刀部隊所属。よろしくね」


 目ざとく知与を見つけると、鬼怒川は相手の反応を見るよりも早くその手を取って朗らかな笑みを浮かべながら握手をする。知与は戸惑いながらも、鬼怒川の豊満な胸元に意識が向いてしまっていた。実際に見ているわけではないのだろうが。


「は、初めまして……小島知与です」


「小さくて可愛いじゃんか。今中学生?」


「はい、今度粋雲高校を受験するつもりで」


「大丈夫大丈夫、基本裏口だから。能力が使えれば基本合格だよ。それにラビット隊の優秀な人材なら組織も優遇してくれるって」


 普通はもう少し言葉にするのをためらうような内容なのだが、鬼怒川はまったく気にした様子はなかった。


 豪胆というか無遠慮というか、雑な性格なのは前から変わっていないようである。


「で、先輩はどうしたんですか?面白い事って……どれのことです?」


 周介の視線の先にはエアロバイクを漕ぎ続けている人型ロボットだったり、飛行するためにバランスをとっている人形だったり、銃の手入れをしている玄徳がいたりと、いろいろと鬼怒川にとっては物珍しいものがあるだろう。


 今までのラビット隊の中では見ていなかったものがあるだけに、どれが面白いことなのか判断できなかった。


「あれだよあれ、大太刀の人間と訓練し始めたって聞いたよ。射撃系の人間集めて古守さんが話してたの聞いてね」


「あぁ、そのことでしたか。まぁ、訓練って言っても、俺らの場合逃げ続けるくらいのことしかできないんで、半分的みたいな扱いですけど」


「いやいや謙遜しなくてもいいって。当てられないように動くってだけでも十分十分。でさ、ここに来たのはあれなんだよね、うちもその訓練参加できないかなってさ」


 鬼怒川の申し出に、周介は玄徳の方に視線を向ける。訓練に参加しているのは周介だけではない。玄徳もまた訓練に参加しているため周介の一存では決められない。


 というか、そもそも参加者を選定しているのは古守だ。周介たちが勝手に参加させたいからと言って参加させられるものでもない。


 何より、大太刀部隊の訓練場を借りて行っているのだ。勝手に使わせてもらうのは失礼にあたるだろう。


「どうでしょう……古守さんに聞いてみないことには……というか、鬼怒川先輩が訓練してるところって見たことないですけど……」


「それなんだよ。誰もうちと訓練してくれなくてさ……訓練してくれる人が暇なときくらいしかまともにできないんだよね。あとは全部自主練、こんなんじゃ腕も鈍っちゃうよ」


「それで俺たちに?俺たち滅茶苦茶弱いですよ?」


「何言ってんの。大太刀部隊の人間からちゃんと逃げ切ってる時点でそれなりに実力はあるよ。攻撃力はないかもしれないけど、それもそのうち補えるって」


 鬼怒川は快活に笑いながら周介の背中を叩く。励ましているつもりなのか、それともおだてているつもりなのか、どちらにせよ彼女からは悪意の類は一切感じなかった。


 単純な性格をしているためか、思ったことをそのまま口に出しているような、そんな感じがしているのは周介たちにも理解できる。


「玄徳はどうする?鬼怒川先輩が来るの」


「俺は構いませんよ。ただ兄貴の言うように、古守さんに一言伝えるべきだとは思います」


「だよなぁ。じゃあ鬼怒川先輩も一緒に来ます?もしかしたら参加できるかもしれませんし」


「よし!行く行く!久しぶりに思いっきり体動かせるよ!それに、古守さんに任せっきりにしてたからさ、ちょっと気がかりでもあったんだよね」


 もとより、周介の訓練は鬼怒川が頼まれたことでもあったのだ。それが彼女自身がまずいだろうと判断して古守に頼み込んだ形になる。


 本人はその辺りを若干気にしているようでもあった。とはいえ、周介たちが最低限のレベルに達してもいない状態で本格的な訓練を始められなかったのも事実だ。


 古守の訓練のおかげで周介の反応や能力の使い方は格段に上達している。


 そういう意味では彼女の判断は間違っていない。とはいえこれは彼女の感じ方の問題だ。こればかりは気にしないでくださいというほかない。


「ダメです」


 鬼怒川を伴って、古守に鬼怒川の訓練の参加を申し出た際の古守の第一声がこれだった。


 一考の隙間さえもなく、まさに即断、即答といった反応に、一番反応を示したのは鬼怒川だった。


「なんで!?みんなやってるのになんでうちだけダメなんです!」


「そもそも、貴女が私に彼を預けた理由をお忘れですか?貴女では加減ができないでしょう。危険すぎます」


「ちゃんと手加減するから!最近はそういうこともなくなって来たでしょう?」


「間違いなく百枝さんたちがひき肉になりますのでやめてください。時期尚早です。訓練を行う者だって、練度の低いものから順に選別しているんですよ?」


 ひき肉になるという不穏な単語が聞こえると同時に、相手を未熟な順から選別しているという事実にそうだったのかと周介と玄徳は古守が周介たちの技量も考えて相手を選んでいたということに感謝しつつも少し複雑な気分にもなる。


 練度の低いものからレベルを上げさせるというのもあるのだろうが、露骨に加減されているといっても過言ではないために周介たちからすると情けなくもなってしまう。


「大丈夫!ちゃんと加減しますから!何なら上半身だけとかそういうのでも行けますし!」


「ダメです。そんなレベルでは全然足りません」


「なら腕だけ!両腕だけならどうです!?それならちょっとくらいは」


「…………いいえダメです。それでもまだ足りません」


「じゃあ片方だけ!片方だけで相手すればちょうどいいんじゃないです?片方だけなら!」


「………………………………………………んん…………」


 古守はさすがにそれくらいの加減ならば大丈夫だろうかと悩んでいる。もう一押しだと鬼怒川は感じ取ったのか、にやりと笑みを浮かべて周介の背後に回り込むとその背中を押して古守の前に連れていく。


「ほら、百枝君も射撃系の相手ばっかりだと感覚鈍るでしょう?たまにはタイプの違う相手と戦うのもいい経験だと思うわけですよ!ね?ね?」


「え?あ……えっと……はぁ……」


 周介からすれば鬼怒川の実力がどの程度のものなのかわからないため、簡単に了承することもできず曖昧な返事になってしまう。


 とはいえ、鬼怒川と手を合わせてみたいというのも正直なところだ。もともとは鬼怒川に来ていた話であるため、鬼怒川がどの程度強いのかというのを知っておきたいというのもある。


 周介自身がそこまで強くなったという自信はほとんどないが、古守が危惧するほどの実力者相手にどの程度立ち回れるのかというのは知っておいて損はない。


「……………………………………わかりました。では一分だけです。一分だけ訓練への参加を認めましょう」


「よっしゃ!じゃ準備しますね!」


 一分。大太刀部隊との射撃と回避訓練は一回当たり五分だったが、その五分の一。一分程度の訓練しか認めないというあたり、古守はかなり鬼怒川の実力を認めているようだった。


 準備運動を始めている鬼怒川を横目に、古守は周介の肩を掴んで耳元に口を寄せる。


「百枝さん、悪いことは言いません。とにかく全力で逃げ続けてください」


 肩から伝わる古守の手の力と熱、真剣な声音から、周介は古守の言葉が本当の警告だと理解していた。


「……そんなにやばいんですか?」


「はい。片腕に制限するとはいえ、彼女の能力は強力です。おそらく、一歩間違えれば大怪我程度では済まないでしょう」


 大怪我では済まない。それがどういう意味を持っているのか周介だってわかる。


 命に関わるのだ。


 そしてその意味は、周りにいた大太刀部隊の人間の動きからも察することができた。


 先ほどまで訓練や雑談をしていた者たちが、こぞって部屋の隅、安全圏へと移動し始めている。


 つまり大太刀部隊の人間が守りに入らなければいけないほどの状況ということになる。だが一つ気がかりでもあった。彼女の能力がそこまで強力であることに違和感を覚えたのだ。


「でも、先輩は子供のころから能力を使えたって言ってました。能力の出力は、普通覚醒した時の年齢によって左右するものなんじゃないですか?」


 周介たちの能力の覚醒は、体に長い時間をかけて溜まり続けたマナが原因だ。溜まり続けたマナが許容限界を超えて、何とか消費しようとする肉体の反応が能力という形になって表れる。そしてその能力を発動したことで、体がその能力を代謝として学習してしまい、能力を扱えるようになるのが基本的な理屈だ。能力の出力は基本的にはマナの消費量で決まる。


 その理屈で言えば、子供のころから使えたということは、それほど鬼怒川のマナの許容量は多くないようにも思える。つまり内包できるマナが少なく出力も低いのではないかと周介は考えたのだ。


 だが、古守は首を横に振る。


「その考えは捨ててください。彼女は特別です。いいですね?逃げることだけを考えてください。彼女は……大太刀部隊の中でもトップクラスの実力者です」


 古守の真剣な声音に、周介は軽々と準備運動をしているただの女子高生のような外見の鬼怒川を見て、わずかに疑いの気持ちも持ってしまう。


 だが、古守がこれほど真剣に周介にそう告げているのだ。決してそれは嘘ではないのだということはわかる。


 逃げる。とにかく逃げる。


 自分ができることはそのくらいだ。周介はそう考えながらゆっくりと深呼吸して集中を高めていった。


 一歩間違えれば死ぬ。その意味を本当に理解するのは、もう少し後のことである。


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― 新着の感想 ―
[一言] ああ、そもそもこの訓練が必要ないのか。 なのにものすごくリスクが高いならやらせたくないですよね。 周介たちがもっと成長したあとならトップレベルの能力相手の訓練に意味があるんでしょうけど。 …
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